河野元防衛大臣に防衛戦略なし
照井資規(ジャーナリスト)
【まとめ】
・河野元防衛大臣の言動からは防衛戦略がないことが伺える。
・日本国周辺は先進国で地政学上最も危険な状態。弾道ミサイル対処には二の矢を抑える実力の保持が必須。
・最も日本の平和を維持できるのは、高市早苗氏である。
感染症蔓延の収束後は混乱・混迷から分断と対立が生じ、戦争が起きることは歴史の恐るべき証明である。新型コロナウイルス感染症による感染者は2億3462万7千330人、死亡者数479万7千562人(10月4日現在)と史上最多となり、世界経済に数百億ドル規模の損失も及ぼしてきた。
この人類の歴史上最悪の感染症の収束の次に訪れるものは、同じく史上最大規模の分断・対立・戦争であろうことは想像に難くない。戦争といっても兵器による殺傷に限らず、情報戦、サイバー戦、経済的戦争も含むもので、兵器による殺傷以外は既に交戦状態にあると言っても過言ではない。コロナ禍の次に訪れるであろう国際的な対立は大筋として、技術力に乏しいが経済力豊かな中国と、軍事技術の蓄積はあるが経済力が韓国の次席であるロシアとの結びつきと欧米との対立であり、インド洋から東アジア地域の安定は日本の負担となるだろう。
ミャンマーが内戦状態となった場合の地上戦への介入は自衛隊が担うであろうし、海外で戦闘を行えば、報復として国内でのテロも相対的に増えていく。この国家間の衝突に、オスマントルコ帝国の復興を目論むISILなどの武装勢力、アフリカ大陸の利権争いなどが重なる混沌とした時代を迎えるであろう。
日本国周辺は先進国で最も危険な状態
▲図 出典:筆者提供
図にあるとおり日本は、民主主義指数の下位国でかつ核兵器保有国でもある3国に隣接しており、先進国の中では地政学上最も危険な状態にある。
専制国家や独裁国家のような、民意を政治に反映させない非民主主義国家間が最も戦争が発生しやすい。その次に戦争が発生しやすいのが、民主主義国家と非民主主義国家間である。北朝鮮の民主主義指数は最下位だ。
9月10日、中国海軍とみられる潜水艦が奄美大島周辺の接続水域内を潜没航行した。北朝鮮は13日には新型巡航ミサイル、15日には弾道ミサイル2発を発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下させた。新型巡航ミサイルは1500kmを航行可能であるものの、飛行速度は時速700km~1000km程度であり現行の迎撃システムで撃墜可能である。9月28日には当月5発目となるミサイル「火星8」を発射した。北朝鮮は「新型極超音速ミサイル」と発表したが、速度はマッハ3程度と遅く約200kmしか飛翔せずに日本海に落下した。
この中で問題であるのは新型弾道ミサイルで、飛翔距離が750kmであるため西日本が射程に入る。それだけの脅威があるミサイルを政府は当初、落下場所を日本のEEZ(排他的経済水域外)と発表したものの、後になってEEZ内と修正した。これは自衛隊は低高度(50km)で当初は放物線を描き下降途中に再び上昇して目標に命中する低軌道変則飛翔型のミサイルが飛来した場合、ミサイルを見失う可能性がある探知能力の限界、防空上の欠陥を暴露したおそれがあるということだ。しかも今回は貨物列車に偽装した移動式発射台が用いられた。道路を異状に大きなトラックが走行していれば非常に目立つが、貨物列車が線路上を走行することは自然である。また、戦闘時の道路上は様々な車両が混雑するが、線路上の列車は統制が容易であるから、ミサイル発射時の部隊運用も容易に行える。列車による移動式発車台は移動時の偽装と部隊運用が容易であることが脅威の本質である。大型車両による発車台も実際の発射時は森の中に隠し、偽装網などの人工物や草木などの天然の素材で偽装する。しかし、赤外線で空中写真を撮れば、人工物による偽装、刈り取られた草、伐採された木と自然に生えている草木との判別は容易に行える。草の上を走行した轍も同様であり。車両による移動の痕跡を消すことはかなり難しいものなのだ。それならば、平時の貨物列車に偽装してしまう方がよほど簡単との発想の転換によるものだ。
