極右ルペン氏躍進、左派衰退 異例づくしの仏大統領選
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・マクロン氏再選は20年ぶり快挙だが、敗北したルペン氏は自身の躍進を「めざましい勝利」と表明。
・左派が強いことで知られるフランスで、左派の衰退ぶりがきわだつ。
・フランス大統領は連続2期まで。ルペン氏が次を制するか、今後の5年間は重要。
フランス大統領選の決選投票が4月24日に行われた。その結果、現職の中道マクロン大統領が極右政党「国民連合(RN)」のルペン候補をやぶり、再選を果たした。結果は事前のアンケート結果とそれほど変わりなく、予測されていた通りのマクロン氏の勝利だったものの、マクロン氏58.54%、ルペン氏41.46%となり、2017年時には66.1%対33.9%とダブルスコアだったものが、今回の決戦ではルペン氏が大きく票を伸ばし、差を縮める結果となった。
フランスで大統領が再選されるのはジャック・シラク氏以来
フランス大統領が再選され2期目を迎えるのは、1995年〜2007年まで大統領を務めたジャック・シラク氏以来のこと。シラク氏が再選された2002年以来、20年ぶりとなる。
写真)ジャック・シラク大統領(2002年10月20日)
出典)Photo by Leila Gorchev-Pool/Getty Images
今回の選挙戦の特徴的な点は、ロシアによるウクライナ侵略が行われている最中に行われたことである。選挙戦では内政問題に加え、欧州連合(EU)に賛成か反対か、エネルギーの調達や産業について自立していけるようにするか、このまま外国に依存するか、そして戦争の影響による物価高騰対策などが大きな争点となった。
マクロン氏はこれまでドイツとともにEUを支えてきたが、ルペン氏はEUを批判してきたため、ルペン氏が大統領になった場合はEUが空中分解する可能性もあると不安視されていた。そのため、EUの主要国ドイツ、ポルトガル、スペインの3か国首相が、フランスの有権者に対し、大統領選の決選投票でマクロン氏に投票するよう呼び掛けるという異例のことも起こっていたのだ。
また、マクロン氏がエネルギーの自立を目指すのに対し、ルペン氏はロシアが中国に近づくことを避けるためとしてロシアからのガスの輸入を継続するとしていた。以前から、ルペン氏とロシアの距離は近く、ルペン氏が過去にロシアから選挙資金を借りていたことも発覚し、ウクライナでの戦争が始まってからこの件に関して批判の的にもなっている。そのため、ウクライナのゼレンスキー大統領も、2回目投票の前に行われたインタヴューで、ルペン氏の親ロシアの立場について「誤り」との認識を示し、マクロン氏の再選を願っていた。
このように、マクロン氏の再選はフランス国外からも大きく望まれていた状態であったと言えるのだ。
しかしながら、今回、多くの人に望まれてマクロン氏が再選したものの、ルペン氏が大きく票を伸ばしたことも間違いない。
ルペン氏の躍進
今回、ルペン氏は敗北したとはいうものの、2017年には33.9%にとどまっていた得票率を今回は41.46%まで伸ばした。
写真)大統領選に敗れたものの躍進したルペン氏(2022年4月24日 パリ)
出典)Photo by Thierry Chesnot/Getty Images
2017年の敗北からこの5年間、ルペン氏は、人種差別的な過激な発言が多かった父親のジャン=マリー・ル・ペン氏の影響を薄めるためと、支持層を広げるために党名を変更して、「脱悪魔化」と呼ばれるソフト路線に切り替え、「庶民派」をアピールしてきた。そして、前回の大きな敗因となったマクロン氏との討論会に向けて十分に準備をしてきたのだ。それらの努力が、今回の結果に結びついたことは間違いない。
大統領選の結果が出た後の慣例では、まず敗者が勝者を祝う電話をかけ、敗北演説をしたあと勝者が演説する流れとなっており、ルペン氏もその慣例にしたがった。敗北が分かると、ルペン氏はすぐにマクロン氏に電話をかけた。そして、その後、支持者の前に姿を現し敗北の演説をしたのだ。
そこで、ルペン氏はこう述べた。
「今回の結果はめざましい勝利だ」
と。
ここまで票をのばせたことは、彼女にとって大きな躍進だったことは間違いない。そして、今後はマクロン政権に対し主要な野党として対峙していく姿勢を力強く示したのだ。
フランスの今後
2022年の大統領選挙は、時代が大きく変わったことを思い知らされるものでもあった。
まず、左派の大きな敗北。それでも、第一回選挙では、左派のジャンリュック・メランション氏がルペン氏と1ポイントに迫る勢いを見せたため、最終的には左派、右派、中道が揃う形となったが、左派が強いことでも有名なフランスだったのにもかかわらず、左派の衰退ぶりがきわだった。
また、鳴り物入りで登場した中道右派共和党の大統領候補バレリー・ペクレス氏が第一回投票では5%にも届かないなど、過去に政権を担ってきた中道の左右の2大政党の大惨敗ぶりが著しいものとなった。これは歴史的出来事とも言え、両党の終幕の可能性さえ示しているといえる。時代が変化している証ともいえるかもしれない。
今回は、勝利を手にし無事再選を果たしたマクロン大統領であるが、フランスでは連続2期までしか大統領にはなれない。そのためマクロン氏が5年後に再び大統領に選ばれることはないため、また5年後に情勢は大きく変化することになるだろう。
このまま、ルペン氏が躍進していき、5年後を制するのか?
この5年は重要な期間となることは間違いない。
<参考リンク>
◇À travers la réélection d’Emmanuel Macron, un résultat inédit pour Marine Le Pen:『マクロン氏の再選果たす、ルペン氏は記録的な結果』
◇AFP:【図解】ナポレオンからマクロンまで、フランス歴代大統領を振り返る
◇AVANT/APRÈS. Résultats présidentielle: comment Macron a cédé du terrain à Le Pen entre 2017 et 2022:『BEFORE/AFTER: 大統領選挙結果:2017年から2022年にかけて、マクロンはルペンにいかに敗れたか』
◇【詳細】フランス大統領選 現職のマクロン大統領が再選 | NHK
トップ写真)再選を果たしたマクロン仏大統領(2022年4月24日 パリ)
出典)Photo by Antoine Gyori/Corbis via Getty Images