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.経済  投稿日:2020/8/25

コロナで変わるオフィスと働き方


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・新型コロナ感染症拡大で「テレワーク」が一気に拡大。

・しかし、非常事態宣言解除後は「オフィス回帰」も。

・ウィズ・コロナの時代は「オフィスワーク」と「テレワーク」が共存する。

 

■ コロナで急増「テレワーク」

2020年、年が明けた時、誰が想像しただろうか。今のこの状況を。

新型コロナ感染症の拡大で、私たちの環境は一変してしまった。

特に大きく変わったのは「働く環境」であろう。3月頃から「テレワーク」があっという間に広がり、東京都が都内の企業(従業員30人以上)を調査したところ、緊急事態宣言が出た4月上旬には「テレワーク」導入率が24%から62.7%に跳ね上がった。

▲図 テレワーク「導入率」緊急調査結果 出典:東京都防災HP

この頃から、新聞には、スタートアップ企業を中心にオフィスの解約が相次ぐ、との見出しが目につくようになった。

印刷・流通大手のラクスル株式会社は、新しいワークスタイル導入に伴い、7月に五反田オフィスを解約し、東京都目黒駅に構える本社を中心にビジネス展開を継続することを決定した。代表取締役社長CEOの松本恭攝氏は、ホームページにて「アフターコロナの時代において在宅と出社の業務バランスの最適化を図り、生産性の高いワークスタイルを確立していくことで、柔軟で働きやすい職場環境の整備に努めてまいります。」と述べている。

ビルディンググループが提供するデータによると、2020年1月頃から7月にかけて、主要都市事務所の空室率が増加している。

▲グラフ エリア別空室率推移四半期ごと(基準階100坪以上の事務所ビル) 出所:ビルディンググループ

東京都でみると、空室率平均値の推移は、1月が1.72%で7月は2.66%と0.94%上昇している。

▲表 東京都 空室率の推移 基準階100坪以上の事務所ビル 出所:ビルディンググループ

 

■ オフィス回帰の動き

こうした状況が今後も続くかどうかは不透明だ。実際、非常事態宣言が解除されると、オフィスに出勤するビジネスマンの数は増えた。電車の混雑具合も目に見えて増えている。「テレワーク」は一時的なものだったのだろうか?

日本生産性本部の調べ(2020年7月6日~7日、インターネットで実施、1100人から回答)によると、緊急事態宣言解除後、テレワークの実施率は20.2%と、緊急事態宣言下の5月調査時(31.5%)と比べ低下した。「テレワーク」率が一気に2割に下がった事になる。

また、パーソル総合研究所の調べでも、緊急事態宣言解除後、正社員のテレワーク実施率は、全国平均で25.7%となり、4月中旬の27.9%から2.2ポイント減少した。

▲図 表:テレワーク実施率の推移 出所:株式会社パーソル総合研究所

「オフィス回帰」が起きた原因には色々なものがあると思われるが、

・自宅のWi-Fi環境が整っていなかった

・自宅にPCがない

・家で作業するスペースがない

・子供がいるので集中できない

・上司が出社を求めてくる

・サインや捺印しなければならない書類がある

・社内のデータに家からアクセス出来ない

・テレワークのシステムを使いこなせない

などが上げられている。

また、企業側からしてみると

・部下が仕事をしているかどうか管理が難しい

・オンラインミーティングだといちいち予約するのが面倒くさい。 

・オンラインミーティングのシステムに予約が殺到し、やりたいときに出来ない

・職場での打ち合わせが出来ず、意志の疎通が滞る

・セキュリティシステムが確保できない

等の理由も聞かれた。

ハードの面で仕方なく、オフィス回帰が行われている側面もあろうが、ウィズ・コロナの時代、新しいオフィス環境と新しい働き方が模索されるべきだろう。

こうした中、海外でもオフィス回帰の動きが出始めている。

GAFA(Google,Apple,Facebok,amazon)を見てみると、意外なことに、彼らの判断も揺れているようだ。

ツイッターやスラック・テクノロジーズなどは社員に無期限の在宅勤務を認めているが、物流部門を持つアマゾンは出社を前提にデータサイエンティストなどの高度人材の採用を強化している。又、実店舗を持つアップルもオフィス勤務に従業員を戻す計画だという。

このように企業によって判断が分かれるのは何故か?

