アメリカの日本研究者はいま 最終回 研究者たちの偏向と衰退
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・思いがけないプラスも。ジャパン・フォーラムで私の言論活動などを支持するアメリカ側の人たちが出てきた。
・アメリカ学界では日本研究者が消えてしまったかのよう。近年の研究者の極端なリベラル姿勢では、日本の現実への密着や把握は難しい。
・日本の保守志向、自立志向を極端に嫌う偏りある低級の日本専門家に常用されてきたのがジャパン・フォーラム。
私はNBRのジャパン・フォーラム自体の理不尽さを指摘する記事も産経新聞に書いた。2006年10月21日付朝刊の「米国ネット論壇のゆがみ」という見出しとなった記事だった。
この記事では私はその時点までのジャパン・フォーラムに載ったコメントのうち根拠のない個人への中傷や攻撃、さらには明白な虚構の日本非難の実例をあげて、管理役、検閲役の責任を問うた。
この役割はいまはミシガン大学名誉教授ジョン・キャンベル氏である。だが当時は国務省の日本関連分野に在勤した経験のある元外交官のエド・グリフィン氏だった。
グリフィン氏こそが私への誹謗や中傷のコメントの掲載を認めていたのだ。同氏は政治的に超リベラルとされ、保守嫌いで知られていた。
そのためか、当時、秋田の国際教養大学の副学長だったグレゴリー・クラーク氏が北朝鮮による日本人拉致事件での被害者のニセの遺骨に関して日本政府の主張を捏造とみなすような趣旨のコメントをジャパン・フォーラムに載せ、その否定の主張を日本人の関係者が投稿すると、グリフィン氏の段階で排除されたという事例が報告されていた。
だがそれにしても、この反日と特徴づけられるジャパン・フォーラムの運営資金が日本の外務省の事実上の外郭団体の国際交流基金から出ていた時期がある、というのはブラック・ジョークのようである。
しかしジャパン・フォーラムでの私個人への攻撃は当然、不快だったが、思いがけないプラスもあった。それはそのサイト上で私の言論活動などを支持し、誹謗中傷に反論してくれたアメリカ側の人たちがかなりの数、出てきたことである。
私はその種の支援をだれにも依頼はしなかった。だが「古森は責任感のあるジャーナリストだ」という趣旨を論拠を示して述べ、古森糾弾に反論する人たちが登壇したのだった。意外だったが、当然ながらうれしいことだった。
たとえばニューヨーク・タイムズの東京支局長などを務めたリチャード・ハロラン氏、アメリカ通商代表部(USTR)の日本部長だったアイラ・ウルフ氏、国防総省の日本部長だったジェームズ・アワー氏などである。
しかしこれほどの偏向や理不尽、粗雑さを露呈しながらもジャパン・フォーラムは2021年まで存続してきた。アメリカの日本専門家たちが意見を交換する場だとの触れ込みだった。
だが実態は欠陥だらけのお粗末な落書きの場にまで落ちぶれていた。それでもなおここまで続いたことはアメリカ側の最近の日本専門家たちの質と深い関係がある、というのが私の考察である。
まずアメリカ社会、さらにはアメリカ学界での日本研究者の存在が最近はあまりに希薄なのだ。いまのアメリカで著名な日本専門家とはだれなのか。私自身も簡単に名前が思いつかない。存在感のある重量級がいないのだ。
古参はいるだろう。たとえばこのジャパン・フォーラムの管理役のジョン・キャンベル氏である。だが彼の現在の活動や過去の業績はどこまで知られているか。日本でもアメリカでも、である。
日本の研究者が減ってきたというアメリカ学界全体の傾向もある。しかし近年の日本研究者たちはたとえば安倍晋三氏が体現する日本のいまのあり方を激しく批判する傾向が強くなっていた。彼ら自身がリベラル派であり、そのリベラルのスタンスからみての日本の保守派、あるいは保守志向に反発するという現象である。
やや誇張すれば前述のアレックス・ダデン教授の安倍叩きに極端な形で示される傾向である。ダデン現象とでも呼ぼうか。
最近の米側の日本研究者の間でのダデン現象はまず日本の現実への密着や把握を難しくする。だからとくに日本側からみると、最近のアメリカ学界には日本専門家が消えてしまったかのようにもみえるのだ。
一時代、二時代前にはアメリカでも日本でも著名な、一般社会でさえ重みを持つアメリカ人の日本専門家が存在した。
エドウィン・ライシャワー、エズラ・ボーゲル、ナサニエル・セイヤ―、ジョン・エマーソン、リチャード・フィン、ローレンス・オルソンなどという名前が浮かぶ、これらの専門家たちは特定の政治上の偏りはあまり感じさせなかった。日本をあるがままに受け入れるという感じだった。
ところがいまのアメリカの日本専門家たちの間では日本の保守志向、自立志向を極端に嫌う傾向が強いのだ。そんな偏りは自然と日本専門家自体の質の低下をもたらす。
そんな低級の日本専門家たちに常用されてきたのがこのジャパン・フォーラムではないのか。
私はこんな総括を感じるのである。
**この記事は月刊雑誌『正論』2022年1月号に掲載された古森義久氏の論文「日本叩きサイトが存続した理由と末路」の転載です。
トップ写真:靖国神社を参拝する安倍晋三氏(2005年8月15日) 出典:Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。