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.社会  投稿日:2023/12/20

オススメ見逃しドラマ(上) 年末年始に備えて その3


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・年末年始に往年のドラマを独断と偏見で紹介する。

・主演俳優の資質と脚本・演出がマッチしたからこそ社会現象となる。

・楽しんで見つつも、色々考えさせられるドラマをオススメする。

 

 TSUTAYAの閉店ラッシュに歯止めがかからない。

 事業の柱であったレンタルDVDが完全に行き詰まったという、分かりやすい理由だ。なにしろ最近は再生プレーヤーを持っていない人も増えているとか。

 一般社団法人日本映像ソフト協会の調査によると、2007年には3604億円あったレンタル市場の売り上げが、2022年には572億円まで下がったという。15年間で84%ほども減少したことになるわけで、これではTSUTAYAも傾くわけだ。

 私自身、ヘビーユーザーとまでは言えないかも知れないが、年会費を払って会員カードを作ったし、割とよく利用してはいた。借りたのは、映画よりTVドラマが多い。

 週3~4回は道場に通う身なので、毎週決まった時間にTVの前に座るというのが、いささか難しい。いきおい録画に頼ることとなるが、どうしても見逃してしまうことがある。なので、評判のよかったドラマはDVDを借りて、まとめて鑑賞するようにしていたのだ。

 具体的には『HERO』『ガリレオ』『ビギナー』など、世に言うフジテレビの「月9=月曜午後9時からのドラマ枠」作品は、ほとんどこのようにして見た。

もちろん例外はある。『のだめカンタービレ』だけは、原作の漫画(二ノ宮知子・著 講談社)がとても面白かったのでリアルタイムで見た。

一方、私の好みは結構偏向していて『101回目のプロポーズ』『男女7人夏物語』など一連の世に言うトレンディドラマに関しては、今もって食わず嫌いのままである。誰とは言わないが、いささかうざったい人が出演している、という理由もある。

TBSの日曜劇場も同様。

『JIN 仁』『官僚たちの夏』『ビューティフルライフ』『半沢直樹』『天皇の料理番』など、これまた私の好みだが、月9よりも見応えのある作品が多かったように思う。

いずれも機会があれば見返したいと思っていたが、くだんのTSUTAYAは今年10月末をもってレンタル事業から撤退したので、私も来年は会員証を更新せず、ネットで見ることになるだろう。

……というわけで、年末年始に往年のドラマを見返したい、とお考えの向きに、私の独断と偏見でオススメ作品を紹介させていただきたい。考えようでは、わざわざレンタルDVDを借りに出向く必要もなくなったので。

まずは『踊る大捜査線』。

社会現象にまでなったヒット作であるから、ご存じの向きも多いと思われるが、来年、新作映画がクランクインすることが決定した(公開は2025年の予定)と報じられたので、今あらためて見返すのも悪くないと思う。

1997年の1月から3月まで、月9ではなく「火曜9時」のドラマ枠で放送された。

東京・お台場が舞台だが、今やタワマンなど高層建築が林立している域を管轄している湾岸署が、周囲から「空き地署」などと揶揄されたり、織田裕二演じる主人公の青島巡査部長が、初登場のシーンで、

「都知事と同じ名字の青島です」

 などと自己紹介するのは、平成生まれには笑えない(首をかしげるだけ)かも知れない。

 いずれにせよこのドラマがヒットしたおかげで、当の織田裕二には「湾岸署の青島」というイメージがついてしまい、当人はそのことをよく思っていなかったと聞く。そのせいで、続編の企画は幾度も持ち上がっては主演を拒否される羽目になっていたとも。

 気持ちは分からないでもないが、このドラマにはまった者として言わせてもらえば、熱血漢で正義漢だがおっちょこちょい、というキャラ設定は、織田裕二という俳優のためになされたものではないかとさえ思える。

