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.国際  投稿日:2022/4/21

金正恩、ロシア兵器の無残な姿にショック


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・ウクライナでロシア製最新武器が続々と撃破され、金正恩はショック。

・金正恩は軍事パレードで誇示してきたロシア製在来型武器の虚弱さも身にしみて感じているに違いない。

・軍事パレードが4月25日の朝鮮人民革命軍創建日に行われなければ、ロシア兵器の無残な姿のせいだろう。

 

ロシアのウクライナへの侵略戦争で、ロシア製最新武器が続々と撃破され、その虚像がさらけ出されている。2014年に製造された第3世代戦車T72B3だけでなく、ロシアのクリミヤ侵略以後の2016年にアップグレードされたT―72B3OBRまでも砲台を吹き飛ばされたり真二つにされたりしている。ロシア空軍もミグ29を古物扱いし、最新型の戦闘機や戦闘爆撃機を動員したが、これらも撃破された。

だが今も北朝鮮軍の機械化部隊は、1960年代初めに開発されたロシアのT62系列の戦車が主力となっており、北朝鮮の主力戦闘機は依然として1950、60年代に生産されたミグ21、ミグ23だ。ミグ29は「最先端戦闘機」との位置づけだ。しかしそれさえやっと10機余りしかない。

北朝鮮にとっては「夢の兵器」と言えるロシアの「陸・空・海最新兵器」が次々と撃破されるのを見て、金正恩はいまショックを受けている。

 最新鋭戦車と航空機の無力な姿に金正恩驚愕

2月24日にロシアがウクライナ侵略を開始した当初は、核兵器での脅し戦略とロシアの最新兵器投入で短期決戦で終わると多くの専門家が予想した。金正恩もロシアの在来式最新兵器がどれほど威力を発揮するかを「楽しみにしながら」見守っていた。北朝鮮が旧ソ連の武器システムと軍事教理に基づいて軍を運用している世界でもまれな国家であるからだ。

しかしロシアはウクライナで、北朝鮮が欲しくても持てない「夢の兵器」を総動員しながら、思うような勝利を得られずに苦戦している。陸軍の機械化部隊だけでなくロシア空軍もそうだ。北朝鮮にはない複座多用途戦闘機スホーイSU30SU34新型戦闘爆撃機、そして強力な攻撃ヘリコプターミル型Mi24、Mi28や新型のKa52アリガートル(NATOコードネームはホーカムB:1997年初飛行)も思うような戦果をあげることができず、ウクライナの制空権掌握に失敗している。

戦車や航空機だけではない。4月15日(現地時間)にロシア黒海艦隊を率いる最新鋭の旗艦「モスクワ」までも撃沈された。この沈没は、ロシアにとって第2次世界大戦後における最大の屈辱となっている。ロシアは、爆発事故で港に曳航中暴風雨で沈没したと言っているが、その原因はともかく「ロシア軍の無能が如実に表れた事件」という評価は変わらない。

海軍史での似た事件は、1982年のフォークランド戦争でのアルゼンチン海軍巡洋艦「ヘネラル・ベルグラノ」の沈没だけだ。米軍事専門メディアのウォーゾーンはこの日、「『モスクワ』沈没は海軍史で40年ぶりの最大規模の戦闘損失として記録される可能性がある」と説明した。

 金正恩自慢の軍事パレードは効果半減

▲写真 北朝鮮のミサイル発射のニュースをソウル駅の大型モニターで見るソウル市民(2021年9月15日、韓国・ソウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images

金正恩が命令さえすれば、すぐにでも南(韓国)に進撃して敵を叩き潰せると信じている北朝鮮軍のエリートたちが、ウクライナ戦争の実態を知った時どうなるだろうか。金正恩が核とミサイルにすべてを賭ける意味をさらに噛みしめる一方で、軍事パレードで誇示してきたロシア製在来型武器の虚弱さも身にしみて感じるに違いない。

これまで金日成広場で見せてきた自慢の機械化部隊が、ポンコツ級で使い物にならない機械化部隊とわかったことで、これからは軍事パレードが世界の人々を驚かせるのではなく、ウクライナで砲塔を吹き飛ばされた錆びたロシア戦車と装甲車の残骸を思い起こさせる場となると思うはずだ。

北朝鮮は金日成誕生110周年で軍事パレードを行わなかった。軍事パレードは4月25日の朝鮮人民革命軍(抗日遊撃隊)創建日に行うのではないかとの観測が流れている。もしもこの日にパレードが行われないか、もしくは在来型武器を縮小したミサイル部隊を中心としたパレードに変更された場合、それはウクライナにおけるロシア兵器の無残な姿と関係していると見てよいだろう。

トップ写真:破壊されたロシアの戦車(2022年4月5日、ウクライナ・ブチャ) 出典:Photo by Nils Petter Nilsson/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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