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.国際  投稿日:2021/10/13

日本の100年後は今後10年で決まる


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#41」

2021年10月11-17日

【まとめ】

・岸田文雄首相の施政方針演説、第一声は「国難を乗り越える」。

・菅義偉首相は「国民の安心と希望」、外交が得意な安倍晋三首相は「独立した強い日本」を強調。

・日本の100年後の将来は今後10年で決まる、と言っても過言ではない。

 

岸田文雄内閣発足から一週間が経ち、早速10月8日には所信表明演説が行われた。久し振りでこの種の国会演説を幾つかじっくり読み直してみたが、今はどうやって作っているのだろう。昔は各省庁が作った細切れの案文を官邸が取り纏めていたのだが、今は官邸主導で作った原案を各省がコメントする形に変わっているはず。

それでも、各内閣でやり方は微妙に異なるだろう。今週はこのことが気になって、安倍、菅、岸田各総理の国会演説外交部分を読み比べてみることにした。詳細は今週の毎日新聞「政治プレミア」をご一読願いたいが、ここではその「さわり」だけご紹介しておこう。

菅義偉首相の施政方針演説は昨年1月18日、安倍晋三首相の施政方針演説は2013年2月28日にそれぞれ行われたが、その第一声は三者三様で、興味深い。

(岸田首相)私は、この国難を、国民の皆さんと共に乗り越え、新しい時代を切り拓き、心豊かな日本を次の世代に引き継ぐために、全身全霊を捧げる覚悟です。

(菅首相)政権を担って四か月、直面する困難に立ち向かい、この国を前に進めるために、全力で駆け抜けてまいりました。そうした中で、私が、一貫して追い求めてきたものは、国民の皆さんの「安心」そして「希望」です。

(安倍首相)「強い日本」。それを創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です。「一身独立して一国独立する」私たち自身が、誰かに寄り掛かる心を捨て、それぞれの持ち場で、自ら運命を切り拓こうという意志を持たない限り、私たちの未来は開けません。

外交を得意とした安倍首相は「独立した強い日本」を強調し、菅首相は「安心と希望」に言及した。これに対し、岸田新首相は現状を「国難」と表現しているが、その指摘は決して大袈裟ではないだろう。以前にも書いた通り、日本の100年後の将来は今後10年で決まる、と言っても過言ではないからだ。

先週、先々週のJapanTimesには岸田政権の中国政策と支持率について書いたが、日本メディアでは今も「政局」を中心とする内政・外交記事が垂れ流されている。最近はコロナ感染者数も何故か激減しており、巷の、というかメディアの関心は総選挙に移っているようだ。

実は先週ご紹介できなかったのがCIGS外交安保TVで取り上げた「在京外国メディアの見た日本の政局」だ。某米国保守系経済紙の在京支局長に出演してもらい、在京外国メディアの本音を語ってもらった。日本に通算19年住んでいるそうだが、彼の日本語は殆ど完璧だ。筆者も彼の日本語ぐらい英語が喋れたら、と思うくらい。

もう一つ、宣伝させていただきたいのが本日発売の拙著「米中戦争」である。 同書の冒頭では、「最近日本では台湾をめぐる米中衝突の議論が姦(かしま)しい。その多くは、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が「中国は6年以内に台湾に侵攻する可能性がある」旨述べたという誤った報道に基づく、俄か仕立ての分析のようだ。」「本書の目的は、巷にある安易な「米中開戦論」を排し、米中衝突の可能性を、軍事的合理性からだけでなく、東アジアの国際情勢や中国国内の政治的要因なども勘案し、より総合的な見地から分析することだ。」などと、敢えて喧嘩を売った。

自分で言うのも何だが、筆者にしては珍しく、結構緻密な議論を進めている。特に台湾をめぐる「米中戦争」については、人民解放軍の軍事的能力だけでなく、中国指導者の意図にも焦点を当て、その抑止方法を詳細に論じている。ご関心のある向きは是非ともご一読願いたい。

▲写真 中国共産党創立100周年を祝うパフォーマンスに出席した習近平国家主席 出典:Photo by Lintao Zhang/Getty Images

〇アジア

北朝鮮の金正恩が朝鮮労働党創建76周年記念日に演説し、向こう5年間で住民の衣食住問題を解決すると強調したという。同氏が党創建記念日に演説するのは初めてだそうだが、今頃「人民の衣食住」に言及するとは、衣食住すら確保できていないということ。相当苦しいのだろう。

〇欧州・ロシア

総選挙での敗北を受け、ドイツの前保守与党、キリスト教民主同盟(CDU)は12月後半から来年1月初旬をめどに開く党大会で指導部を刷新するそうだ。ということは、16年続いたメルケル政権だが、やはり後継者の養成には失敗したということか。長期政権の後の政権移行は世界のどの国でも難題であるらしい。

 〇中東

ターリバーンが掌握したアフガニスタンから逃れようとする人々がトルコを目指す一方、トルコ政府は国境の警備を強化している、とBBCが報じた。難民流出であり、頭脳流出でもあるこうした状況は、アフガニスタンの暗い将来を暗示している。彼等の多くはイラン経由で出国しているそうだから、事態は想像以上に複雑なようだ。

〇南北アメリカ

ブラジルの大統領が、新型コロナワクチン未接種のためサッカー観戦を拒否されたらしい。同大統領は「なぜワクチンパスポートが必要なんだ。私は接種者よりも多くの抗体を持っている」と語ったそうだが、自業自得だろう。それにしても、パンデミックは現職政治家に厳しいはずだが、この大統領だけは例外なのか。

〇インド亜大陸

中国人民解放軍がインドとの国境係争地域を巡り中印両軍が協議を持ったと発表し、「インド側が不合理で現実離れした要求を続け、協議を困難にした」と非難したそうだ。最近国境付近で両軍が一時衝突したとの報道もあり、再び緊張が高まる恐れもあるというから、要注意だ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキャノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:100代目の首相に選出された岸田文雄の演説(2021年10月4日) 出典:Photo by Toru Hanai – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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