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.経済  投稿日:2020/9/15

コロナ時代のワーケーション体験


神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)

【まとめ】

・ワーケーションスポットは、個人でも仕事に集中しやすい環境。

・ミーティング含め「遠隔でも通常業務」は実証出来つつある。

・「他者の音」「混雑時のソーシャルディスタンス」は気になる。

 

新型コロナウイルス感染予防の視点から、かなり定着して来たリモートワークテレワーク。以降リモートワークに統一)。が、自宅では、小さな子供がまとわり付いて来る、オンライン会議中に生活音が気になる、家族がパソコン画面に映り込んでしまうなどの問題点がよく指摘される。また、旅行などで、遠隔地に出かけた時に、仕事の拠点がなく、泣く泣く遠出を諦めるという事も、今の時代少なくない。

そこで、最近注目され始めているのは、リモートワークが自宅以外で出来る「ワーケーションスポット」。“WORK×VACATION”を合体させた造語だ。

東では軽井沢、西では南紀白浜がその拠点として、注目を集めている。

自宅でのリモートワークが中心の筆者、家では企画、執筆作業が行き詰まることが少なくない。リモートワークの働き心地はいかがなものかと、東京駅から長野新幹線でわずか1時間の長野県軽井沢の拠点に体験に出かけてみた。

 

窓は全面ガラス張り。緑に囲まれたリモートオフィス

新型コロナウイルス渦前から、軽井沢では仕事しながら休暇も楽しめる、ならではのワーケーションの拠点作りへの取り組みが始まっている。三菱地所も取り組む企業の1つだ。日本で初めての環状交差点・ラウンドアバウトが設置された六本辻の一角に「WORK × ation Site 軽井沢」を開設。元々はイタリアンレストランだったスペースで、人々になじみの場所を活用。お洒落な建物をそのまま活用しつつワーケーションとして改装、1階に59㎡、49㎡の2室、カフェスペース、2階に57㎡のワーキングスペースを設けた。

▲写真 六本辻の一角に「WORK × ation Site 軽井沢」が今夏開設された。緑に囲まれた環境が素晴らしい。 提供:三菱地所

個別の仕事・作業に対応した空間や、会議も出来るスペースも充実している。オフィスは全面ガラス張りで、周囲の木々に囲まれて仕事が出来、パソコンから目を上げると緑が目に飛び込んで来る、自然あふれる環境だ。

会議に必要なホワイトボードや、文房具なども常備されている。カフェではコーヒーや地元のフルーツを使った地元企業のヤオトクのフルーツジュースなどを飲むことが出来る。オフィススペースには、デスクが4卓、各デスクに椅子が4脚あり、透明なボードで対面と仕切られている。椅子も回転式とそうでないものも配置され、細かい配慮がなされている。各自のパソコンと接続できる大型モニター、一服したり気分を変えて作業したりするためのアウトドアのテラス席や、休息出来る大人のブランコ型ソファが室内に設置されている。

同社によると、企業のプロジェクトチームの合宿などの短期利用から、新型コロナウイルス感染予防のニーズに応えるべく中長期利用への対応を考えているという。

7月に開所して、試験的運用が始まっているが、9月いっぱいは個人利用も認め、どのように活用されるか、現在広く門戸を開き、様子見といったところだ。ワンドリンクのオーダーで、個人利用が出来る。10月利用は法人契約のみとなる見通しという。

「個人でも、ずっと使わせて欲しい」と、個人事業主である筆者のような立場の人間は強く要望するのだが、今後、どのように利用出来るのか、または出来なくなるのか気になるところだ。

▲写真 カフェのエントランス。オフィススペースに繋がっている。 提供:三菱地所

素晴らしいWi-Fi環境の中で。遠隔地で気になる問題点も克服。

ワーケーションでの仕事は、メリットが多い気がした。軽井沢のような山の中、高地に出かけると、個々に持参するポケットWi-Fiや大型施設のフリーWi-Fiなどの環境が必ずしも良くない。筆者も、毎度、それが悩みの種となる。が、ワーケーションのWi-Fi環境は実に素晴らしく、滞ったり、フリーズすることがまるでなく、作業がはかどる。

また、六本辻では、現在、仕事に使用出来るオフィススペースは、定員が20人の作りだが、今のところ、自分が通った間には満席になった状況は見たことがなく、しっかりとソーシャルディスタンスを取って作業が出来るのも、とても嬉しい。ソファを使って仕事と休息がバランス良く取れる。ウッドデッキでも仕事をしてみたが、森林浴しながら実に良く原稿が進んだ。

