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.国際  投稿日:2022/1/8

なぜ日本人は韓流ドラマにハマるのか


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・現在日本では「第4次韓流ブーム」であり、特にドラマが人気である。

・長尺ゆえに精緻な台本の作りこみや、見た目・演技にこだわり役者を起用していることが人気の理由。

・国内市場の小さい韓国では、海外でも通用するドラマを製作し、“ソフトパワー”の韓流文化を世界に売り出そうとしている。

 

現在、我が国では「第4次韓流ブーム」が巻き起こっている。韓流ドラマは「韓流1.0」、K-POPは「韓流2.0」、韓国文化全般は「韓流3.0」と呼ばれる。

最近、特に、韓流ドラマの人気が高い。例えば、ヒョンビン主演『愛の不時着』(2019年〜2020年)やパク・ソジュン主演『梨泰院クラス』(2020年)などである。

▲写真 「愛の不時着」主演ヒョンビン オメガスピードマスターアポロ11月面着陸50周年記念イベントにて(2019年9月9日に韓国のソウルで) 出典:Photo by Han Myung-Gu/WireImage

かつて、日本のドラマがしばしば韓国でリメイクされていた(例:ク・ヘソン主演『花より男子』<2009年>)。しかし、近年では、逆に、韓国のドラマが日本でリメイクされるケースも少なくない。(株)vivianeが、昨2021年8月30日〜9月1日にかけて、ドラマ好きの全国10代〜60代の男女300名を対象に「韓ドラをリメイクして成功したと思う作品は?」というWebアンケートを行った。

その結果、第1位は、2011年、瀧本美織主演『美男<イケメン>ですね』(チャン・グンソク主演の同名作品<2009年>のリメイク)、第2位は、2018年、山﨑賢人主演『グッド・ドクター』(チュオン主演の同名作品<2013年>のリメイク)、第3位は、2021年、大蔵忠義主演『知ってるワイフ』(チソン主演の同名作品<2018年>のリメイク)。

さて、ここで、なぜ日本人が韓流ドラマにハマるのかを考えてみよう。

一般的に、映画やドラマは①脚本(ストーリー)、②俳優、③演出、が三本柱となる。ただ、多くの視聴者には③の演出部分は見えにくい。そこで、①脚本、②俳優、及び⓪“ドラマ形式”から韓流ドラマの魅力について述べてみたい。

まず、⓪“ドラマ形式”だが、韓国では、普通、ドラマは週2ペースで放映される(〔月・火〕〔水・木〕〔土・日〕等)。韓国人は大変なドラマ好きである。そこで、地上波(KBS、MBS、SBS)とケーブルテレビがドラマ部門で熾烈な視聴率争いをしている。

日本のドラマは、ほとんどが1クール(春夏秋冬の1シーズン)8話~11話(1話50分前後)で出来上がっている(かつてNHKの大河ドラマ1話45分、年間50話だったが、近年は30話程度へと短くなってきた)。

一方、韓流ドラマの長さは、大きく3つに分けられる。10話以下の短編(例:イ・ジョンジェ主演『イカゲーム』<2021年>)、主流である16〜24話の中編、50〜60話、時には、100話以上の長編も存在する。

 韓流ドラマは、1話自体、日本のドラマより長く、多くが1時間以上である。ドラマの途中にCMが入らないので、1話毎の長さが日本より、約1.5倍近く長い。視聴者としては途中のCMがないので、ドラマに集中しやすいだろう。

次に、①脚本だが、日本の1クールドラマと比べ、韓国の中編ドラマ(16〜24話)は約2倍の長さである(1話につき約1.5なので、全体では3倍前後)。だから、韓国の脚本家は(主人公の幼少期を含め)ドラマを精緻に描けるだろう。

日本の脚本家も、もし時間に余裕があれば、ある程度ストーリーを繊細に描けるかもしれない。だが、尺が短いので、どうしても丁寧に描くのは難しいのではないか。

他方、韓流ドラマの特徴として、脚本がよく練られ、意外性を持つ。また、毎回、次回を期待したくなるエンディングである。

余談だが、韓国では、台本がギリギリで仕上がる時がある。そのため、役者は慌てて演技をするケースも少なくない。驚くべき事に、韓流ドラマは日本のドラマと違って、視聴者の嗜好(願望)で内容が変わる場合もあるという。

そして、②俳優だが、一般に、韓流ドラマの役者は演技が上手い。彼らは魂のこもった演技をする。たとえ、アイドル出身でも演技が下手という事はまずない。初め演技に疑問符が付いても、回を追うごとに演技が上手くなる(例:チャン・グンソク主演『ラブレイン』<2012年>のヒロイン、「少女時代」のユナ。「ZE:A(ゼア)」のメンバー、イム・シワンは『ミセン-未生-』<2014年>で主演)。ただし、演技指導が厳しいせいか、自殺する俳優が後を絶たない。

▲写真 KBSドラマ「ラブレイン」記者会見に出席する少女時代の歌手ユナと俳優チャン・グンソク 2012年3月22日 韓国・ソウル・ロッテホテルにて出典)Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images

また、韓国の俳優は別のドラマで役を演じた際、以前のドラマとまったく違う役作りをして登場する。本当に同じ俳優なのかと見間違うほどである(ちなみに、チソン主演の『キルミー・ヒールミー』<2015年>で、彼自身、ドラマの中でいくつもの役<解離性同一性障害者=いわゆる多重人格障害者>を見事にこなしている)。

ところで、役者は見た目も大切ではないか。主演男優や主演女優がパッとしないとたちまち興ざめするだろう。周知の通り、韓国は「整形大国」である。大半の女優は整形しているという。そのためか、圧倒的に美人が多い。

韓流ドラマでは、男優は180センチメートル以上の身長を求められる。男優は兵役に就くせいか、肩幅が広く、体が大きい。また、皆、上半身、筋肉が隆々としている。

日本とは異なり、韓国は国内市場が小さいので、どうしても海外で通用するドラマを制作する必要があるだろう。それは、韓国政府が“ソフトパワー”の韓流文化を世界に売り出したいという思惑と合致するのではないか。

トップ写真:Netflixで人気のドラマ「イカゲーム」の警備員に扮した「トリノコミックス」フェアに参加するコスプレイヤー(2021年12月11日、イタリアのトリノ) 出典:Photo by Diego Puletto/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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