岸田政権へのアメリカの反応は その3 岸田少年がNYで学んだこと
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・ニューヨーク・タイムズの日本報道は、以前から自民党批判が基調になっている。
・一方の共和党系メディアでは自民党へ肯定的な論調も多いため、アメリカでの岸田新政権評も一枚岩ではない。
・岸田首相が幼少期をニューヨークで過ごしたことについては、肯定的に伝えられた。
ニューヨーク・タイムズの日本報道は長年、自民党批判が基調である。とくに安倍晋三氏に関する論調は一般報道から社説、コラムまでを動員して、はっきり安倍叩きと呼べるような偏向姿勢をみせてきた。
このへんは朝日新聞にそっくりである。ちなみにその朝日新聞はニューヨーク・タイムズと長年、記事交換のような提携を結んできた。
ニューヨーク・タイムズはその安倍氏がなお強い影響力を発揮するいまの自民党にも、とにかく否定的なスタンスを明示する。社説もほぼ一貫して自民党政権批判、とくに安倍晋三批判が顕著なのだ。年来の伝統とさえいえる。
だから岸田新首相に対しても安倍氏の影響下にあるという印象がニューヨーク・タイムズの側にある限り、好ましくないとする論調をあからさまにするのだといえよう。
この偏向はあまりにも露骨で短絡だから、苦笑させられるほどである。その主張は説得力には欠ける。日本の政治の現実を客観的にみているとは思えない。
▲写真 ニューヨーク・タイムズ本社ビル 出典:Photo by Gary Hershorn/Corbis via Getty Images
この点、同じ安倍晋三氏に対するアメリカの共和党系の政治家やメディアのスタンスはまるで異なる。安倍氏をアメリカと同じ自由民主主義の価値観を堅持して、日米同盟を強化するグローバル的視野のすぐれたリーダーと評するわけだ。
だから岸田政権に対してもアメリカの反応は決して一枚岩ではないのである。ただし新聞やテレビでの日本の新首相についての報道はそれまで新首相についてなにも知らなかったアメリカ国民一般に一定の知識や評価を伝えることになるから、主要メディアの論調は「アメリカの反応」を形成する重要な要因とはなっていく。
そのうえで大切な注釈を強調するならば、アメリカのメディア全体ではニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、CNNテレビに代表される民主党びいきの媒体が多数派なのである。そしてさらに問題なのは日本の主要メディア、新聞とテレビの国際報道、アメリカ報道ではそのアメリカ側の民主党びいきの主要メディアに依存する度合いがきわめて高い、という点である。
しかし前述のニューヨーク・タイムズの報道でも岸田首相についてなんとなく前向きな筆致で紹介した部分もあった。それは岸田氏が子供時代にアメリカに住んだ体験についてだった。
岸田氏は自身の著書でも明らかにしているように、父親のアメリカ駐在で6歳から2年ほどニューヨーク地区に住んだ。その間、クイーンズの公立小学校に通った。
▲写真 岸田首相が幼少期を過ごしたニューヨークの町並み 出典:Photo by Stephen Chernin/Getty Images
ニューヨーク・タイムズの報道はその部分を岸田氏の著書を引用などしながら次のように伝えていた。
「岸田氏はアメリカの学校での体験で強い正義感を育てたとも述べる。学校では多様な人種の生徒たちがいたが、ときには遠足の際に先生の指示にもかかわらず、白人の生徒が氏と手をつなぐことを拒み、人種差別を感じたこともあったという」
「しかし幼い岸田氏はアメリカを賞賛するようにもなった。アメリカ人生徒たちが国旗への敬意を示し、毎朝みんなで国歌を斉唱することにも強い印象を受けた。アメリカはかつて日本の敵であり、広島に原爆を落としたが、幼い岸田氏には多様性に満ちた寛容な国だと映ったという」
そしてこのニューヨーク・タイムズの記事は岸田氏が1965年に同小学校で撮影した級友たち30人ほどとの写真を掲載していた。岸田氏は蝶ネクタイをしめて、最後列の右端に小柄な姿で立っていた。
岸田少年にとってのアメリカ生活は総合すれば、前向き、ポジティブな体験だった、と総括しているといえよう。正義感、多様性、愛国心などを彼はアメリカで体験した、というのである。
**この報告は月刊雑誌『正論』の2021年12月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真:ニューヨークでケリー元米国務長官との共同会見に臨む外相時代の岸田首相(2015年4月27日) 出典:Photo by Andrew Burton/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。