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.国際  投稿日:2021/10/11

仏大統領選、ゼムール氏急浮上


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

フランスの2022年大統領選挙に向けて各候補者が選挙活動を開始する中、極右的主張の評論家エリック・ゼムール氏が大きく支持を伸ばしている。

ルペン氏とゼムール氏は「移民」と「安全」に関しては一致している点が多いが、「社会」「女性」「同性愛」に関しては二人の方向性は異なる。

現在、現職マクロン大統領、ゼムール氏、ルペン氏が優勢となっているが、大統領選挙6か月前の調査結果であり、今後の展開が気になるところだ。

  

現在フランスでは、2022年4月10日から行われるフランス大統領選にむけ、各候補者が選挙活動を開始している。

フランスの大統領選挙は単記2回投票制だ。もし、1回目の登場で絶対多数(有効投票総数の50%プラス1票)を得た場合は、1回で選出されるが、どの候補者も絶対多数を得られなかった場合は、上位2人の候補者の間で第2回投票が行われ、最も多数の票を得た候補者が当選する仕組みだ。

2017年の大統領選挙では、最終的に、中道「共和国前進」を設立したエマニュエル・マクロン氏と、極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏の一騎打ちとなり、そして今回も同様の展開になるだろうとみられてきた。しかしながら、ここにきて極右的主張の評論家エリック・ゼムール氏が大きく支持を伸ばしてきており、予想外の展開を見せ始めている。

ゼムール氏は、フィガロ紙のコラムニストやニュース専門テレビのコメンテーターを務め、知名度が高い人物だ。大統領選に正式な出馬はしていないが出馬の意向をしめしている。そして、現在、急激にその人気度を高めているのだ。6日に行われたフランスの経済誌シャランジュが行った大統領選の第1回投票を想定した世論調査では、現職マクロン大統領に次ぐ2位となる人気を集めた。ルペン氏の支持率が下落し、ゼムール氏の支持率がルペン氏を上回ったのである。

この結果を受けてか、いままでゼムール氏について言及してこなかったマクロン氏も間接的にゼムール氏について言及するようになり、またそれまで心配する様子などを見せていなかったルペン氏も「競争相手」と設定し、ゼムール氏との違いについて発言するようにもなってきた。

▲写真 マクロン対ルペンのテレビ討論会を見る支持者たち(2017年5月03日) 出典:Chesnot/Getty Images

ルペン氏とゼムール氏の共通点、相違点

ルペン氏とゼムール氏には確かに共通点が多く、票を奪い合う状況になっていることは否めない。特に、「移民」に関しては一致している点が多い。ルペン氏も、ゼムール氏の「移民」と「安全」に関する内容自体は2012年、2017年のルペン氏の選挙プログラムで言ってきたことと同じだと述べている。

しかし、ゼムール氏は、特に移民に関して過激な言葉を使うことで、より多くの人々の関心を引きつけている。過去には人種差別的発言で物議を醸したこともあるゼムール氏は、「不法移民だけでなく合法な移民の受け入れもやめるべきだ」「40年間移民を拒否してきた日本が、未来のフランスのモデルだ」「子供にフランス風の名前を付けさせるべきだ」などの発言で人気を集めているのだ。それに伴い、新著は9月の発行から10日余りで14万部を売り上げ、ベストセラーにもなった。また、ルペン氏の実父ジャンマリ氏は、ゼムール氏の言っていることは彼の考えと一致しており、ルペン氏よりも支持率を上げた場合にはゼムール氏を支援するという考えも示したのである。

一方、ルペン氏は、実父の国民連合の前身「国民戦線(FN)」創設者のジャンマリ氏と決別し、極端な人種差別的発言が多かったジャンマリ氏時代のイメージを払拭する「脱悪魔化」を進めてきた。その結果、2017年にはマクロン氏との一騎打ちとなるまでに至ったのだ。しかし、現在は、ゼムール氏の躍進を受けて、専門家からは「軟化戦略は逆効果だった」という声が上がっている状況だ。

