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.国際  投稿日:2022/2/9

米中関係と日本 その3 日中間には成り立たないウィン・ウィンの関係


 

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・中国は根本的に日本を敵視。「国際秩序に対する立場」も「政治的価値観」も違う。「日本を隷属下に置く野心」も。

・中国側が共産党政権である限り、日中が真のウィン・ウィン関係になることはない。

・台湾有事なら日本も当事国に。岸田首相は、中国に甘い宏池会の「悪しき伝統」から脱却せよ。

 

―― 中国にとって対日関係は、本質的に対米関係によって従属変数的に変化するというのが現実だということですね。

古森 さらに言えば、中国は根本的に日本を敵視しているということです。日本側は、そうした中国の日本に対する根本的な姿勢をしっかり頭に入れておかなければなりません。その根拠は大きく言って次の五つです。

まず第一に、中国と日本とでは、あるべき国際秩序に対する立場が違う。日本は戦後ずっとアメリカが主導して作った国連やIMF(国際通貨基金)、あるいは日米同盟などの中に加わり、その最大の受益国として恩恵に与ってきたわけです。言い換えれば、自由と民主主義、そして市場経済を基調とした国際秩序です。しかし、そうした国際秩序を中国は否定しています。

第二に、中国は日本の安全保障政策を否定していることです。中国は日米ガイドラインの改定など日米同盟の強化に反対し、ミサイル防衛や防衛庁の防衛省への昇格など、日本の防衛力を強化するような措置にも全部反対してきました。ちなみに、日本の安全保障に関する朝日新聞の主張は、気味が悪いほど中国政府の主張と同じです。

三番目は政治的な価値観の違いです。日本には自由と民主主義、そして複数政党制があるのに対して、中国は共産党一党独裁体制であり、個人が自由に政治的な意思を表明することも民主主義も認められていません。

第四に、中国側の年来の反日傾向です。日本を悪者に仕立てることで、中国共産党の統治が正当化されるという反日的な構造です。日本は中国を侵略した一番悪い存在で、その日本を倒して、中国を解放したのが中国共産党だという歴史認識こそは、共産党一党独裁体制の正当性の根拠となっている。

そして五番目は、中国は日本を隷属下に置くという野心を抱いていることです。実際、中国政府は、沖縄に対する日本の主権を一度も認めたことがない。私が中国に駐在していた当時、親しくなった中国の官僚と食事をしながら、「これからの日中関係はどうしたらいいですかね」と尋ねると、「それは一つの国になることです」と彼は言ったのです。それで、「制度も歴史も文化も違うし、言葉も違う」と返すと、彼は「それは大きな国の言葉を使うことですよ」とサラッと言ったのです。「中華人民共和国日本自治州」という概念があるようです。日本を隷属化させるというのが中国側の本音なのです。

ですから、インドとパキスタンがどこまでも対立していくように、日中関係には中国側が共産党政権である限り、真のウィン・ウィンの関係などあり得ない。そのことを特に日本の為政者はしっかり認識しておかないといけません。

 

 悪しき「宏池会の伝統」から脱却せよ

―― そうした中国の対日観を聞くにつけ、最近の岸田政権には大きな不安を禁じ得ません。

古森 岸田首相は中国の覇権主義的な動きに対して、「しっかり言うべきことは言っていく」と述べました。しかし、「言うべきことは言う」なんていうのは、雨が降れば天気が悪いと言うのと同じで、政策ではありませんよ。結局、中国がどんなに有害なことをやっても、中国が嫌がることは言いたくないということでしょう。これは岸田氏が属する宏池会の悪しき伝統であり、その影響を岸田氏もどっぷり受けているとも思えます。

写真)「宏池会」出身の岸田文雄首相

出典)Photo by Hannah McKay – Pool/Getty Images

 

実際、首相が外相に任命した林芳正衆議院議員は、日中友好議員連盟の会長をやっていた人です。この議連は、中国の言い分だけを聞いて、中国側が日本に触手を伸ばしてくると、すぐにそれに乗っかっていくとか、これまで日本にとってかなり有害なことをやってきたわけです。彼は外相になったら議連の会長を辞めました。無用な誤解を避けるためだと言っているけれども、無用な誤解とは何なのか説明してほしいと思いますね。

写真)日中友好議連会長を辞任した林芳正外相(2021年12月11日 英・リバプール)

出典)Photo by Phil Noble – WPA Pool/Getty Images

 

―― 特に台湾海峡情勢が緊迫化しつつある今日、中国側の顔色を窺っているだけの政権では困ります。

古森 本当にそう思います。仮に台湾有事となれば、当然日本も戦争の当事国となるわけですからね。先日、安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事だ」と、当たり前のことを言っただけで、中国側は猛反発したけれども、日本人の中で批判する人は減ってきましたね。その意味でも、日本人の意識は確実に変わっている。岸田首相には、中国の顔色ではなく、そうした国民意識と日本の国益を踏まえて、日本の舵取りをして欲しいと思います。(令和3年12月24日取材)

  • この記事は日本政策研究センターの月刊雑誌『明日への選択』2022年2月号に掲載された古森義久氏へのインタビュー報告「『宥和』のバイデン政権が中国を増長させる」の転載です。

 

写真)中国の習近平国家主席                         出典)Photo by Jason Lee-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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