「ロシア疑惑」は捏造だった
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・トランプ氏のロシア疑惑、民主党陣営の捏造だったことを示すような新展開。
・大陪審、FBIにロシア疑惑を報告したサスマン弁護士を虚偽証言の罪で起訴。
・民主党ヒラリー選対に雇われていた同弁護士の提供した情報は虚偽認定された。
アメリカの共和党ドナルド・トランプ前大統領に対して突きつけられ、議会での大統領弾劾の手続きにまでいたった「ロシア疑惑」が実は政敵の民主党陣営による捏造だったことを示すような新展開がワシントンで起きた。
「ロシア疑惑」の逆転とも呼べそうだ。この疑惑を叫んでいた側こそが不正な工作をしていたという実態が疑惑を越えて、明るみに出てきたのだ。疑惑を広めた側の首謀者が実は虚偽の証言をしていた容疑で9月中旬、首都ワシントンの連邦大陪審で起訴されたのである。
ロシア疑惑といえば、トランプ前大統領陣営が前々回の2016年の大統領選挙中、ロシア政府と共謀して、選挙での投票を不正に操った、と断じる指摘だった。
だがトランプ政権を最初から悩ませたこの疑惑も核心のトランプ陣営とロシア政府との共謀については全面的にシロとなった。
真相解明のために司法長官から任命された特別検察官のロバート・モラー氏とその捜査陣が2年近くも徹底した捜査を続けたが、2016年の大統領選挙中にトランプ選挙陣営がロシア政府機関と共謀して、大統領選でのアメリカ有権者の投票を不正に操作したという糾弾に対してはその証拠はなにもなかったという結論を出したのだった。
ところが今回の展開では実はこの「疑惑」は当初から民主党組織の綿密な計算による選挙工作での虚構だったという証拠が提示されたのだ。
▲写真 ロバート・モラー特別検察官(2019年7月24日) 出典:Photo by David Hume Kennerly/GettyImages
この展開はバイデン政権下でも民主党対共和党の対立の構図に影響を与えかねない。
共和党側ではトランプ氏はなお人気が高く、同氏を中心にこれからの民主党との中間選挙やその後の次回の大統領選挙での戦いでも、トランプ氏への評価は大きなカギとなるからだ。
そのトランプ氏が実際には「ロシア疑惑」という無実の罪で追及されてきたということになれば、同氏への支持は単なる共和党保守層を越えて中間層にまで広がるという可能性も考えられるわけである。
ワシントンの大陪審は9月16日、ワシントンやニューヨークを主要拠点とする大手法律事務所のマイケル・サスマン弁護士を虚偽証言の罪で起訴したことを発表した。
この起訴はトランプ前大統領に対する「ロシア疑惑」の背景について政敵の民主党側の工作を疑った同政権のウイリアム・バー司法長官が2019年5月に捜査を任命したジョン・ダ―ハム特別検察官が同大陪審に提起した結果だった。
アメリカの大陪審は司法当局から任命された一般人の陪審員たちが検察側から示された容疑や証拠を審査して、法律に違反する犯罪行為があったか否かを判断し、刑事訴追の決定を下す権限を与えられている組織である。
その大陪審が公表した起訴状は以下の骨子を述べていた。
・サスマン弁護士は2016年9月、連邦捜査局(FBI)法律顧問のジェームズ・ベーカー氏に会い、ロシアの銀行がトランプ選挙本部と秘密の交信を重ね、アメリカ大統領選挙での投票の不正操作などの共謀工作を進めている、と報告し、その資料をも提供した。
・サスマン弁護士はこの情報提供は一市民の良心からだけだと主張したが、実際は同弁護士が所属するパーキンス・コール法律事務所の仕事として委託され、報酬を受け、実行していた。同事務所は民主党のヒラリー・クリントン選対本部と契約し、対抗するトランプ陣営の弱点などを調べる政敵調査を委託していた。
・サスマン弁護士が提供したロシア政府機関とトランプ陣営の「秘密協力の情報」も同陣営とされた組織は実はトランプ関連企業に物資を調達するだけの外部機関で情報自体が虚偽だった。同弁護士はこの虚偽情報を大手メディアに事実として伝え、報道させることに成功した。その間のすべての活動はクリントン選対への提供業務として代金支払いを受けていた。
以上の起訴状では実名の出なかったロシア側銀行は実はアルファ銀行であり、虚偽情報を報道したアメリカの大手メディアはニューヨーク・タイムズなどだったことがダ―ハム特別検察官周辺からその後、明らかにされた。
パーキンス・コール事務所はトランプ氏へのロシア疑惑のもう一つの原因となった「スティール文書」の作成にも資金を出すなど関与していた。クリストファー・スティールというイギリス政府機関の元諜報部員が作成した同文書はトランプ氏とロシアの結びつきを述べていたが、その内容のほとんどは虚偽だと証明された。
同法律事務所もサスマン弁護士も政治的には長年、民主党支持の立場を明確にしており、2016年の大統領選でも当初からクリントン選対の法律、政治関連業務を全面的に請け負っていた。
ダーハム特別検察官は任命以来、2年余りの間に政権が交替したが、なお捜査を続ける方針を宣言している。
今回の起訴状の内容から判断する限り、「ロシア疑惑」は2016年の大統領選挙戦で民主党候補のヒラリー・クリントン陣営が政敵のトランプ候補の不利にするために捏造した虚偽情報だった、ということになる。
ダ―ハム特別検察官はなおサスマン容疑者の犯行に関与した他の関係機関や人物の役割にも多数、言及しており、捜査のこんごの拡大が予測される。
トップ写真:トランプ前大統領(2019年4月18日) 出典:Photo by Joe Raedle/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。