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.政治  投稿日:2022/5/1

「核兵器使用断念へ各国強い圧力を」松田邦紀駐ウクライナ大使


写真)松田邦紀駐ウクライナ大使 ゼシュフ・コンラッド・フィジョレックポーランド市長を表敬訪問し、ウクライナ支援と戦後復興協力について意見交換した。2022年4月15日
出典)在ウクライナ日本国大使館 公式facebook

樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長

【まとめ】

・松田邦紀駐ウクライナ大使によると、ロシアの侵略によって、ウクライナ国民の30%が国外に逃れるか、国内で避難生活を強いられている

・ロシアが攻撃を緩める気配はみられず人道危機がさらに悪化する恐れがある

・大量破壊兵器使用を断念させるため、各国一致してロシアに圧力をかけ続けるべきだ

 ロシアによるウクライナ侵略開始から2カ月以上が経過した。事態の帰趨は依然、混とんとしている。

 現地で在留日本人保護、ウクライナ側との折衝、情報収集などにあたっている松田邦紀駐ウクライナ大使によると、ロシアはなお強硬姿勢を維持、停戦実現の気配はみえていない。人道危機はさらに悪化する恐れがあるという。

 松田大使は、ロシアによる大量破壊兵器の使用を断念させるために西側各国の強い制裁、結束が必要であると強調。戦争犯罪は厳しく裁かれるべきとの認識を示した。

■人道危機、さらに悪化も

 松田大使は筆者のインタビューのなかで、ウクライナの被害の実態について、全人口4100万人のうち、ポーランドなど国外に逃れた人が520万人、国内で家を失うなどして避難生活を続けている人は770万人にのぼるという悲惨な状況を明らかにした。

 罪もない市民殺傷など、野蛮なロシアの所業については、ウクライナ政府、国際メディアの報道から明らかだとして「フェイクニュース」という露側の主張を退け、「戦争犯罪として真相解明、責任追及がなされなければならない」と強調した。

 今後の戦局については、ロシア側に強硬姿勢をやわらげる兆しがみられないことを指摘、東部、南部での攻防激化によってウクライナ側の死傷者、物的被害が増加、人道危機がさらに深刻化するおそれがあるとの厳しい見方を披歴。ロシアに対するいっそうの制裁強化の必要性も指摘した。

 核を含む大量破壊兵器の使用をロシアに断念させるため、G7(主要7カ国)が強い圧力を加えるべきと強調した。

 大使は、今回の侵略を「第2次大戦以来、最大の危機」と位置づけ、「力による現状変更を欧州の問題、他人ごとだと考えるべきではない」として、アジアでも起こりうるとの見解を暗に強調した。

 一方、在留邦人の安否については、なお50人が国内にとどまっており、全員無事であると説明した。

 松田大使ら駐ウクライナ大使館員は、ロシアの侵略開始後もキーウの大使館にとどまっていたが、3月に入って隣国ポーランドに移動。現在はウクライナとの国境近くに臨時事務所を設置、執務している。

 松田邦紀大使へのインタビュー詳報は次の通り。

ロシア、停戦に向けて軟化せず

 ーロシアの侵攻が始まった時の様子は

 松田大使(以下、大使)「2月24日未明、大使公邸で空襲警報が鳴り、爆撃音があがった。少数の館員とともに首都キーウに留まって、在留邦人の退避支援、情報収集等を行っていたが、3月2日に国外に移動した」

 「現在は西ウクライナの国境から約80キロ、ポーランド側の国境の町ジェシュフの臨時事務所で、在留邦人保護、避難民の日本渡航支援、支援物資の輸送、関係国大使館・国際機関及びウクライナ政府との連絡調整等の業務を行っている」

 ー戦局の見通はどうか

 大使「連日、さまざまな情報や報道が錯綜、今後の見通しの確たるを言うのは難しいが、東部や南部での攻防が激化し、戦闘が長期化すれば、ウクライナの人的、物的被害が更に大きくなるだろう。人道危機がいま以上に悪化するのではないかと強く懸念している」

ー停戦協議の行方はどうか

 大使「停戦交渉は断続的に行われてきたが、その現状と先行きは不透明、予断を許さない。複数の国や国連がロシアに直接、働きかけているが、ロシアが自らの強硬な立場を和らげ歩み寄ろうとする兆しは見られない。こうした状況では、ロシアが国際社会の声に耳を傾け、侵略を一刻も早く止めるよう、強い制裁措置を講じていくことが必要だ

