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.経済  投稿日:2021/11/5

ワーケーションの進化系「キャンピングオフィス」


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・キャンプとワーケーションを掛け合わせたキャンピングオフィスが話題。

・多くの企業や自治体が、ワーケーション需要取り込みに力を入れる。

・ワクチン接種も進み、ワーケーションの普及に弾みがつきそうだ。

 

内閣府や経産省が、7月19日から9月5日の間に「テレワーク・デイズ2021」を実施するなど、新型コロナウイルスの流行が始まってから一年半以上経ち、新たな働き方への転換が進んでいる。

そのような状況の中、昨年から注目を集めているのが、リゾート地などで休暇を取りながら働く「ワーケーション」だ。「ワーク(Work=労働)」と「バケーション(Vacation=休暇)を掛け合わせたこの言葉は、コロナ禍で求められる「新たな働き方」の一つの形として徐々に広がりを見せている。

■ ワーケーションはどれだけ普及しているのか。

ではそのワーケーション、実際に経験した人はどれだけいるのだろうか。

株式会社クロス・マーケティングと山梨大学の研究グループが、今年3月に実施した「ワーケーションに関する調査」によると、調査の対象となった全国の就業者7万6834人のうち、実際にワーケーションを経験している人は6.6%に留まったという。

▲写真 ワーケーションの実施状況 出典:ワーケーションに関する調査(2021年3月)

調査結果を詳しく見ると、テレワークをする場合でも、ほとんどの人は自宅で行っており、現時点で自宅以外の場所でのワーケーションはまだ一般的とは言えないようだ。

ただ、最近メディアがワーケーションを取り上げる機会が増えてきていることや、参入する企業が増えてきていることから認知度は上がってきているのは間違いない。

■ キャンピングとワーケーションを掛け合わせた新事業が話題

そのような状況の中で、ワーケーションと、近年幅広い層から人気を集めブームにもなっているキャンプを掛け合わせた「キャンピングオフィス」という新事業が話題になっている。

その仕掛け人は、大手キャンプ用品メーカースノーピークだ。

同社は、今年3月に東急不動産のグループ会社、東急リゾーツ&ステイ株式会社と連携し、東急ハーヴェストクラブ浜名湖にキャンピングオフィス浜名湖(CAMPING OFFICE HAMANAKO)をオープンさせた。

同社はこの他にも、茨城県の静や愛知県の鞍ケ池など、既に10ヵ所以上のキャンピングオフィスを展開している。参加者は昼にタープやテントの中で、自然を感じながら会議やミーティングを行う。夜にはバーベキューや焚き火を楽しむこともできる。

▲写真 スノーピーク社が運営する「CAMPING OFFICE IBARAKI・SHIZU 」(茨城県那珂市) 出典:スノーピーク HP

■ キャンピングオフィス誕生の背景

スノーピークが展開しているキャンピングオフィスの構想は、コロナ禍以前から始まっていた。

スノーピークは以前から、普段キャンプをしない層をどう顧客として取り込んでいくかを課題としていた。そのため近年は、キャンプ用品の販売やキャンプ場の運営といったこれまでの主要事業に加え、グランピングやアパレルなどの新規事業の拡大に力を入れてきていた。

そのような状況の中で、社内に働き方改革とキャンプを結びつけるアイデアが生まれた。さらなる顧客獲得を目指し、2016年にキャンピングオフィスの構想をスタートさせた。コロナ禍で新たな働き方への転換が求められる中、スノーピークはいち早くワーケーション需要を取り込んだことで、新たな顧客を獲得することができたといえよう。

■ キャンピングオフィスが人気の理由

キャンピングオフィスの1番の魅力は、普段の職場とは異なるアウトドア空間で仕事をすることで、思わぬ発想・インスピレーションが誘発されることだろう。

また、職場の仲間でタープやテントの設営といった共同作業を行うことによって、社員同士の距離が縮まることも大きな魅力の一つだ。

コロナ禍によって、テレワークが進み、社員が直接話す機会が多く減っている。しかし、テレワーク環境下だと、従来オフィスで行われていた社員同士の確認や意見交換の機会が著しく減少するのも事実だ。上司と部下、チーム内、他部署間、さらには社外との意思疎通が滞り、結果、生産性が落ちることも考えられる。なにより、オフィスでは偶然の会話から思わぬアイデアが出たりしたものだが、テレワークではそうした機会もない。