理由として上げられているのは、「社員間のコミュニケーション不足」だ。GAFAに限らず、イノベーションが求められる職場では社員同士の密なコミュニケーションや信頼関係構築が重要だとの意見は根強い。

卑近な例で恐縮だが、私どもの職場でも3月ぐらいからほぼ完全リモート状態が続いている。すっかりこの環境にも慣れたが、社員が事務所にいれば、ちょっと声をかけて確認できるようなことが、テレワークだと、いちいちメールやLINEやSlackなどを使わないと出来ないので、不便だし非効率だと感じる。

また、私どものような小さな会社でも、アイデアやインスピレーションは日常のちょっとした会話などから生まれることが多い。自宅やカフェやシェアオフィスなどで1人で作業していても、新しい「何か」を生み出すのは難しい。

テレワークで、コミュニケーションが不足するだけならまだしも、悪化する可能性もある。多くの人が感じているように、メールなどによる文字だけのやりとりだと、どうしてもコミュニケーションが無機質なものになりがちだ。メールを発信している側にそんな意図は毛頭なくとも、受信側が、時に文面を冷たく感じたり、嫌な気分になったりすることは、ままあることだ。筆者も文字のやりとりだけだと誤解を生むかもな、と感じたときは敢えて電話するようにしている。

やはり、人間は社会的な生きものであり、直接的なコミュニケーションは不可欠だと実感している。それは職場における信頼関係構築と、チームとしての一体感醸成に繋がるのではないだろうか。

 

 オフィスはどう変化していくのか

ではウィズ・コロナの時代、オフィスはどう変化していくのだろうか?

なんといっても「ソーシャル・ディスタンス」が確保されなければならない。従来型の「島型」から「拡散型」レイアウトに変わっていくだろう。

▲写真 拡散型レイアウトのオフィス 出典:株式会社ROOM810

また、アメリカの不動産会社、Cushman & Wakefieldは「6 Feet Office(シックス・フィート・オフィス」と呼ばれる、ウイルス拡大防止を重視したオフィスを提案している。6フィートは約2メートル。ソーシャルディスタンスを確保するために、デスクレイアウトをジグザグにしたり、空気の流れを一定に保つ為に、オフィス内での一方通行の導入と、入口専用ドア・出口専用ドアの設置を行うとしている。

▲図 6 Feet Office 概念図 出典:Cushman & Wakefield

また、センターオフィス以外に今後はサテライトオフィスなどが増加していくことが予想される。空間をより柔軟に、より実用的に使う事が出来るデザインが求められることになるだろう。

 

 オフィスワーカーの本音

しかし、何より重要なのは、オフィスのデザインといったハードより、働く人間のモチベーションだ。

大手デベロッパーの三菱地所株式会社が、東京都内に勤務する一都三県在住の約 15,000 人のオフィスワーカーにアンケートを実施した(2020年6月19日~6月 23日)。それによると、なんと約7割が「業務の50%以上をオフィスで行いたい」と回答したという。また、「ディスカッションはオフィスで行いたい」と回答した人も約7割だった。

▲図 アンケート「ポスト・コロナ時代のまちづくりを加速」 出典:三菱地所

その理由として挙げられていたのは「フェイストゥフェイスでしか得られない価値(創造性・偶発性・チームビルディング)」である。

やはり、現時点で多くの人がオフィスで働くことに価値を見いだしていることがわかる。

先の三菱地所は、これからオフィスワークとテレワークを柔軟に使い分ける時代になると予想する。そうなると、オフィスだけが変わっても意味が無いことになる。

会社(センターオフィス)とテレワークの場所(自宅やコワーキングスペース)、さらにはワーケーションの場所も視野にいれた、全く新しい働く環境作りが求められることになりそうだ。

ウィズ・コロナの時代、デベロッパーには、センターオフィスのある街の魅力を向上させると共に、衛生的で、安全・安心な働くオフィス環境の整備が求められよう。

また、サテライトオフィスの開発やMaaS(Mobility as a Service)などを使った通勤環境の変革、さらには環境共生などへの取り組みも期待される。

ウィズ・コロナの時代、デベロッパーの総合的な取り組みへの期待は、ますます高まるであろう。

(了)

トップ画像 図:パーソナルスクリーンで感染予防対策を施したオフィス例 出典:株式会社ROOM810


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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