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.国際  投稿日:2021/12/1

岸田政権へのアメリカの反応は その2 政権短命への懸念


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

  • 新たに首相に就任する日本の政治家は、往々にしてアメリカでの知名度が低い。
  • 背景には、旧民主党政権時代から短命政権が繰り返されていたことがある。
  • アメリカ主要紙での岸田首相に対する評価は軒並み手厳しい。

 

 

私はワシントン駐在の古参の日本人記者として長年にわたり、「日本の新首相へのアメリカ側の反応」は数えきれないほど取材し、報道してきた。

その体験ではアメリカ側では希薄とか未知の日本の政治家の首相就任について伝えねばならない場合がほとんどだった。一つには日本の首相はあまりに頻繁に交替する事例が多いというせいもあった。

つい1年前も菅義偉新首相へのアメリカの反応を報じたばかりだった。アメリカ側では岸田政権の登場がそんな短命政権サイクルへの復帰に戻る兆候ではないことを期待する向きは多い。

だがそれにしても日本の首相の短命現象というのは、長い年月、ものすごかった。とくに日本の民主党政権時代の首相短命交替はワシントンでみていても無惨だった。日本の新政権へのアメリカの反応を問うどころではなかったのだ。

首相の短命はつまりは政権の短命、政治全体の不安定の結果だった。この不安定は日本の政治での官僚主導と大きな関係があった。政治を進める原動力が選挙で選ばれた国会議員、つまり政治家の手にはあまりなくて、実際には官僚たちの手中にあるという現象だった。この官僚主導だと政権はお飾りに近く、存在そのものが軽いことになる。

同時に政権自体が未経験、未熟であれば、政治が不安定となるのは当然である。民主党政権はその典型だったといえよう。

その民主党政権の先頭バッターの鳩山由紀夫首相はアメリカ側から「ルーピー(頭がおかしい)」と評され、しかもホワイトハウスの内部からそんな酷評をぶつけられて、わずか9ヵ月で退任した。その後に続いた菅直人、野田佳彦という首相も1年前後のごく短命だった。だから「新首相へのアメリカの反応」という命題自体が空疎となった。

今回もそんな悪夢のような時代の再現の始まりとは思いたくないわけである。

[caption id="attachment_63241" align="alignnone" width="594"] 写真) 首相就任後の記者会見に臨んだ際の鳩山元首相(2009年9月16日)[/caption]

出典) Photo by Junko Kimura/Getty Image

 

さて今回の岸田氏の首相就任に対しては当然ながらアメリカの大手メディアもかなり詳しく報道した。その論評記事は記者自身の判断に合わせてアメリカ側の専門家の見解をも紹介していた。

 

そうしたメディアの岸田新首相評には以下の実例があった。

 

「ランド研究所のジェフリー・ホーヌング研究員は『岸田首相は安全保障や外交では前任の諸政権とほとんど同じ政策をとるだろうが、台湾有事へのかかわりや中国の攻勢への対処をどうするかは関心の的だ』と論評した。だが岸田氏は本来、自分自身の確固たるビジョンはないため、今後の日本の基本政策を大きく変える見通しはなく、現状維持を続けることになるだろう」(ワシントン・ポストの報道)

 

「岸田氏は首相就任前の本紙とのインタビューでは中国の膨張への強固な反対を表明し、中国や北朝鮮のミサイルの脅威に対抗する敵基地攻撃能力の保持についてもかなり明確にその意図を述べた。だが岸田氏は自民党内でも対外的に融和志向のハト派とされる派閥の出身で、広島の選出という背景から核兵器を全否定する言辞を表明してきたため、実際にはどうなるかわからない」(ウォールストリート・ジャーナルの報道)

 

岸田氏は自民党内のエリートや重鎮の支持により選ばれ、党員や国民一般の支持は少なかった。同氏の政治姿勢はとにかく党内の安倍晋三氏のような幹部の意向を重んじるので、抵抗や波乱を起こさない穏健な路線を歩むだろう。国内政策では『新資本主義』とか『所得格差の縮小』などというスローガンを掲げるが、国民一般からの共感は得ていない」( )

 

以上の新聞報道での岸田評はいずれも賛辞や希望はなく、ネガティブだといえる。とくにニューヨーク・タイムズの批判はどぎつい。岸田氏があたかも民主的な選挙の手続きを経て選ばれたのではない、という示唆までしているのだ。

 

(その3につづく。その1、その2。全5回)

 

★この報告は月刊雑誌『正論』の2021年12月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

トップ写真) ティラーソン元米国務長官との会談に臨んだ外相時代の岸田首相(2017年2月10日)

出典) Photo by Win McNamee/Getty Images




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