貨物列車で可能であればコンテナ船を洋上ミサイル発射基地に偽装することもできよう。そうなれば、日本列島全部が射程圏内に入ることになる。北朝鮮はより厄介な戦略ミサイルシステムを装備したと言える。さらに、国連の国際原子力機関(IAEA)は8月27日、北朝鮮が核兵器用のプルトニウムを作り出せる原子炉を、再稼働させたとみられると発表した。北朝鮮による核兵器の脅威もまた増している。
弾道ミサイル対処には二の矢を抑える実力の保持が必須
ロシア、中国も極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)は配備済と見られている。極超音速巡航ミサイル(HCM:Hypersonic cruise missile)も近い将来配備されるであろう。現在の弾道ミサイル防衛システムは未来位置を特定できる放物線の弾道であるから迎撃できる。変則軌道はそれができない。そこで必須となるのが敵基地攻撃能力である。初矢を止めることは不可能に近い。しかし、最初の一撃で目的を達成することはできないのが戦闘である。続いて撃てなければ手痛い反撃をされてしまい攻撃の成果よりも被害の方が上回ってしまう。故に北朝鮮が列車発車台を退避させるトンネルの入り口を潰してしまうなど、二の矢を抑える実力があれば先制攻撃を行う意志を抑えることができる。
この実力の整備については米ソ冷戦時代の「ミサイルギャップ」のように過剰に防衛費をかけてしまうおそれがある。非民主主義国家の軍事力とは不明であるから、どこまでの備えをすれば良いものか判断に迷うからだ。そのために他国と協力しての情報収集が必要となる。また、情報収集能力は敵基地攻撃の実力以上には決して成り得ない。
▲図 出典:筆者提供
この能力保持について自民党総裁選候補者の発言をまとめたものが表だ。岸田新総理が誕生したが、他の3候補も要職に就きそれぞれの国土防衛の方針は相互に影響し合うであろう。中でも、野田氏、河野氏が述べる情報収集能力の強化は論外である。敵が弾道ミサイル発射の企図を暴露することなど無い。偵察活動で敵状が判明するのは良くても30%程度だ。始まってみなければ判らないのが戦闘である。
とても元防衛大臣の発言とは思えないのが河野氏である。本来であれば「敵国が多数のミサイルを配備しているので、敵基地攻撃能力を持たないと、パワーバランスを欠きかえって不安定要因になる」が常識である。他の防衛に関する発言を見ても「できない理由、やらない根拠」を当たり障りなく述べる、自衛隊幹部が業務を回避するかのような典型的な言動が目立つ。自民党総裁選候補者時の発言から比較すれば、最も日本の平和を維持できるのは、他候補に大差をつけて高市氏であることは明白であることが判る。
トップ画像:2019年8月、外相として国務大臣会合に出席した河野太郎氏 出典:Photo by Wu Hong – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
照井資規ジャーナリスト
愛知医科大学非常勤講師、1995年HTB(北海道テレビ放送)にて報道番組制作に携わり、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、函館ハイジャック事件を現場取材の視点から見続ける。
同年陸上自衛隊に入隊、陸曹まで普通科、幹部任官時に衛生科に職種変更。岩手駐屯地勤務時に衛生小隊長として発災直後から災害派遣に従事、救助活動、医療支援の指揮を執る。陸上自衛隊富士学校普通科部と衛生学校にて研究員を務め、現代戦闘と戦傷病医療に精通する。2015年退官後、一般社団法人アジア事態対処医療協議会(TACMEDA:タックメダ)を立ちあげ、医療従事者にはテロ対策・有事医療・集団災害医学について教育、自衛官や警察官には世界最新の戦闘外傷救護・技術を伝えている。一般人向けには心肺停止から致命的大出血までを含めた総合的救命教育を提供し、高齢者の救命教育にも力を入れている。教育活動は国内のみならず世界中に及ぶ。国際標準事態対処医療インストラクター養成指導員。著書に「イラストでまなぶ!戦闘外傷救護」翻訳に「事態対処医療」「救急救命スタッフのためのITLS」など
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