【ファクトチェック】毎日新聞ツイート「Z世代の8割が投票したいと思っているとのデータがある」は“不正確”
Japan In-depth編集部(石田桃子)
【まとめ】
・毎日新聞がZ世代の投票意向についてツイート。
・(SHIBUYA109 lab.の調査よれば)「Z世代の8割が投票したいと思っている」。
・しかし、調査対象の居住地は東京都で全国のZ世代を対象としたものではなく、誤解を招くタイトルであった。
毎日新聞社が10月17日に発信したツイートを検証する。
「選挙のたびに若者の低投票率が取り沙汰されますが、Z世代(1995年以降に生まれた世代)の8割が投票したいと思っているとのデータがあります。
Z世代の社会課題に対する問題意識はなぜ高いのでしょうか。」
▲Twitter/ 毎日新聞(@mainichi)10月17日の投稿
ツイートには、毎日新聞社のオンライン記事「8割が「投票したい」社会変えるZ世代 SNSで政治と日々つながりを」へのリンクが添付されている。記事は、「SHIBUYA109 lab.」の所長・長田麻衣氏へのインタビュー。「lab.」が行った「Z世代の政治に関する意識調査」を紹介する内容だ。
ツイートの要旨は、次のようである。
「『SHIBUYA109 lab.』の『Z世代の政治に関する意識調査』によれば、Z世代(1995年以降に生まれた世代)の8割が投票したいと思っており、Z世代の社会課題に対する問題意識は高い」
これが事実かどうか、検証する。
■ 「Z世代の政治に関する意識調査」
「SHIBUYA109 lab.」の調査によれば、Z世代(18~24歳)のアンケート回答者のうち、投票意向がある者は77.8%、政治に興味がない者は19.0%である。
▲出典 「Z世代の政治に関する意識調査」(SHIBUYA109 lab.)
▲出典 「Z世代の政治に関する意識調査」(SHIBUYA109 lab.)
確かに、回答者の約8割が「投票したい」と回答しており、社会課題に対して問題意識を示す者も約8割と高い水準を示している。
しかし注意すべきは、アンケート回答者の内訳である。「lab.」は、調査方法について次のように明記している。
「WEB調査
調査パネル:外部調査会社のアンケートパネルを使用
調査期間:2021年7月
居住地:東京都
性別:男女
年齢:18~24歳
対象:大学生・短大・専門学校生
回答者数:400名(男性200名/女性200名)
※回答率(%)は小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位までを表示しているため、合計数値は必ずしも100%とはならない場合があります。」
回答者の条件は、居住地・在学の有無について、かなり偏りがある。この調査結果を全国的な傾向と見なすことができるかどうか、疑問が生じる。
■ 若年層の投票意欲:別の調査との比較
日本財団による「第41回18歳意識調査「テーマ:国政選挙」」では、2021年衆院選で「投票する」「多分投票する」との回答は全体の55.2%にとどまった。この意識調査の方法は次の通り。
「調査概要
調査対象: 2021年10月末日で18歳を迎える全国の17歳~19歳男女、916名
調査除外:下記の関係者は調査から除外
印刷業・出版業/マスコミ・メディア関連/情報提供サービス・調査業/広告業
実施期間:2021年8月12日(木)~8月16日(月)
調査手法:インターネット調査
次に、下野新聞社によるウェブアンケート「選挙 どうする?」を参照する。これによれば、2021年衆院選について「30代以下の若年層753人が回答」、このうち「必ず投票する」が41.6%、「投票する予定である」が27.5%。合計すると約7割が、投票に前向きであることが分かる。この調査の方法は次の通り。
形式:ウェブアンケート
期間:10月6~12日
回答者:合計753人。うち30代259人、20代283人、18、19歳104人、17歳以下107人
例示した2つの調査は、「SHIBUYA109 lab.」の調査とは対象者の年齢が異なる。そのため、これらを根拠に「lab.」の調査結果が全国的な傾向と異なると断定することはできない。しかし、調査対象の条件の違いが結果に大きな差を生むことが分かった。「lab.」のような調査対象が偏った調査を、直ちに全国的な傾向と見なすことはできない。
ちなみに、過去の国政選挙における年代別投票率を見てみると、平成29年(2017年)10月に行われた第48回衆議院議員総選挙では、10歳代が40.49%、20歳代が33.85%、30歳代が44.75%となっている。(全年代を通じた投票率は53.68%)
また、令和元年(2019年)7月に行われた第25回参議院議員通常選挙では、10歳代が32.28%、20歳代が30.96%、30歳代が38.78%となっている。(全年代を通じた投票率は48.80%)
(注:※年代別投票率は、全国から標準的な投票率を示している投票区を抽出し、調査したもの。※10歳代の投票率は、第24回参院選及び第48回衆院選では全数調査によるもの。 出典:総務省)
これらの調査結果を見ると、残念ながら若年層全体としては、投票率はいずれの選挙でも他の年代と比べて、低い水準にとどまっており、この傾向が劇的に変わる要因も見当たらないのが現状だ。
▲図 衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移 出典:総務省
▲図 参議院議通常選挙における年代別投票率の推移 出典:総務省
■ 識者からも疑問の声
明治大学商学部教授藤田結子氏は、
「このweb調査のサンプルが、東京の大学生・短大生・専門生で、都市・高学歴と偏った層。先行研究でも、こういった層は投票参加意識は高く出ると言われてる。それを「Z世代の8割が」と新聞に書いてしまってはダメだと思う。社会課題に対する問題意識が高いのと、投票にいく、野党に入れるは、別の事だし」とツイートしている。
また、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の西田亮介氏は、
「この間の国政選挙でも基本的に若者の低投票率傾向は続いているので、単に小さいサンプルのデータ見てるだけなのではないかと思うが、しかしメディア業界の何につけてもZ世代ブームは凄まじいものがあるな。。。」とツイートしている。
■ 判定:不正確
判定対象:
「選挙のたびに若者の低投票率が取り沙汰されますが、Z世代(1995年以降に生まれた世代)の8割が投票したいと思っているとのデータがあります。
Z世代の社会課題に対する問題意識はなぜ高いのでしょうか。
記事リンク:「8割が「投票したい」社会変えるZ世代 SNSで政治と日々つながりを」
このツイートは、
「SHIBUYA109 lab.」の「Z世代の政治に関する意識調査」が、「Z世代(1995年以降に生まれた世代)の8割が投票したいと思っている」こと、「Z世代の社会課題に対する問題意識」が高いことを示している。
毎日新聞の言説は、「SHIBUYA109 lab.」の調査のみに基づけば、事実と異なることは言っていない。しかし、見出しで「Z世代(1995年以降に生まれた世代)の8割が投票したいと思っているとのデータがあります」とすると、読者がZ世代全体の意識として捉えてしまう可能性が少なからずあると思われる。
こうした調査は、アンケート対象者の年齢構成、居住地、学歴、ジェンダーなどによっても結果が大きく変わることから、そうしたことも読者に説明し、あくまで1調査に過ぎないことを明記した方が良かった。以上のことから判定は、“不正確”とした。
Twitterは、他人のTweetを拡散(Retweet)することが容易だ。マスメディアにとって、記事を多くの人に読んでもらうための有効なツールではあるが、場合によっては多くの人をミスリードすることになりかねない。だからこそ、マスメディアはSNSの運用に対し、慎重になる必要がある。他山の石としたい。
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トップ画像:「Z世代の政治に関する意識調査」(SHIBUYA109 lab.) 出典:「Z世代の政治に関する意識調査」(SHIBUYA109 lab.)