無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/5/4

大規模サイバー攻撃でロシア大混乱


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#18」

2022年5月2-8日

【まとめ】

・「ハクティビスト(政治社会的主張を持つハッカー)」の攻撃でロシアのサイバー空間が大混乱。

・政府高官のメールアドレスとパスワードなどを大量に盗み出しているという。

・日本がハクティヴィストに、問題ある国のサイバー空間に大規模攻撃をかけるよう促すことも重要。

 

今週はwreak havocなる表現を取り上げる。5月2日付Bloombergは「China Lockdowns Wreak Havoc on Economy」、1日付Washington Postは「Hacktivists and cybercriminals wreak havoc in Russia」と題する興味深い記事をそれぞれ掲載している。表現ぶりから中露両国で何か大変なことが起きているらしいことが窺える。

wreakは「加える、浴びせる」、havocが「破壊、大荒れ」だから、wreak havocとは「大混乱を引き起こす」こと。上海などのロックダウンが中国経済に、またロシアではhacktivistsがロシアのサイバー空間に大混乱を起こしているのだ。中国のコロナ禍の話は見当がつくが、ロシアが「ハクティヴィストにやられる」とは一体どういうことか。

そもそもハクティヴィストとは何か。hackerとhacktivistは微妙に違う。元々hackとは(おのなどで乱暴に)<ものを>たたき切る、ぶった切る、切り刻む、めった切りにするという意味だ。それでコンピューター防御をたたき切り、それに侵入することが「ハッキング」となり、それを行う人が「ハッカー」と呼ばれるようになったのだと推測する。

これに対し、「ハクティヴィスト」とはhackとactivist(活動家)の合成語で、単なるハッカーではなく、政治的社会的な主義主張を実現するためハッキングする人々を指すらしい。主義主張を持ってハッキングをしたって、ハッカーはハッカーだと思うのだが、WP記事によれば、どうやら今回は彼らの攻撃対象があのロシアらしいのだ。

これまで「ハッキング」といえばロシアのお家芸、対露サイバー攻撃は難しいとされてきた。ところが今回は、世界中の有象無象のハッカーたち、その中には「ハクティヴィスト」や「犯罪者」も含まれる、がロシアのサイバー空間に侵入し、関係者の機微な情報や政府高官のメールアドレスとパスワードなどを大量に盗み出しているという。

▲写真 ウクライナで戦うロシア軍の象徴であるZの文字を建物に映し出すモスクワ庁舎(2022年3月25日、ロシア・モスクワ) 出典: Photo by Contributor/Getty Images

詳細はWPの記事をお読みいただきたいが、筆者が得た教訓は示唆に富んでいる。すなわち、自前で強力なサイバー部隊を持つことも大切だが、紛争が起きた時、日本が大義名分をしっかり持ち、世界中のハクティヴィストに、問題ある国のサイバー空間に大規模攻撃をかけてもらえるよう促すことも、同様に重要なのだ。

先週ウクライナでの戦況はあまり動かなかった。やはりロシアは苦戦を続けているのだろう。戦争の一進一退は専門家にお任せするが、この戦争、当分続きそうな予感がする。プーチンが5月9日に「戦争動員」を宣言すれば、まさに「大祖国戦争2」となるが、今回のロシアには大義名分がない。されば、プーチンは何時までもつのか。

〇アジア

訪越中の岸田首相が越首相と露のウクライナ侵攻に関し、主権や領土の一体性尊重の重要性を確認、越側はウクライナへの人道支援として50万米ドルを拠出するという。ベトナムは対露制裁に加わっていないだけに、これは目立たないが、日本側がある程度説得に成功したということだろうか。来週韓国では新大統領就任式がある。

〇欧州・ロシア

EUの対露追加制裁でドイツが露産石油の輸入禁止反対を取り下げたが、ハンガリーは、露産エネルギー輸入制限につながる提案に対しても拒否権を行使する方針だという。ハンガリーはスロバキアとともに免除される可能性もあるというが、もしドイツがロシア産ガスの輸入を禁止すれば、日本はどうするのか。微妙なところだ。

〇中東

先週トルコ大統領がサウジを訪問し、国王、皇太子らとイフタール(断食明けの夕食)の後に会談した。エルドアンは保健、エネルギー、食糧安全保障、農業技術、防衛産業、金融におけるサウジとの協力強化が共通の利益だとTwitterに投稿したそうだ。両国が「一件落着」とすれば、米国はこの両国との関係をどうするつもりか。

〇南北アメリカ

先週バイデン大統領がホワイトハウス記者団主催の夕食会に出席した。同夕食会は強烈なジョークの応酬が恒例なのだが、トランプ氏は常に欠席、コロナ禍もあり、今回は6年振りという。バイデン氏は冒頭「米国でただ一つ、私より支持率の低いグループとご一緒できて大変うれしい」と言ったそうだが、こんな良き伝統は日本にない。

〇インド亜大陸

ドイツ首相が議長を務める6月下旬のG7サミットにインド首相を特別に招待するという。こんなことでインドを取り込めるとは思わないが、ドイツはルビコンを渡ったのか、実に興味深い動きだ。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ハッカー(イメージ) 出典:Photo by Chesnot/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."