空自からも見限られたASM-3
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・国産超音速ミサイルASM-3の開発の先行きが暗い。
・海自に加えて空自からも見放されている
・防衛省の興味も別のミサイルに移っている
国産超音速ミサイルは見限られたのではないか。
日本はASM-3の国産開発を続けている。これは飛行機から軍艦を攻撃する武器でありマッハ3の超音速で飛行できるミサイルだ。
だが、その先行きは暗い。なぜなら空自戦闘機への搭載からの排除が決まったためだ。ほかにも海自が装備に冷淡である。そして開発計画の露出も減っている。
まずは打切りとなる。形だけ開発を終え20発程度を生産して終わるだろう。
■ 戦闘機搭載からの排除
ASM-3の先行きは怪しい。
その理由の一つ目の理由は戦闘機搭載からの排除だ。つまり空自からも愛想をつかされているのである。
F-15の改修報道からそう窺える。*1
改修事業では米国製対艦ミサイルLRASMへの対応とりやめが決まった。これは価格高騰問題の影響である。
その代替として国産ミサイルを搭載検討が決まった。
だが、そこではASM-3や改良型の言及はなかった。本来なら提示されるはずだがそれはなかった。
提示されたのは12式改良型のみだ。これは音速以下で飛翔する亜音速ミサイルである。しかも「12式改良型ほか」といったように「ほか」もつけず単独で言及した。
空自はASM-3を選ばず12式発展型を選んだ。そう見取れるのである。
▲写真 ASM-3は防衛産業への配慮から本来なら空自F-15改修型の搭載対象となるはずである。だがその対象とはされていない。写真は改修型と同水準と目されるF-15EX。(撮影:U.S. Air Force photo by Ethan Wagner:U.S.Air Force)
■ 海自の無反応
二つ目は海自の無反応である。ASM-3は国産兵器である。それでありながら護衛艦発射型の整備どころか哨戒機に搭載する話も出ていない。
普通、対艦ミサイルは派生型が作られる。部品追加や小改造で艦艇発射型や陸上発射型が安価簡単に作れるからだ。
例えば米ハープーンは潜水艦発射型まで発展した。まず空中発射型にブースターだけを追加した艦艇発射型や転用の陸上発射型が作られた。そのうえで艦艇型をカプセルに封入した潜水艦向けの水中発射型も生産された。*2
▲写真 ハープーンの艦艇発射型は2種類あった。剥き出しの弾庫収納型と写真のキャニスター封入型である。両者は尾部金物が違っており重量も異なる。 米海軍写真(DVIDS : U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Kevin V. Cunningham/Released)
仏エグゾゼも諾NSMもさらには日ASM-1も同様である。エグゾゼも水中発射型まで作られた。NSMは艦艇・ヘリ・陸上発射型から逆に戦闘機搭載型JSMが作られた。ASM-1も陸自向けや海自向けの各タイプが開発生産された。今回でてきた12式もその一つである。
▲写真 LRASMの代替は明示的に12式発展型とされている。そこにASM-3の語はない。写真は自走式発射器から発射される12式地対艦誘導弾。(陸上自衛隊Flickrより)
だが、ASM-3には派生型が作られる見通しはない。現今に至るまで海自向けの艦艇発射型の話はないからだ。
つけ加えれば海自は航空発射型の採用すら言及していない。以前のASM-1では国内防衛産業との義理からASM-1Cとして採用し購入した。だがASM-3では義理でも買うつもりもないのだ。
海自はASM-3を全く相手にしていないのである。
■ 露出減少
三つ目は露出の減少である。
ASM-3の露出は大幅に減った。これは未調達に終わった原型だけではない。暫定生産型とされるA型や長射程の改型を開発する話も最近はまったく出ない。
暫定生産の話はどうなっているかはわからない。昨年12月末になって突然「ASM-3A型として21年度予算に計上する」との話が出た。ただ政府予算案閣議決定以降の報道である。また少なくとも2021年度の成立予算にはその語は特に出てこない。*3
長射程型となるASM-3改も概要発表がない。昨年には契約行為は終わっている。契約した以上は改良内容も確定している。そうでなければ契約額は出せないからだ。だが、それにも関わらず具体的な改良内容は提示されていない。*4
露出しているのは別のミサイル開発・整備である。対艦・対地ミサイルでは記述した亜音速の12式改良型だ。
これもASM-3は見限られたと判断する理由である。防衛省の興味は別に移っている。だから広報による予算確保の努力は注がれていないのである。
あるいは忌避もあるだろう。ASM-3系は筋悪である。だからあまり触れたくない。そのような雰囲気もおそらくはある。
■ 20発作って終わり
そもそもASM-3ほかの超音速ミサイルに未来はない。これは従前に述べたとおり。
実際に米海軍では新型亜音速ミサイル導入が進んでいる。超低空・ステルス・終末高機動で軍艦側の迎撃防御をかわすNSMミサイルだ。転用型を除き超音速対艦ミサイルの調達はない。
日本もそれに気づいている。防衛省が進める12式改良は亜音速重視である。また極超音速ミサイルの開発も同じだ。高速性能で艦隊の迎撃をかわすにはマッハ3では足りない。ロシアや中国ではマッハ6~8が必要とされている。その認識に防衛省も従った結果だ。
だからASM-3の本格生産はない。
原状は敗戦処理の一過程にある。運用側や予算部局はすでに見限っている。射程延伸型も開発側の面子で延命を図っているあたりだ。
ただ、生産はする。「開発して生産せず」では開発費用は国損つまり無駄となる。それを避けるため形ばかりの調達が行われる。
数にすると20発前後だろう。高額であり使いにくいミサイルである。1ヶ飛行隊の約半分である8~12機分+として20発少々であり作ってもまずは30発は超えない。
*1 「対艦ミサイル搭載見送り 空自F15 改修費増で」『日本経済新聞』2021年8月5日
「防衛省は5日、航空自衛隊のF15戦闘機に搭載する計画だった対艦ミサイル「LRASM」の導入を見送ると発表した。[中略]国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」を改良して戦闘機に組み込む代替策も進める。」
*2 艦艇発射型の対艦ミサイルはそのまま陸上発射できる。発射システムも大したものは必要なく直接照準と直接発射にも対応している。車載運用するとしてもさおだけ屋式に搭載すればよい。
*3 好意的に判断すれば「もともと21年度予算案に含まれていた」あるいは「政府予算案の弾薬購入費の枠内での調達を認めてもらう」程度の意味かもしれない。
*4 内容的にはさほどでもない。ミサイルを延長あるいは弾頭を小型化して燃料タンク容量を増やす。あるいは燃料の容積あたり熱量が大きい高比重燃料を使う。例えばJP-10やRJ-5燃料を使う。その程度だ。
トップ写真:F-2戦闘機に搭載されるASM-3。開発段階のためXASM-3と呼称されていた。2017年5月31日 岐阜基地 (撮影:Z3144228)CC BY-SA 4.0
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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター
1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。