「社会」「女性」「同性愛」に関しては二人の方向性は違う。ゼムール氏は会社が払う税金を下げるなど、企業に寄り添った考えを示している。一方、ルペン氏はガソリン税を下げたりなど、庶民を対象としている。また、ルペン氏は、女性に寄り添う姿勢をもち、同性愛も容認している。反イスラーム主義的姿勢に舵をきっているのも、イスラーム系の移民が同性愛に反対しているためでもある。しかし、ゼムール氏は、フェミニストに向けた批判も多く、女性に対して厳しい面が目立つ。また同性愛者に対しても否定的だ。

いずれにせよ、現時点ではゼムール氏は、まだ出馬表明もしておらず選挙プログラムも出していないので、あくまでもそう発言しているという段階である。

フランスメディアがゼムール氏に熱狂している

しかし、ゼムール氏に一番熱狂しているのは、フランスのメディアかもしれない。

フランスでは平時より、政治家のテレビ上での発言時間は、CSA(放送行政監督機関)の監督の元、計測の対象になっている。政治的な立場が違う人々の意見が公平に流されることを目的とし、テレビ局は発言時間が一定に分配されるようにする規則だからだ。ゼムール氏に関しても、出馬してはいないものの政治的な議論の当事者とみなされ、テレビ局における発言時間の計測も開始されている。この結果、毎日出演していたニュース専門地デジ局CNewsへ出演も今まで通りにはできなくなった。

しかし、SNSではその様相が違う。例えばツイッターに流れるメディアのツイート量は、明らかにゼムール氏についてが突出しているのである。このためテレビではそれほどでもなくても、ネットでニュースを追っていると自然にゼムール氏のニュースを目にする機会が多くなっているのだ。

9月7日から10月7日までの各局のツイート数は下記になる。ちなみに、マクロン大統領は正式に選挙に立候補しておらず、そのほとんどが大統領としての活動に関連したツイートであるため、カウントからは除外されている。

【BFMTV】

エリック・ゼムール 432件

マリーヌ・ル・ペン 147件

ジャン=リュック・メランション 141件

【LCI】

エリック・ゼムール 170件

マリーヌ・ル・ペン 80件

ヤニック・ジャド 70件

【CNews】

エリック・ゼムール 145件

マリーヌ・ル・ペン 26件

アンヌ・イダルゴ 20件

【France Info】

エリック・ゼムール 53件

グザヴィエ・ベルトラン 45件

ヤニック・ジャド 42件

この結果から、いかにメディアがゼムール氏に熱狂し、SNSで他の候補者よりも多くゼムール氏に関するニュースを流しているかがうかがえる。ルペン氏もメディアの不公平を批判しており、今後は、この点は是正されていくだろう。

ということで、現在、フランスの2022年大統領選は、現職マクロン大統領、ゼムール氏、ルペン氏が優勢となっているが、しかし、あくまでも大統領選挙6か月前の調査結果である。前回の選挙結果も、6か月前の予想とは大幅に違う結果となった。ゼムール旋風もどこまで続くだろうか。今後の展開が気になるところである。

 

<参考リンク>

BFMTVのツイッター、エリック・ゼムールが過剰に取り上げか?

ジョーダン・バルデラ、エリック・ゼムールの女性に対する “残忍さ “を糾弾

エリック・ゼムールの世論調査での上昇:マリーヌ・ルペンの反応は?

大統領選挙:エマニュエル・マクロン氏とエリック・ゼムール氏が今週、距離を置いて衝突した様子

LA VÉRIF – マリーヌ・ルペンとエリック・ゼムールの違いは?

INFOGRAPHIES. これまでの選挙では、大統領選挙の半年前の世論調査はどうだったのか?

トップ写真:フランスの極右メディア評論家エリック・ゼムール氏(2021年10月4日) 出典:Chesnot/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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