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.社会  投稿日:2023/12/22

オススメ見逃しドラマ(下)年末年始に備えて その4


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・脚本家宮藤官九郎氏ドラマの最高峰と言えば『タイガー&ドラゴン』。

・このドラマが好評だったおかげで浅草の演芸場に客が戻った。

・年末年始はバラエティ特番だけでなく、往年のドラマも一見の価値あり。

 

本連載を読んでいただいている読者諸賢には、私が江戸落語を愛してやまないことを、今さら語るまでもないであろう。

その江戸落語の世界観を現代に持ち込んだドラマが『タイガー&ドラゴン』である。2005年にTBS系の「金曜ドラマ」枠で放送された。

クドカン(脚本家の宮藤官九郎氏)ドラマの最高峰と言えば、NHKの朝ドラで一世を風靡した『あまちゃん』(2012年)だと考える人が多いと思われるが、私はこの作品こそ氏の最高傑作だと信じてやまない。

東京浅草に、林家亭どん兵衛という噺家(西田敏行)が暮らしていた。彼は、ゴルフ仲間(実は長い付き合いで色々と因縁もあったことが、後で分かる)である、暴力団「新宿流星会」の組長(笑福亭鶴瓶)に、400万円の借金があり、しかも毎月10万円という約束の返済が滞っていた。

このままでは示しがつかない、と取り立てを命じられたのが、構成員の山崎虎児(長瀬智也)。彼は12歳の時に父親が借金苦で一家心中を図り、一人だけ生き残ったという過去がある。その結果「歌舞伎町で一番冗談が通じないヤクザ」などと称され、自分でも

「笑うことも、人を笑わすことも、俺の人生には必要ないと思っていた」

と語る男だ。

そんな彼が、追い込みの途中、たまたまどん兵衛の落語を聴き、なんと土下座して弟子入りを志願する。

「俺も面白い話を面白く語りてえ。粋でげす、とか、乙でげす、とか言われてみてえ」

「なに、それ。冗談?それとも新手の追い込み?」

というやりとりから始まるすったもんだも笑えるのだが、最終的には、落語をひとつ教えてもらう都度、彼が師匠に授業料として10万円払い、師匠はその金を返済に充てる、という契約が成立する。「師匠=債務者」と「弟子=債権者側の取り立て屋」という関係になって、なんと師匠の家に住み込んで、昼は噺家、夜はヤクザという生活を始める。

どん兵衛師匠には2人の息子がいるが、長男(阿部サダヲ)は林家亭どん吉を名乗る噺家ではあるものの、事実上は売れないお笑い芸人で、芸能メディアで大きく名前が出るのは「抱かれたくない芸能人ランキング」だけ。

次男(岡田准一)は、かつては落語の天才と称されたものの、重鎮たちからのイジメに耐えかねて廃業し、家も出てしまう。今ではウラハラ(原宿の裏通り)でブティック「ドラゴンソーダ」を経営しているが、従業員(蒼井優。役名はリサ)の給与まで滞る有様。

1話完結方式で、それぞれ「茶の湯の回」「明け烏の回」と言ったように、古典落語の定番の題名でもって、前述のようにその世界観を現代のドタバタに置き換えて話が進む。

それぞれの回で、出演者が江戸時代の庶民に扮装(あれはコスプレの粋を超えている)して、元ネタである落語の世界観を再現するのだが、伊東美咲の花魁は圧巻だった。

メグミという役名で、仕事はバスガイド。しかし男を食いものにする魔性の女という「裏の顔」も持つ。バスガイドの衣装もキャバ嬢姿もはまっていて、失礼な言い方ながら出演時28歳だった彼女は、旬の女優ならではのオーラを放っていた、ということだろう。

こういったトリッキーな演出の反面、話芸で人を笑わせる難しさや芸に取り組む者の葛藤、さらには、前述の奇妙な関係から、いつしか本物の親子にも勝る絆が生まれてくる、といった事柄も、よく描かれていた。このあたりがクドカンの真骨頂だと思う。

話を戻して、このドラマはやはり、落語についての基礎的な知識があると、数段面白い。

逆に言うと、十全に堪能するには、それなりの予備知識が求められるということになる。

この点『あまちゃん』は、アイドルを目指す女の子の話なので、いたって分かりやすい。こちらの方が人気を博したのも無理はないのかな、と思い至った。

そうではあるのだけれど、このドラマを見て落語に興味を持っていただければ、それもまた結構なことだ。実際にお笑いコンビ「ナイツ」が語っていたことだが、このドラマが好評だったおかげで、浅草の演芸場に客が戻ったそうである。

もうひとつは『女王の教室』。2005年、日本テレビ系「土曜ドラマ」で放送された。 

毎回冒頭に、子役(=児童役)の声で、

「この物語は、悪魔のような女教師と小学6年の子供たちの闘いを描いた1年間の記録」

というナレーションが流される。

天海祐希演じる女教師の役名は阿久津真矢(あくつ・まや=略してアクマ)。ナレーションにある通り、女王どころか独裁者のように教室を支配し、生徒たちに対して、

「いい加減目覚めなさい」

という決め台詞をはじめ、数々の辛辣な言葉を浴びせかける。

それまで学園ドラマというと、青春ドラマという別名もあったくらいで、体育会系で便所の100ワット(無駄に明るい、という意味。昭和の流行語)みたいな教師が、えてして学業が振るわない生徒たちを善導する設定と相場が決まっていた。

