中国共産党100年史とアメリカ その2 米側知識人が共産党を助けた
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・中国共産党は、今は敵視するアメリカに育てられた歴史もある。
・少数勢力だったが、アメリカ人の支援により世界に認知された。
・米のジャーナリスト、作家、学者が、共産党を好意的に伝えた。
しかし歴史の皮肉ともいえる事実がある。中国共産党はこんな対決の相手のアメリカ側によって国際的に励まされ、育てられた時代もあったのだ。中国共産党側が熱心にアメリカの官民の支援を求めた時代も早くからあったのである。
結党してまもなく、中国の国内でも国民党政権に抑圧される少数勢力だった共産党は、まず数人のアメリカの言論人や作家の支援により世界規模での幅広い認知を得るようになったのだ。
中国共産党の側からもその種のアメリカ人たちに巧妙な手段でアプローチし、熱心に交流を深めた。自分たちを知ってもらい、好意的な認識を持ってもらおうという努力を続けたのだ。
アメリカ側でのそうした歴史上の人物たちに光をあててみよう。
中国共産党の草創期にアメリカ側で重要な役割を果たしたのはまずジャーナリストのエドガー・スノーだった。
スノーは中国共産党結党からまだ7年目の1928年に中国に渡り、新聞や雑誌の記者として活動を始めた。やがて共産党幹部とも接触し、1930年代には共産党の当時の本拠地の西安にも招かれるようになった。
スノーは毛沢東、周恩来という共産党指導者とも親交を深めて、彼らを好意的に取り上げた本『中国の赤い星』を1937年に出版した。
この本は世界的な関心を集め、中国共産党は貧しい人民のために富裕な国民党政権や日本帝国軍と戦う清潔で進歩的な政治勢力として描かれたイメージを全世界に広げる結果となった。
中国社会を人間的な視点で描写したアメリカ人女性作家のパール・バックの影響も巨大だった。
▲画像 賞を受けるパール・バック氏 出典:Photo by Getty Images
キリスト教の宣教師の父の下、幼児時代から中国で育ったバックは高等教育こそアメリカで受けたが、作家活動をちょうど中国共産党の誕生期の1920年代から南京などで始めた。
中国を熟知した背景からのバックの小説『大地』は1人の中国人男性が貧農から富豪になる波乱の一生を語りながら、当時の中国の社会や人間を温かく描いた作品だった。共産党に直接、触れる部分は少なかったが、中国の労農階層の実態や革命の素地を活写していた。
1931年に出版された『大地』は全世界でのベストセラーとなり、ノーベル文学賞まで受けた。その結果、国際社会に中国共産党の拠って立つ背景を前向きに伝える効果を生んだといえる。
同じアメリカ人女性のジャーナリスト、アグネス・スメドレーは政治活動家としても中国共産党の影響力拡大に顕著に寄与した。
1930年代からの共産党と国民党の内戦や日本軍との戦いの報道にあたったスメドレーは共産党八路軍への密着取材でも国際的に注視される迫真のレポートで高い声価を得た。
彼女自身も明らかに共産主義思想に共鳴し、毛沢東らの個人的な信頼を得て、共産革命の「大義」をもきわめて効果的に宣伝した。
スメドレーは上海でソ連共産党スパイのリヒャルト・ゾルゲやその仲間の尾崎秀美らとも交流があったという。
彼女は第二次大戦後のソ連側の記録でソ連共産党の国際共産主義運動指導組織コミンテルンの宣伝工作の協力者だったことも判明した。そのコミンテルンが支援した中国共産党にとっては当然、貴重なアメリカ人協力者だったわけだ。
アメリカ人の歴史学者ジョン・K・フェアバンクも中国共産党に友好的な光をあて、アメリカの中国研究学界に大きな影響を残した。
ハーバード大学を卒業した彼は1932年に北京に渡り、清華大学で学ぶ。中国の歴史や政治を本格的に研究した。その後、ハーバード大学で中国の歴史を教え、アメリカの中国研究の指導的立場に就いた。
その間、フェアバンクは中国についての著書も多数、刊行した。とくに『アメリカと中国』という書は米中両国の指導者の間でも必読書とされた。
フェアバンクは一貫して中国共産党への協調的なスタンスをとり、戦後のアメリカ政権が国民党政権を支持するのに対して共産党支持を訴えた。中国共産党にとってはやはり貴重な友好的学者だったといえる。
(その3に続く。その1。全5回)
**この記事は日本戦略研究フォーラム季報2021年10月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ画像:中国共産党の1周年記念パレードの様子 出典:Photo by PhotoQuest/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。