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.国際  投稿日:2022/5/8

【ファクトチェック】Tweet「ブチャの大虐殺はウクライナ軍がやった」⇒根拠不明


Japan In-depth編集部(樊明軒、仲野谷咲希、御園真大、大林龍平)

【まとめ】

・ブチャの虐殺を行ったのはウクライナ軍だと断定したツイートが拡散されている。

・122mm砲弾をウクライナ軍が使用した証拠は不透明である。

・ツイートが挙げている証拠のロジックの欠如から「根拠不明」と判定した。

 

ロシアによるウクライナ侵攻が開始してから2ヶ月以上が経ち、現にウクライナ東部での激闘が続いている。この一連の戦争は、直接的な戦争だけでなくSNSやメディアを駆使したプロパガンダ・情報戦が繰り広げられているため、ハイブリッド戦とも呼ばれている。このような状況で、さまざまな立場から発信される情報には正しいと断定できないものもある。

今回、編集部は以下のツイートに注目した。

当ツイートは、スペインのニュースサイト「mpr21」の記事「ブチャの大虐殺を行ったのはウクライナ軍である(Fue el ejército ucraniano quien cometió la matanza de Bucha)」を紹介したものだ。

ツイートは「詳報:ウクライナの法医学者による解剖で、ブチャ市民を殺したのは、ウクライナ軍であることが明らかになりました。スレッドに詳細なレポートから要点に絞って翻訳でまとめます。是非お読みになって拡散して下さい」とし、「mpr21」の記事の内容を10の要点にまとめて連続ツイートした。

2022年5月7日13時時点で、1番目のツイートに対してリツイートが2,309回、引用ツイートが412回、いいね!が3,270回となっている。

要点1として、「フランス国家憲兵隊が関わる捜査で、遺体から金属製の“ダーツ”が発見された。この金属製の“ダーツ”が決定的な証拠となり、虐殺はロシアが行ったというプロパガンダがピタリと止んだ」などとツイートした。

そのほか、「ルガンスク軍は、放棄されたウクライナ砲兵陣地から、このダーツが使われている 122mm D-30 砲弾を発見した」。

この兵器は「砲弾1発で8000本のダーツを発射する榴散弾の一種で、戦争法違反の無差別殺傷兵器」であり、

「このD-30砲弾は今紛争でロシア軍は使用しておらず、ましてやブチャで活動した空挺部隊は、そもそもそのような砲弾は扱わない」

「解剖の結果、民間人は明らかにウクライナ軍のD-30砲弾によって死亡したことが明らかになった」

「フランス国家憲兵隊の法医学部門の専門家18人と、キエフの法医学調査チームが調査した結果、両手を縛られて銃などで殺害された遺体には、そのクラスター爆弾のパーツが埋め込まれたケースがあった」

などとツイートした。

しかし、今回取り上げられた口径122mmの砲弾はウクライナ固有の武器ではない。かつてソ連が開発した旧東側の標準武器であり、名前が挙げられた牽引方式のD-30榴弾砲や自走砲型と呼ばれる自動車搭載形式を含めて数万門が製造されている。旧東側ブロックだけではなく商業輸出や軍事援助で第3世界にも普及しており砲弾も各国で作られている。また当のロシアもいまだに保有している。ウクライナ軍がこの武器を使用して虐殺を行ったと決めつけることには無理がある。

今回の虐殺に、この榴弾砲が発射したフレシェット弾(ダーツのような銃弾を子弾として多数内蔵した砲弾)が使われたとしても、どちらの国の榴弾砲から発射されたのか、現時点ではわからない。したがって、仮に遺体からダーツが発見されたとしても、どちらの国の仕業か、断定はできない。

▲写真 教会の集団墓地の近くに埋葬された母親と2人の子供たちの遺体を発掘する法医学チーム(2022年4月12日、ウクライナブチャ) 出典:Photo by Anastasia Vlasova/Getty Images

一方、このツイートの根拠となっているスペインの「mpr21」の記事が出る前、4月3日のワシントンポストの記事は、「ロシア軍がウクライナの民間人を大量虐殺した」と正反対の内容になっている。

ワシントンポストによると、ウクライナ政府はブチャにおける虐殺の調査をICC(国際刑事裁判所)に要請しており、この調査の正式な結果が出るまでは、どちらが一般市民の虐殺を行ったかを断定することはできない。

よって、今回の122mm砲弾を使った虐殺をウクライナ軍が行ったとした当該ツイート、ならびに情報源となった「mpr21」の記事は、「根拠不明」と判断する。

情報の受け手である私たちは流されてきた情報に対し、出所を把握し、信憑性があるかどうかの判断をしてから、「いいね!」や「リツイート」をするのが望ましい。そうでないと、誤情報もしくは根拠があいまいな情報の拡散を行うことになってしまう。

 

【Japan In-depthファクトチェックポリシー】

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トップ写真:墓地に殺害された民間人の遺体を降ろす作業員(2022年4月7日、ウクライナ・ブチャ) 出典:Photo by Chris McGrath/Getty Images




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