 たとえば、黒澤明監督の『椿三十郎』が彼の主演でリメイクされたのだが(2007年)、これなどは、オリジナルの脚本をなぞっているにも関わらず。彼の芝居のせいで、

「湾岸署の青島刑事が江戸時代にタイムスリップし、お家騒動に首を突っ込む羽目になる」

 という設定の映画だと言われても、信じてしまいそうな出来であった。木村拓哉について、

「どんな役柄を演じてもキムタクでしかない」

 とは、前々から言われていることであるが、織田裕二の場合は、どう転んでも湾岸署の青島と二重写しに見えてしまうのだ。

 これは決して彼をけなしているのではなく、主演俳優の資質と、脚本・演出がこの上もなくマッチしたドラマで、だからこそ社会現象となるまでにヒットしたのだと、私は考える。

 このあたりのことについては、拙著『邦画の正しいミカタ』(アドレナライズより配信中)の中で論じたので、ご用とお急ぎでなければ参照していただきたい。

 脇を固める面々も素晴らしかった。

方面本部長の息子で、警部補からスタートするエリートながら、青島からは後輩扱いされ、パシリまでさせられる真下正義をユースケ・サンタマリア。過去ストーカーに襲われて負傷したトラウマを抱える、窃盗犯係の恩田すみれを深津絵里。出世に興味を示さず現場主義に徹するベテラン刑事の和久平八郎をいかりや長介。そして、事件に巻き込まれて一時は声まで失ってしまうが、やがて湾岸署の面々に感化され婦人警官を目指す柏木雪乃を水野美紀。

 忘れてはいけないのが、本庁捜査一課の管理官ながら、いつしか青島と名コンビのようになってしまう室井慎次を柳葉敏郎。

 彼の役柄がなぜ重要かと言うと、警視庁と所轄の警察署が「本店と支店」などと称され、現場の刑事たちがエリートたちに顎で使われる、警察組織の理不尽がよく描かれていたし、自ら信じる正義のためには、処分覚悟で命令をはねつけることもある、上記の面々の気概も、人気を博した理由のひとつに違いないと思えるからである。

 普段はただひたすら上層部に媚びへつらう、中間管理職の悪しき典型のような神田署長(北村総一朗)が、

「うちの刑事は出来損ないだけど……命張ってんだよ!」

 などと警察官僚を一喝するシーンは私でもしびれた。

七人の刑事』や『太陽に吠えろ』など、昭和の刑事ドラマが分かりやすい勧善懲悪に徹していたのに対し、警察組織の理不尽な一面がよく描かれていた。

少々デフォルメが過ぎると言おうか、さすがにこれはないだろう、と思えるエピソードも出てくるが、まあ「この物語はフィクションです」ということで笑。

 同じく警察を舞台にしたドラマだが、交通課の婦人警官がなぜか次々に凶悪事件に遭遇するというのもある。

 2002年に日本テレビ系で放送された『逮捕しちゃうぞ』というのがそれだ。

 原作は漫画(藤島康介・著 講談社)で、今年続編が再スタートした。

 アニメもあるが、私の「推し」は上記の実写ドラマで、交通課の婦警二人組がパトロール中、スーパーの防犯訓練とは知らずに、強盗犯役の警察官をボコボコに……というシーンから始まると言えば、大体どういうテイストか想像がつくのではないか。

 抜群の運転技術を持つ小早川美幸(原沙知絵)と、並外れた身体能力を持つ知事元夏美(伊東美咲)がダブル主演。二人にとって目の上のたんこぶのような交通課長を渡辺えり子。

 格闘シーンも多いが、なぜか回し蹴りが多用される。これは護身術あるいは逮捕術としては理にかなっていないのだが、どうしてドラマの婦人警官の制服はミニスカ・ポリスまがいなのか……という問題とも併せて、分かりきった疑問は深掘りせず、美脚の大サービスを享受すればよい。そういうドラマだ。こういうことを述べた後ではフォローにならないかも知れないが、女性が見ても痛快で楽しいと思う。 

 楽しんで見つつも、色々なことを考えさせられるドラマと、本当に何も考えずに楽しめるドラマと、どちらがよいかは好みの問題だが、私がオススメするドラマは、大抵前者である。

 他のドラマについては、次回。

トップ写真:歩行者で混雑する渋谷スクランブル交差点 ( 2016 年 5 月 19 日)

出典:Eric Lafforgue/Art in All of Us /Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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