写真)キーウのクリチコ市長は、複数のミサイルがこの地域を攻撃したとき、少なくとも1人が死亡し3人が負傷したと述べた。攻撃は、アントニオ・グテーレス国連事務総長によるキーウへの訪問と同時に起こった。2022年4月30日 ウクライナ・キーウ
出典)Photo by Alexey Furman/Getty Images

戦争犯罪、国際刑事裁の捜査に期待

 ープーチンが大量破壊兵器を使用する可能性は

 大使「唯一の戦争被爆国として核兵器の非人道性を知るわが国としては、核兵器による威嚇も、ましてや使用もあってはならないと考える。生物・化学兵器の使用も、いかなる場所、いかなる主体、いかなる状況においても容認されない」

 「3月24日に開催されたG7首脳会合の声明においてもG7各国首脳は事態を深刻にとらえ、『化学・生物及び核兵器、関連物資の使用に関するいかなる威嚇に対しても警告を発する』と明確に述べている。各国一致して圧力をかけ、断念させることが必要だ

 ー市民への残虐行為、鬼畜のような戦争犯罪について、ロシアが主張するフェイク情報の可能性はあるか

 大使「ウクライナ政府の発表や国際メディアによる各種報道から、無辜の民間人が多数殺害されるなど、残虐な行為が繰り広げられていたことが明らかになった」

 「ロシア軍の行為によって多くの市民が犠牲になっていることを深刻に受け止め、強い衝撃を受けている。多数の無辜の民間人の殺害は、重大な国際人道法違反、戦争犯罪であり、断じて許されない。厳しく非難されるべきだ

 ー戦争犯罪に関して、日本政府も国際刑事裁判所(ICC)に〝告発〟した

 大使「残虐行為の真相は徹底的に明らかにされ、ロシアの戦争犯罪の責任が厳しく問われなければならない。わが国も、戦争犯罪が行われたと考えられることを理由に国際刑事裁判所(ICC)に付託した。ICCの捜査官は、既に捜査を始めており、捜査の進展を期待している」

 ー今回の事態は世界平和にとって大きな脅威だ

 大使「第2次大戦後の最大の危機だ。日本も、力による現状変更を『欧州の問題』として他人事と考えるべきではない

 ー在留日本人はの安否は

 大使「2021年12月時点で約250人の日本人がウクライナに在留していた。現時点において確認されているのは約50人。その人たちとは連絡を取り合っているが、現時点までに生命、身体に被害が及んだという情報には接していない」

■日本、過去の経験で復興の中心に 

ーウクライナのゼレンスキー大統領は「危機の大統領」として強いリーダーシップを発揮している。大使が会った印象は

 大使「初対面の時は、『政治家らしくない普通の人』、自ら話すよりも『人の話にじっくりと耳を傾ける人』と感じた。何度か会って話すうちに、日本に対して親近感と敬意を抱いていることがわかった。とくに日本の近代化の歩み、戦後復興とその後の経済発展に関心を抱いているようだ」

 「侵略戦争が始まった後、3月前半に行われたウクライナ国内の世論調査では、回答者の実に93%がゼレンスキー大統領を支持しているという結果が出ている」

ーウクライナ国民の士気は

 大使「政府関係者らとの情報・意見交換、テレビでみる市民たちの様子、発言から見る限り、なお高い」

 ー日本政府はG7とよく協調、過去にみられなかった強い制裁をロシアに課している

 大使「日本政府が強い制裁を断行できるのは、国民の関心がこれまでになく高く、ロシアの侵略に強く抗議して政府の方針を理解しているからだろう」

 ー停戦が実現した後、復興での日本の役割は

 大使「ゼレンスキー大統領が3月23日に行った日本の国会に対するオンライン演説で、日本のリーダーシップへの期待を表明した。復興を見通せる段階になった時には、日本は自らの戦後再建、数々の自然災害からの復興、海外紛争地への支援を通じ蓄積した豊富な経験、技術、ノウハウ、人材を駆使して、G7、国際機関とともに重要な役割を果たすことが出来るだろう」 




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