キャンピングオフィスは、そんな新しい時代のオフィス像を体現しているのかもしれない。

■ 大手デベロッパーもワーケーション需要取り込みに

キャンピンオフィス浜名湖の開業に、東急不動産のグループ会社が参加していたように、国内の大手デベロッパー各社も、コロナ禍で高まるワーケーション需要の取り込みに積極的だ。

三菱地所や、東急不動産、森トラスト、オリックスが、既にワーケーション用の施設の整備や、ワーケーション需要を想定したプラン商品の販売を始めているという。

その背景には、新型コロナウイルスの流行により観光需要が急激に低下していることが考えられる。従来の観光需要に代わる存在として、ワーケーションの需要の取り込みは重要な施策の一つになっているのだ。

■ 企業だけでなく自治体もワーケーション事業に参加

注目が集まるワーケーションに目をつけているのは、民間企業だけではない。全国各地の自治体もまた、ワーケーションの誘致に積極的に取り組んでいる。

その代表例とされるのが、軽井沢町や白馬村など、国内有数のリゾート地を有する長野県だ。

コロナ禍以前から「信州リゾートテレワーク」というワーケーション誘致事業を積極的に進めてきた長野県は、昨年から新たに「信州リゾートテレワーク実践支援金」という補助金制度を実施し、コロナ禍で高まるワーケーション需要の取り込みにも余念がない。

▲写真 信州リゾートテレワークのイメージ 出典:信州リゾートテレワーク HP

長野県千曲市は、2019年10月から「千曲市ワーケーション」を開催している。(主催:株式会社ふろしきや)「快適な働き方の実践」と「温泉・絶景など地域資源を活かすこと」を目的に始まったワーケーション体験会だ。2021年9月までに全国から延べ約250人が参加したという。

ユニークなのは、観光列車を活用したイベント「トレインワーケーション」。しなの鉄道の協力を得て、「観光列車ろくもん」を貸し切り、美しい景色を眺めたり、食事をしたりしながら社内で仕事をする。鉄道会社にとっても新たな需要創出に繋がる。

さらに、ワーケーション参加者が、行政・宿泊施設・飲食店、鉄道事業者らと協働して、「ワーケーションまちづくり」を実験的に進めていることも注目すべき点だ。

そうした中で生まれたのが、「温泉MaaS」。MaaSとはMobility as a Serviceの略で、様々な交通手段を検索から決済までシームレスに利用できるようにするサービスのことを指す。

温泉地を含む観光地において、ワーケーションとモビリティサービスを組み合わせて様々な交通手段を必要に応じてワンストップで利用できるサービスだ。都心から遠く、交通の便が悪かったり、車で行っても駐車場が見つからなかったなり、現地に着いたら着いたでどこを観光したらいいかわからなかたりしたことはないだろうか。千曲市の取り組みは、ワーケーションの枠を超え、地方に新たな需要を創出することにつながっている。地方創生の近未来像を示しているともいえる。

■ ワーケーションの今後の展望とは

関連事業の展開が進むワーケーションだが、広く普及するためには課題もある。

今年6月に、「月刊総務」が行った調査によると、調査対象となった171社のうち、ワーケーションの「導入を検討したことはない」と回答した企業が、85.4%に上ったという。

その主な理由として挙げられたのが、「公平性の担保」と「仕事とプライベートの区別の曖昧さ」の二点だった。

前者は、労働時間の管理などが自己申告となり、公平な評価を受けられないことなどを危惧するものだ。後者に関しては、「旅行に仕事を持ち込むことがマストになりかねない」などの声が上がっている。

ワクチン接種が進み、都道府県をまたいだ移動が増えてきている中、誘致を進める企業や自治体の動きも活発化しそうで、ワーケーションという新たな働き方が当たり前になる日は意外とそう遠くはないのかもしれない。

トップ写真:キャンピングオフィス浜名湖(CAMPING OFFICE HAMANAKO) 出典:© Tokyu Resorts & Stays Co., Ltd. All rights reserved.




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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