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.政治  投稿日:2021/4/25

ASM-3の生産は限定的となる


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・国産ミサイルASM-3は中国軍艦に通用しない。

・JSMミサイルとの比較で超音速ミサイル選択の誤りが明らかになる。

・このためASM-3の生産は限定的となる。

 

国産超音速ミサイルの生産は限定的となるのではないか。

防衛省はいまなおASM-3開発を続けている。これは艦船を目標とするマッハ3級の国産対艦ミサイルである。最初に開発されたXASM-3は生産見合わせに終わった。だがその改良型の開発は今なお続けられている。

その生産配備も求めている。去年にはASM-3Aの調達が要求された。能力不足とされたXASM-3を暫定生産する話である。(*1) また開発中の改良型もASM-3(改)として将来生産する前提を崩していない。

このASM-3は目論見どおり生産・配備できるのだろうか。

まずは厳しい。中国軍艦に通用しない。その点で日本が抱えている問題を解決しないからだ。それが今後調達されるJSMミサイルとの比較で明らかとなる。仮に生産しても数量は極めて限定的となるのである。

 中国軍艦に通用しない

日本の対艦ミサイルが抱えている問題は何だろうか。

それは中国艦隊への対応能力である。

中国軍艦はここ20年で大幅な性能向上を遂げた。特に052C/D型055型の中華神盾システムはイージス・システムに匹敵すると言われている。

▲写真 日本海へ向けて航行している一番艦「南昌」(2021年3月18日 下対馬の南西約250キロ)。055型駆逐艦の1番艦であり排水量1万トンは越える。防空システムは中華神盾である。 出典:防衛省・統合幕僚監部

そのため従来の対艦ミサイルは通用しがたくなった。米国製のハープーンや国産のASM/SSM-1、ASM-2では力不足である。そう認識されている。

ASM-3はその解決策として選択された。マッハ3の高速で迎撃を困難にする。その発想で開発が進められている。

だが、このASM-3でも中国軍艦には通用しない。

なぜなら超音速ミサイルでも迎撃できるからだ。自動化された迎撃システムはマッハ3程度のミサイルには充分対応できるのである。

これは中国側研究で明らかである。マッハ0.7~0.8の従来型対艦ミサイルをマッハ2~3級に変えてもあまり効果はない。自動化システムを持つ軍艦はそれでも迎撃してしまう。迎撃撃破されるミサイルの数は3割程度しか減らせない。つまり3割の効果しかないとされているのである。(*2)

つまりASM-3は055型や052C/Dには通用しない。安価な054Aにもまずは通用しないのだ。

 米国はステルス・ミサイルを選択

では、どうすればよいか。

米国はステルス型ミサイルで対処しようとしている。レーダほかで発見しにくい。そのような対艦ミサイルで問題解決をはかっている。

見えないミサイルは迎撃できない。レーダや逆探でミサイル攻撃を探知できないので迎撃できない。運良くミサイルを見つけても照準が難しい。どうにか照準発射しても迎撃ミサイルが目標を追尾できない。そのような事態を期待できるのである。

そのためNSM/JSM導入を決めた。これはノルウェーが開発したステルス型のミサイルである。前者は軍艦やヘリコプター、陸上向けであり、後者はF-35F戦闘機ほかで利用される。

▲写真 NSMミサイル。米海軍は従来のハープーンに変わる艦対艦ミサイルとして選定した。分布式殺傷コンセプトから補給艦ほかにまで搭載するとされている。 出典:米海軍写真(撮影:Zachary D. Bell)

その特徴は次の3つである。

第1はステルス形状である。特に軍艦に正対するミサイル先頭部は徹底されている。クサビ状にされレーダ電波を軍艦に返さない。また速力も抑えており空気抵抗や排気熱で生じる赤外線放射も少ない。

第2に電波を出さないことだ。ミサイルはレーダではなくカメラ映像で軍艦を探す。正確には2波長併用式の赤外線画像誘導である。このため軍艦はミサイル電波の逆探知ができない。ミサイルを見つける有力手段が封じられるのだ。(*3)

第3は極超低空の飛翔だ。NSMは攻撃段階では高度3m以下、状況が許せば1mの高さで飛ぶ。それによりレーダ探知はさらに困難となる。電波地平線、海面乱反射、マルチ・パスに加えダクティング、干渉縞効果も期待できるからだ。これらの効果は以前の記事で述べたとおりである。(*4)(*5)

NSM/JSMの探知はむずかしいのである。特に軍艦レーダでの探知は特徴の第3から相当に厳しいのである。

▲写真 JSMミサイルの運用想像図。NSMを元にした戦闘機搭載用の空対艦型対艦ミサイルである。いまのところF-35で運用できる対艦ミサイルはこのJSMとLRASMだけとなる見込みである。 出典:製造元のKongsberg Defence & Aerospace ASホームページより

 比較されると保たない

このJSMミサイルは日本も導入する。F-35A/B型に積める対艦ミサイルはそれしかない。

ASM-3は今後JSMと較べられるのである。

この比較は何をもたらすか。

超音速ミサイル選択の誤りが明らかになる。

なによりも問題を解決できないことが明白となる。超音速と探知困難のどちらが有力であるか。それを一度でも詰められればそうなる。超音速は迎撃可能であり、さほどの効果は期待できない。それが明らかになるのだ。それによりASM-3は顧みられなくなる。

付け加えれば超音速採用の不便も明らかとなる。巡航高度は10m以下にはできないため発見されやすい。また重量級であり戦闘機には1-2発しか積めない。その上で炸薬量も少ない。なによりも高価である。これも以前に述べたとおりである。(*6)

だから生産は限定的となる。実際に作っても開発失敗を認めないための生産である。「国産開発したのに生産しないのは開発費の無駄遣いである」。その批判を避けるための極少数生産にとどまるのである。

 

(*1) 続報はない。防衛省は年末に「取得経費を令和3年度予算案に計上することを[防衛省は]決定した」と発表した。

https://www.mod.go.jp/j/press/news/2020/12/25a.pdf

だが成立予算には特に記載はない。

(*2) 郭棟ほか「美海軍分布式防空作戦能力仿真分析」『指揮控制与仿真』42.6(中国船舶集団七一六研究所,2012.12)pp.107-111.

なお高速性能で軍艦を出し抜くにはマッハ6~8が必要とされている。

(*3) カメラ誘導の効果はそれだけではない。ミサイルは画像認識と内部データベースを利用し目標艦船を正確に識別する。そして目標艦船に設定された弱点に向かって飛んでいく。命中精度は目標点の1m以内である。その上で爆発タイミング設定も可能となった。大型の艦船なら船体内部で爆発できるように遅めに、小型なら早めに爆発する調整である

(*4)「改良型も不首尾なASM-3」https://japan-indepth.jp/?p=46144

(*5) なお、目標接近まではなるべく陸上を飛ぶようにもされている。山陰を利用し複雑地形のレーダ反射に紛れるためだ。このような飛行経路はNSM内部のコンピュータで自動設定される。

(*6) 「国産ミサイルはいらない」https://japan-indepth.jp/?p=38372

(*7) 結果、日本の対艦ミサイルは超音速から亜音速に回帰するのである。その仔細については次の記事で示している。

文谷数重「対艦ミサイルは『亜音速』で十分だ」『軍事研究』662 2021年5月号(JMR,2021年)pp.66-77.

トップ写真:新空対艦誘導弾(XASM-3)の発射試験の様子 出典:防衛装備庁技術シンポジウム2018年発表要旨より




この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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