北京五輪直前に連続騒乱報道相次ぐ
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・天津市、西安市、深圳市という大都市等で、ロックダウン、または半ロックダウンが行われた。
・万が一、北京五輪が失敗に終われば、習主席は「反習近平派」に追い詰められる。
・「ゼロコロナ」政策は、五輪直前に破綻したように見える。
今年(2022年)2月の北京冬季オリンピックが間近に迫っている。
だが、習近平政権としては、国内で新型コロナが蔓延し、無事、北京五輪が開催できるかどうか気が気ではないだろう。なぜなら、オリンピック直前、北京市の隣の天津市、陝西省西安市、広東省深圳市という大都市等で、ロックダウン、または半ロックダウンが行われたからである(北京市内も厳戒態勢を敷いた)。
▲写真 2022年冬季北京オリンピックの開会式を控えた会場の様子(2022年1月27日、中国・北京) 出典:Photo by Carl Court/Getty Images
中国のロックダウンは、先進国と比べ、厳格な措置が取られる。実際、当局が町を完全に封鎖し、住民の移動を厳しく制限する。場合によっては、住民は買い物にさえ行けない。そのため、時には飢えに苦しむ人も出てくる。このような状況の中で、天津市、深圳市、西安市では、一部住民の怒りがついに爆発した。
なお、ここでは、(1)『RFA』「ビデオ:深圳、天津、西安の防疫措置により、複数の集団事件を引き起こす」(2022年1月23日付)、(2)『大紀元』「天津、深圳、西安は厳格に統制され、民衆は相次ぎ集団で抗議」(同年1月21日付)、(3)『看中國』「天津、深圳、西安のコロナ対策に不満で、民衆の抗議が相次いでいる(ビデオ/写真)」(同)、(4)『新唐人テレビ』「ご飯を腹いっぱい食べたい。天津、深圳、西安の統制が集団抗争を引き起こす」(同)などを参考にする(ちなみに、(2)・(3)・(4)は姉妹メディアである)。
さて、中国共産党にとって、北京市から遠く離れた陝西省西安市や広東省深圳市のコロナ流行に関しては、想定範囲内だったかもしれない。しかし、天津市は、北京市からわずか120キロメートル余りしか離れていない。そこでコロナが再流行し始めたのである。習政権は肝を冷やしているに違いない。
▲写真 230万人の天津市民が新型コロナ感染の検査を受けた(2020年11月23日、中国・天津市) 出典:Photo by TPG/Getty Images
そして、この3市で立て続けに、騒乱事件が勃発した、と報じられている。以下、報道内容を紹介する。
第1に、1月17日夜、天津市西青区大寺鎮赤龍瀾園で事件は起きた。同市が局地的に都市封鎖している間、統制区域内の多くの住民は食べ物が不足した。
実は、天津市には出稼ぎ労働者が多い。現在、彼らは、コロナ禍で仕事が見つからない。だから、借りているアパートの家賃も支払えない。けれども、同市は半ロックダウンの状態である。したがって、彼らは故郷へ帰りたくても帰れない。
天津市では、同市住民であれば、食料が支給された。だが、出稼ぎ労働者には、食料が支給されなかった。だから、彼らには食べ物がなく、集団的抗議を起こしたのである。
1人の男性が、自動車の上で「(天津以外の)地方からやって来た人間は食べるカネがない。私はご飯を腹一杯食べたいだけだ」と叫んだ。この男性の抗議の発言に、取り囲んだ人々から大きな拍手がわき起こった。その後、大勢の警察が駆けつけ、その男性を逮捕した。そこで、現場にいた大勢の人々が口々に「男を放せ!」と叫んだのである。
第2に、1月19日、今度は、広東省深圳市羅湖区田心村で騒乱事件が発生した。翌20日、同市筍崗慶雲花園でも事件が起きている。
深圳市の住民は、ロックダウン解除を求めて警官隊と対峙していた。結局、彼らは警察と衝突し、多くのデモ参加者がパトカーで連行されている。
元来、広東省には、自由を求める気風がある。したがって、彼らからすれば、当然の要求だった。けれども、当局によって鎮圧されている。
第3に、1月20日、更に、西安市雁塔区華城国際小区で騒乱事件が起きた。
同区は、昨年12月17日夜に封鎖されて以来、依然、ロックダウンが解除されていなかった。だから、住民は自由に買物へ出かけられない。そのため、住民達は、1ヶ月以上、高額なデリバリーフードを買わされていた。それに怒った住民が、立ち上がったのである。
以上のように、騒乱事件が天津市、深圳市、西安市で次々と起きたことが報じられた。それぞれの事件の背景には若干の違いがある。しかし、北京政府の「ゼロコロナ」政策が引き金となって、連続的な事件が起きたのは間違いなさそうだ。
もし、北京五輪が開催されなければ、習近平政権は、これほど厳しい「ゼロコロナ」政策を打ち出していなかっただろう。ところが、習主席としては、オリンピックを開催する以上、面子にかけても成功させなければならない。そうでなくても、習主席は中国経済の減速等で、党内の求心力が失われつつある。
万が一、北京五輪が失敗に終われば、更に習主席は「反習近平派」に追い詰められる。そして、秋の第20回大会を乗り切れるかどうかわからなくなるだろう(仮に、無事、乗り切れれば、習政権3期目に突入する)。
したがって、習主席は、何が何でも北京五輪を成功に導く必要があった。その切札となったのが、「ゼロコロナ」政策である。だが、数々の報道を見る限り、五輪直前、それが破綻したように見える。
他方、北京市民はともかく、それ以外の地方の人々が、コロナ禍にあって本当に北京五輪の成功を願っているだろうか。疑問符が付く。
トップ写真:集団検査サイトで新型コロナウイルスの検査を受ける北京市民たち(2022年1月24日、中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。