また、家族とも距離を置くので、集中して仕事に打ち込むことが出来る。

▲写真 設備が整っている室内。木の香りも嬉しい。換気もしっかり。 提供:三菱地所

一方で、デメリットというか改善点もあると感じた。

近くにいる人の作業音や行動が気にはなる。また、オフィススペースでの携帯電話の使用が禁止されていないため、突然、皆、電話を始めるので、やや耳障りではある。とはいえ、周りに人がいることを配慮して、気を使って小声で話す人も少なくはないのだが。今後、別空間に電話スペースは出来ないものか。が、画面を見ながらの通話の必要性も感じる。そして、利用者が増えた時の、ソーシャルディスタンスも気になった。

 

ワーケーションの拠点としての軽井沢

リモートワークの拠点となり得るオフィススペースを設ける動きは軽井沢で盛んだ。既に「軽井沢リゾートテレワーク協会」が発足しており、レストランやホテルなどでも施設が続々開設されている。軽井沢で仕事しながら休暇も楽しんでもらおうという、自治体の姿勢も感じる。

具体的には星野リゾートがワーケーションへの取り組みを始め、レストラン「カスターニエ 軽井沢ローストチキン」は2階を改装し、今年1月にオフィススペース「232」を設けた。NTTコミュニケーションズは「ハナレ軽井沢」を、軽井沢観光協会は観光地の旧軽井沢銀座通りにある観光会館の2階の一部を改装した。また、7月にオープンした「TWIN-LINE HOTEL KARUIZAWA JAPAN」もリモートワーク対応だ。

軽井沢リゾートテレワーク協会は、ワーケーション需要を取り込むことで、ビジネス利用による長期滞在など新たな活用のされ方を模索している。今後は町内のテレワーク施設をまとめたホームページを設ける予定だという。

 

全国に広がりゆく拠点

ワーケーションに関する関心は高まっている。今月に入って、Nature Service(自然体験を増やすNPO法人)がワーケーションに関するオンライン講演会を開催し、多くの人間が参加した。長野県のリモートワークスポット、「信濃町ノマドワークセンター」でワーケーションを実際に体験した講師が登壇した。

軽井沢に先駆けて、早い時期からワーケーションに取り組んでいたのが、和歌山県・南紀白浜だ。元々保養地として人気も高いが、南紀白浜空港の開港もあり、ワーケーション基地としての取り組みも早かった。

三菱地所も軽井沢に先駆け、昨春開設。以降、NTT コミュニケーションズ株式会社、株式会社ギックス、株式会社三菱 UFJ 銀行など約20社の利用、視察があった。リピーターも多いという。利用者の属性は様々な業種、幅広い年齢層と、限定されない。

 ・「大変心地良く仕事に取り組めた」

 ・「集中して議論がしやすいファシリティが充実しており、プロジェクトメンバーなどで集うのに最適だと感じた。メンバーの多くがデジタルネイティブ世代でもあり、時間と場所にとらわれない働き方を検討していたチームのため、ITツールが整っていれば、ミーティングも含め遠隔でも通常業務が行えることも実証できた」

 ・「ワーケーションは日数が限られており、決められた時間内で確実に業務・成果を出すことになるため、より集中した環境でディスカッションが出来た」

などの声も寄せられている。

南紀白浜も、自治体そのものが企業誘致や街のインフラ整備に非常に熱心であり、その成果もあり、IT企業の集積が進んでいる。

自宅でのリモートワーク時間が重なるにつれ、「自宅では行き詰まってしまう」と言う声も多く聞こえるようになった。また一方で、「現状でワーケーションは、商売になるのだろうか」と、ある都内在住の商社マン(30)はこう話す。多様な働き方が摸索されるなかで、デベロッパー側も、利用する側も、試行錯誤が続く。

今後の展開について三菱地所広報部は「今後、コロナ収束後の需要伸長を見据え、施設数及びエリアを拡大する。展開するエリア候補としては、主要都市部から好アクセスの立地を想定している」と話す。

会社員の地方移住など、働き方改革の受け皿整備を見据え、長期利用等、各企業の利用シーンを限定しない施設づくりを目指すという。また、ポータルサイトの運営を通じて、様々な自治体とワーケーション利用企業を結ぶ役割も担って行くのだと。

トップ写真:「WORK × ation Site 軽井沢」の作業スペース。 ⓒ神津伸子


この記事を書いた人
神津伸子ジャーナリスト・元産経新聞記者

1983年慶應義塾大学文学部卒業。同年4月シャープ株式会社入社東京広報室勤務。1987年2月産経新聞社入社。多摩支局、社会部、文化部取材記者として活動。警視庁方面担当、遊軍、気象庁記者クラブ、演劇記者会などに所属。1994年にカナダ・トロントに移り住む。フリーランスとして独立。朝日新聞出版「AERA」にて「女子アイスホッケー・スマイルJAPAN」「CAP女子増殖中」「アイスホッケー日本女子ソチ五輪代表床亜矢可選手インタビュー」「SAYONARA国立競技場}」など取材・執筆

神津伸子

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