中国軍艦に勝てなくなった台湾海軍
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・ 台湾海軍は中国海軍に対する勝ち目はすでになくなっている。
・ 主力の成功級フリゲートでは中国軍艦に勝てない。
・ 蔡政権下では新型武器への更新は難しい。
台湾と中国の軍艦が戦えばどうなるのだろうか。台湾海軍の勝ち目はすでになくなっているのではないか。
台湾は米国製兵器を用いて中国と対峙している。数で勝る解放軍に兵器の高性能で対抗しようとしている。だが、海軍分野では米国製兵器の性能優位は失われつつある。中国軍事力とくに海軍力が成長した結果だ。
もし両者が戦えばどうなるか。米国製兵器を搭載した台湾軍艦が現用の中国軍艦と戦えばどうなるだろうか。
台湾の敗北に終わる。台湾軍艦は同等の中国軍艦に対して不利にある。
■ 成功級vs054A型
台湾の成功級フリゲートでは中国054A型フリゲートには勝てない。結論から示せばそうなる。
前者は米ペリー級の台湾建造型だ。別に購入した中古艦2隻を含めて計10隻と台湾艦隊の主力となっている。後者は同規模の中国軍艦である。こちらも2008年から30隻が就役しており中国艦隊の数的主力である。
▲写真 中国海軍の多目的フリゲート艦Hengshui。2016年7月28日の環太平洋合同演習にて。054A型は成功級と同規模のフリゲートである。だが計画に30年の差があり搭載武器も2世代は新しい。 出典:Photo by Petty Officer 1st Class Ace Rheaume
両者が戦えば成功級は敗北する。一対一の戦いでもそうなる。水平線距離以遠での戦い、水平線距離以内での戦い、砲戦距離での戦いのいずれでも不利だからだ。
■ 超水平線距離での戦い
成功級不利の一つ目は水平線距離以遠での劣勢である。互いに視認できない距離、40km以上の戦いでは勝ち目は薄い。
これは攻撃や迎撃に用いるミサイルの性能で劣るためだ。
結果、戦闘は一方的となる。先攻は054A型となる。その攻撃を成功級は凌ぎきれない。仮に成功級が生き残り反撃しても効果は見込めない。054A型は完全迎撃するからだ。
仮に距離250kmで相対したとしよう。軍艦に搭載したヘリコプターで互いを発見した。そのうえで接近して互いの軍艦を沈めようとしている状態である。この場合、最初に攻撃するのは中国側である。054A型が8発搭載する対艦ミサイルYJ-83の射程は200km超とされる。対して成功級が4発づつ搭載する雄風2型・3型は150~130km級だ。
成功級は先制攻撃を防ぎきれない。迎撃手段のSM-1ミサイルは旧式であり誘導装置も2組だけだ。レーダでYJ-83を探知してから被弾までは約100秒である。その間に連続2発発射の迎撃は3回がいいところだ。また撃ち漏らしも出る。いずれにせよ大砲ほかでの迎撃まで追い込まれる。
▲写真 SM-1のダミーミサイル。旧式であり終始誘導が必要で1発射つと命中するまでは次弾は撃てない。誘導装置は艦橋上の卵型レーダ内部と艦橋裏のマーカライト風の2つある。ただ成功型は同時並行に使えるかは不明。 出典:Photo by PH1 Jeff Hilton, USN、Defense Visual Information Center – U.S. Department of Defense (DOD)
仮に成功級が生き残って反撃したとしよう。距離150kmまで近づき雄風2型・3型を発射したとする。
この反撃は成果を挙げえない。
中国側は高確率で完全迎撃するためだ。054A型が迎撃に使うHHQ-16ミサイルは比較的新しい。8発の攻撃には8発以上の釣瓶撃ちで対応できる。とりあえずの位置に向けてミサイル8発を発射しておく。そのあとで飛行中のミサイルを2~4発づつ順番に精密誘導する。まずはそのような迎撃ができる。
■ 水平線距離での不利
二つ目は水平線以内での不利である。さらに近づき距離40km以内なって以降の戦いである。
ここでも迎撃ミサイルにある同時交戦数の差が出る。
海軍用の迎撃ミサイルは軍艦相手にも利用できる。SM-1にはその機能がある。またHHQ-16にもまちがいなくある。相手軍艦が見える距離なら攻撃に利用できる。そのため台湾側は不利となる。成功級は一度に2発の攻撃しかできない。対して054A型はその間に8発以上を発射できる。
台湾の勝ち目は先制撃破だけだ。相手が発射する前に命中させるしかない。だが、機先を制するは054A型である。レーダー性能や軍艦自動化でも中国側が上だからだ。
■ 砲戦での不利
三つ目は砲戦距離での不利だ。1つ目と2つ目の劣勢を切り抜けても成功級の不利は続く。
砲そのものは同等品である。どちらも3インチ砲と呼ばれる口径76ミリの自動砲である。砲弾威力も射程も発射速度も大差はない。だが、その設置位置から成功級は不利である。主砲は艦橋と煙突に挟まれた場所にある。そのため射撃範囲は狭く横方向しか撃てない。前後方向には撃てないのだ。
伝統的配置の054A型とはまともに戦えない。まず無理な姿勢を作らなければ射撃できない。またそこから行動の自由度も低くなる。そのため有利な射撃位置にもつけない。
▲写真 成功級の主砲は艦橋と煙突に挟まれた場所にある。対空砲や警備用として搭載しており砲戦や艦砲射撃での役割は期待されていない。写真は張騫艦での搭載状況。(9 March 2017) 出典:Photo by 玄史生 Public Domain
■ 問題改善の見込みはない
成功級では054A型には勝てないのである。
もちろん、一対一で戦う状況に現実味はないだろう。
だが、そこに現実味を加えると台湾の不利はさらに深まる。数的劣勢を加味すると戦いは成功級1隻と054A型2隻といった形になる。
また、成功級の不利は現実にも影響する。「中国本土に近づけない」「対水上戦投入は避ける」としても影響はつきまとう。南シナ海遠方での戦時監視や対潜戦でも「もし054A型と遭遇するとどうなるか」は問題となる。
この不利を覆すのは難しい。
解決法そのものは存在する。一番いいのは米国製最新ミサイルへの更新だ。問題の大部分を占めるSM-1をESSMブロック2に入れ替えればよい。そうすれば8発以上の攻撃にも連続迎撃できるようになる。
ただ、実現はしない。いまの蔡政権のままでは見込みは立たない。その独立性向や対中強硬態度から中国は最新武器の売却に徹底反対する。そのため米国は売却を許可できない。また売却を決めても引き渡しはしない。
▲写真 航空母艦USSカールヴィンソンがシースパローミサイルを発射(2002年1月5日)成功級の不利はESSMブロック2搭載で改善する。誘導負担は小さいため多数連続発射が可能となる。またブロック1だが豪海軍同型艦への改装搭載例もある。 出典:Photo by Mai/Getty Images
トップ写真:成功級は台湾艦隊の主力である。就役から30年が経つが性能優良で使い勝手もよいため評価されている。いない子あつかいされる仏設計の康定級とは対照的である。 出典:岳飛艦、「軍艦介紹 成功級飛弾巡防艦」『中華民国海軍』
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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター
1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。