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.国際  投稿日:2021/11/30

中国六中全会・歴史決議の意義に疑問


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#46」

2021年11月15-21日 

【まとめ】

・米中首脳会談、「軍事衝突に発展する事態を望まず、対話の継続で一致したが、台湾や人権などのテーマでは原則論で応酬」との報道。

中国六中全会」での「歴史決議」、習氏は「建国の指導者の毛沢東、改革・開放政策を主導した鄧小平と並ぶ扱いとされた」というが本当か。

・党内で習長期政権はどの程度支持ないし歓迎されているのか、疑問。

 

今週掲載が遅れた理由は16日の米中バーチャル首脳会談の結果を見たかったから。だが、結論から言えば、時間の無駄だったとは言わないが、結果を待つことにあまり意味はなかった。関連情報をどう読んでも、大きな成果が出たとは思えないからだ。そもそも、今回の米中首脳会談で何らかの成果を期待する方がどうかしている。

それでも、日本の一部では「米中密約」や「米中、日本を無視」などに警戒感を抱く向きが少なくない。1971年の第一次ニクソン・ショック(ニクソン訪中宣言)の記憶が今も鮮明だからだろうか。外交である以上、そのような可能性は否定しないが、今回の米中首脳会談がそれに該当するとは思えない。

例えば、日経新聞は「両国が、軍事衝突に発展する事態を望まず、対話を継続すべきだとの認識で一致したが、台湾や人権など個別のテーマでは原則論で応酬を続けた」と報じた。恐らく主要事項で新たな合意や議論の進展がなかったと見て良いのだろう。なお、北京冬季五輪の「話はなかった」そうだが、こればかりは信じ難い、が・・。

▲画像 中国共産党創立100周年を祝う式典での習近平大統領を示す大画面(2021年6月28日) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

今週、もう一つ注目されたのが中国共産党「六中全会」での「歴史決議」だ。例えば、読売新聞は「今年創設百年を迎えた党の歴史を肯定的に総括した上で、 習近平総書記のもとで中国が『新時代』に入ったとその業績を礼賛」し、習氏は「建国の指導者の毛沢東、改革・開放政策を主導した鄧小平と並ぶ扱いとされた」というが本当か。

「歴史決議」の正式名称は「党の100年の奮闘による重大な成果と歴史的経験に関する決議」で約3万6500字もあるという。7章で構成され、過去100年を①毛沢東を指導者とする時期、②鄧小平江沢民 胡錦濤の時期、③習近平の「新時代」に分けたが、鄧の功績は改革・開放期の3指導者の1人として相対化されたそうだ。

本当にそうなのか。恐らく、そうなのだろう。それでも、天邪鬼の筆者は、これまでに報じられた記事や六中全会のコミュニケのような要約ではなく、この歴史決議の全文を一回読んでみたいと思っている。少なくとも、日本人記者がこの3万6500字もの「歴史決議」全文を精読した上で記事を書いたとは到底思えないからだ。

少なくとも、今回の「歴史決議」は前二回の「歴史決議」と性格が大きく異なるのではないか。仮に、習近平党総書記に三期目、もしくは無期限の任期があるとしても、党内でそうした長期政権はどの程度支持ないし歓迎されているのか。要するに、この歴史決議にどれだけの歴史的意義があるのか・・・。疑問は尽きない。

〇アジア 

フィリピン西方の南シナ海で、日米が初めて共同対潜水艦訓練を実施したという。潜水艦の日米共同訓練自体は珍しくないが、今回は場所が場所だけに、重要な政治的メッセージを伴う訓練になった。先日は米加両海軍艦船が共同で台湾海峡を通過したそうだが、今回中国はどう対応するのだろうか。興味津々である。

〇欧州・ロシア

ベラルーシからポーランド国境に大量の移民が押し寄せた。ルカシェンコ大統領はEUが追加制裁を科せば天然ガス・パイプラインを停止することもあり得ると警告したが、プーチン大統領は「それは理論上は可能だが、ロシアとベラルーシの契約違反になる」などと牽制したらしい。ルカシェンコもそろそろ年貢の納め時が近いのか?

〇中東 

米軍が2019年にシリアで行った空爆で女性や子どもを含む民間人多数が犠牲になっていたことを初めて認めた。空爆は過激派組織ISIS制圧の数日前だったが、その事実は未公表、ニューヨーク・タイムズの調査報道で明るみに出たそうだ。調査報道も凄いが、それを認める米軍もある意味で立派。これが民主国家の報道である。

〇南北アメリカ 

トランプ政権初期にホワイトハウスの首席戦略官だったスティーヴ・バノンが議会侮辱罪で正式起訴され、FBIのワシントン支局に出頭した後、ワシントンの連邦裁判所に出廷したという。さすがのバノンも抵抗を止めたのか。いずれにせよ、民主党とトランプ一派との死闘は今も続いているということか。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

(この記事は2021年11月17日掲載予定だったものです)

トップ画像:米中首脳会談でのバイデン大統領と習近平首席(2021年11月15日) 出典:Photo by Alex Wong/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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