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.国際  投稿日:2023/2/27

侵略1年、強まるプーチン訴追の動き 特別法廷設置も


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

 

【まとめ】

・国連決議、ウクライナでの戦争犯罪についての「公平で独立した調査と訴追」の必要性に言及。

・ゼレンスキー大統領らは特別法廷を設置してロシア指導部を訴追するよう求めている。

・プーチン起訴のハードルは高いが、その要求は国境を越えて民間にも広がっている。

 

ロシアのウクライナ侵攻から1年。戦局の行方とあわせて戦争犯罪追及の動きにも拍車がかかってきた。

 国連総会では「調査と訴追」が決議され、ウクライナやEU(欧州連合)は特別法廷の設置を呼びかけている。

 現時点では、プーチン大統領起訴への障害は少なくないが、ウクライナの司法当局と戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)が市民の無差別殺人、性的暴行などで兵士らを裁いていることもあって、ロシア指導部訴追へ向けた国際的な動きが広がりを見せ始めている。

 

■訴追要求決議、141か国が賛成

  国連総会(193か国)は2月23日、ウクライナ侵略1年にあわせて緊急特別会合を開き、ロシアの即時撤退などを要求する決議を採択した。

 日米など70か国以上が共同提案した決議は、ウクライナでの戦争犯罪についての「公平で独立した調査と訴追」の必要性に言及している。

 賛成は141か国、反対はロシアのほかベラルーシ、北朝鮮など7か国、棄権は中国、インド、ベトナムなど32か国、投票不参加13か国と圧倒的多数での採択だった。

 ウクライナ侵略に関しては、これまで、ロシアへの非難などいくつかの決議が採択されているが、戦争犯罪の追及に言及されたのは初めて。

 罪もない市民の無差別殺傷などロシアの野蛮行為に対する各国の強い姿勢が示された。

 

 ウクライナ、国連総会決議での特別法廷呼びかけ

 ウクライナのゼレンスキー大統領はすでに国連総会の決議に基づく特別法廷の設置と、その場での戦争犯罪者訴追、裁判を訴えており、EU(欧州連合)が、これを強く支持している。

 戦争犯罪は、戦場における残虐行為だけでなく、「侵略行為」も対象となり、ICCに訴追、裁判の権限が与えられている。

 しかし、ICC規程によって、非加盟国のロシア、ウクライナへの訴追管轄権付与には、国連安全保障理事会の決議が必要となり、常任理事国のロシアがこれに反対するのは明らかだから、安保理によらない総会決議で特別法廷を設置しようというのがウクライナの狙いだ。

 ロシアは「国連主導の組織の設置には,安保理の決議が必要」と反発しているが、23日の国連決議が圧倒的多数で採択された事実は、訴追に向けた各国間の動きが勢いを増してきていることを示している。

  ウクライナは今年中に、法廷設置を提案する構えと伝えられ、やはりICC非加盟の米国などは慎重姿勢を見せているが、設置支持の流れがさらに加速する可能性がある。

 

■国境超えた市民法廷「十分な証拠ある」

 一方、侵略1年を前に、ICC本部のあるオランダ・ハーグでアメリカ、南アフリカなどの元検事ら法律家による「市民法廷」が開かれ、 ウクライナ兵士、国民らからの〝証言〟を聴取した。

 侵略1年当日の24日、「法的権限を持った法廷がプーチンを起訴、ほかの戦争犯罪者を裁くべきだ」と関係国の司法当局に呼びかけた。

 〝判事団〟「ここで得られた証言はプーチンが国家のリーダーとして、ウクライナ侵略を計画、準備、主導したことを示している」と強調。国境を越えた民間法曹家の間でも戦争犯罪追及の声が高まっていることをうかがわせる。

 

■訴追免れても政治的には致命傷

 特別法廷でプーチンら政権幹部の訴追が実現したとしても、実際に法廷に引き出し有罪に持ち込むまでには高い壁が立ちはだかっている。

 政権上層部が戦争犯罪での主導的役割を果たしたことを法廷で立証するのは容易ではないことに加え、特別法廷の判事が逮捕状を発行しても、実際に身柄の拘束を行うロシアの司法当局が協力するとは考えられないからだ。

 しかし、市民法廷など国境を越えた民間の協力、ハイテク技術を駆使し、携帯電話や電子メールの復元などに成功すれば、証拠固めは可能という指摘がある。

 プーチンが訴追から逃げおおせたとしても、将来登場する政権が逮捕状執行に協力すれば、その時点で身柄を引き渡されることになり、退任しても将来にわたって身の安全が脅かされる。

 他国を訪問した場合、そこで逮捕状を執行される可能性もあるため、プーチンはロシア国内にとどまらざるをえず、国家元首としての職務遂行は事実上困難となる。

 有罪判決に持ち込むことができなくとも、訴追手続き自体がプーチンを政治的に追いつめる武器となる。

 

■末端兵士らの訴追だけでは公正を欠く

 ロシアの侵略開始以来、ウクライナ国内では7万1千件にのぼる戦争犯罪が報告されている。市民の殺傷、拷問、性的暴行、子供の拉致、民間インフラへの爆撃など想定しうるあらゆる蛮行という(ロイター通信)。

 ウクライナの検察当局に加え、ICCは南部、東部のロシア掌握地域を中心に精力的に捜査を続け、これまで276人を殺人、レイプなどで刑事訴追し、26人に判決が下っている(同)。

 末端の兵士だけが処罰されて侵略を計画した政権幹部が居座ることになれば、著しい不公正になるため、ハーグの市民法廷の〝判事〟らは、「起訴するに足る十分な証拠が集まった」と証拠能力に自信をみせ、ロシア政府高官起訴の必要性を強く指摘している。

 

 第2次大戦後最大ともいわれる侵略が法廷で裁かれる日も遠くないかもしれない。

 苦戦を伝えられる戦局と相まって、プーチンらロシア指導部は安閑としてはいられないようだ。

トップ写真:ドネツク地方での戦闘で死んだ若いウクライナ人兵士の葬儀で泣き崩れる親族 2023年2月21日 ウクライナ キエフ郊外のカリニフカ

出典:Photo by Roman Pilipey/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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