ところがこのドラマの担任ときたら、テストの成績が悪いと「代表委員」に任命されて雑用を押しつけられるなど、スパルタの域を超えた教え方をする。

当初はPTA筋からの批判も寄せられたと聞くが、回を重ねるごとに、実は彼女は、生徒が自発的に問題に取り組むような人間になってもらいたい一心で、あえて悪役を買って出ていたことが分かってくる。最終回の視聴率は、初回から10%以上も上がったそうだ。

どうしてこの時期にこのドラマをオススメするかというと、理由はふたつある。

最近、学校でイジメに遭った女子児童が、連絡ノートに自殺願望をほのめかすようなことを書いたところ、花マルを付けた上に「You can do it. (あなたならできる)」と書き添えて返却した女教師がいたという。

2021年2月に北海道旭川市で、イジメを苦にした女子中学生が行方不明となり、凍死した事件では、保護者から面談を申し込まれた担任が、彼氏とのデートを優先させるべく断っていたことが発覚している。

ドラマの担任教師の姿勢は、これらとは対極にあるものだが、アンチテーゼというよりは、生徒児童を指導する立場では、ひとつ間違えると重大な結果を招きかねないわけで、むしろ、

「よい先生は真似しちゃいけません」

みたいな効用があるのではないかと、私には思える。

私事にわたるが、私も小学校3年の時の担任女教師とそりが合わず、ずいぶん嫌な思いをさせられた。当時の私は、勉強はよくできたのだが、その分、授業に集中せず、教師に楯突くようなこともままあったので、嫌われたのだろう。

だからと言って、優等生のXX君とわざわざ引き比べて、

「足下にも及ばないよ!」

などといびられる筋合いがあったのか。他にも、まあ、思い出すとブチ切れそうになるので詳細までは述べないが、陰険なイジメとしか思えないことを一度ならずされた。

なので私は、このドラマは終始、担任でなく生徒たちに感情移入して見ていた。

もうひとつの理由は、生徒を演じた子役たちが、なかなかよい芝居をしていた。

もう一人の主人公とも言える神田和美を演じたのが志田未来

彼女はこの翌年『14才の母』(日本テレビ系)に主演してブレイクし、その後も数々のドラマで活躍している。

その彼女へのイジメに加わったりする役回りだった伊藤沙莉には、ちょっといい話がある。クランクアップの直前、天海祐希に呼び出されたそうだ。

なにかこっぴどく叱られるのかと、ビクビクしながら楽屋を訪ねると、意外にも、子役の中であなたが一番よかった、と声をかけられた。私の一体どこがですか、と訝る彼女に天海祐希は、こう諭したという。

「あなたは、カメラが自分に向いていない時でも、全力でお芝居してたじゃない」

「女優の本分は、それ以上でも以下でもない。それを続けて。誰かがあなたを見つけてくれるわよ」

伊藤本人の弁によると、当時はまだ子供だったので「はい!」と元気よく返事をしただけであったが、キャリアを重ねてゆく中で、この言葉の意味をかみしめるようになった。

2020年には日本映画批評家大賞・助演女優賞を受賞し「26才の名脇役」などと呼ばれたが、2024年のNHKの朝ドラで主演に抜擢されたことが、先日発表された。

あらためて子役時代のドラマを見返すのも一興ではなかろうか。

最後にオススメしたいのは『スカイハイ』だ。

2003年にTV朝日系の「金曜ナイトドラマ」で放送された。主演は釈由美子

実はこの金曜ナイトラマ(22時15分~翌0時10分)は割とよく構見ていて、第1回だけリアルタイムで見ている。

誰かに殺されたり、不慮の事故で命を落とした人がやってくる「恨みの門」があり、イズコという門番がいる。このイズコを演じるのが釈由美子で、やってきた人(霊魂?)は、三択を迫られる。

  1.  死を受け容れて天国へ行く。
  2.  死を受け容れず、霊となって現世をさまよう。
  3.  現世の誰かを呪い殺す。ただしその場合は、永遠に続く地獄の責め苦を受けなければならない。

要するにホラーで、どの選択をしようが、イズコは、

「お逝きなさい」

と言って送り出す。これが決め台詞。

前述のように私は、第1回だけをリアルタイムで見たのだが、もともとホラーがあまり好きではない上に、おどろおどろしさが正面に出過ぎているように思えたので、それきりになってしまった。

しかし、評判はよかったようで続編『スカイハイ2』も放送されたし、好意的なレビューも結構多かったので、見逃し配信を試した次第。

後悔した。どうしてリアルタイムで全部見なかったのか、と。

ストーリーの面白さと釈由美子の美しさが、近年見たドラマの中でも突出している。

私が特に好きなのは『スカイハイ2』の第1話「星に願いを」という回。不慮の事故というより、長距離バスの飲酒運転が原因という、殺されたも同然の4人が、恨みの門へとやってくる。幼稚園児の姉妹、初老の紳士、そして、ヤクザ者。

このヤクザ者を演じた伊原剛志の塩梅が、なんとも味があったし、子供たちが唄う『あわてんぼうのサンタクロース』がBGMのようになっているのも、今の季節にふさわしい。ラストシーンでは、思わず一緒に口ずさんでしまった。

なんと言うか、ネタバレを避けつつドラマを紹介するのがこれほど難しいとは……とあらためて思わされたし、また、いくつかドラマを紹介するうちに、あれもこれもと思い浮かんで往生したので、今回はこのくらいにさせていただくが、年末年始はバラエティ特番だけでなく、往年のドラマも一見の価値はある。

いずれドラマに特化した新シリーズを立ち上げようと思う。乞うご期待。

トップ写真:第34回日本アカデミー賞授賞式に登壇する俳優の西田敏行氏と三國連太郎氏(右)2011年2月18日東京・港区 出典:Kiyoshi Ota/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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