コロンビアで急進左派大統領が誕生か 中南米左翼化さらに進む可能性
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・南米コロンビアで今月末、大統領選が行われる。元左翼ゲリラのグスタボ・ペトロ氏が支持率トップ、他候補を大きくリード。
・ただ、第1回投票での過半数獲得は難しく、6月の決選投票に持ち込まれる公算大。それでもペトロ氏の勝利確実との見方が有力。
・急進左派のペトロ氏当選なら、同国の市場開放、自由貿易路線は後退へ。同時に中南米の左翼化傾向は一層進む見通し。
■中道右派候補と一騎打ちへ
5月29日に実施されるコロンビア大統領選には8人が立候補している。
有力候補とされるのは、かつて左翼ゲリラで、首都ボゴタ市長を務めた急進左派のグスタボ・ペトロ氏、同国第2の都市メデジン市の前市長で中道右派のフェデリコ・グティエレス氏、中道派の実業家のロドルフォ・エルナンデス氏、北西部アンティオキア県の元知事で中道左派のセルヒオ・ファハルド氏の4人。
5月10日実施されたコロンビアの有力調査会社の支持率調査によれば、ペトロ氏が40%でトップに立ち、2位のグティエレス氏の21%を大きく引き離している。このあとエルナンデス氏が12%、ファハルド氏が7%で続いている。
ボゴタの有力各紙によれば、過去数カ月、ペトロ氏が先頭に立ち、これをグティエレス氏が追う傾向が顕著になっており、事実上両候補の一騎打ちの形。コロンビア大統領選は有効投票の過半数を獲得した候補が出れば当選となるが、そうでない場合には上位2候補による決選投票が行われる。
ペトロ氏が断然優勢だが、過半数の票を獲得するのは難しく、決着は6月19日の決選投票に持ち込まれる公算大とされる。
■背景には貧困と社会格差への不満
同国では昨年、ドゥケ右派政権が増税を中心とする税制改革案を発表したことが発端となり、大規模な反政府デモが長期間発生した。
この背景には「コロナ禍で一層拡大した社会格差や貧困問題をめぐり国民の間で政府への強い批判と不満が渦巻いている」(国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会=ECLAC=の専門家)と指摘される。
こうした国民の不満をバックにぺトロ氏が歴代の右派政権の政策を厳しく批判していることが支持を集めている最大の要因のようだ。同氏は、貿易関税の引き上げ、労働市場の自由化反対、農地改革の実施などを公約に掲げるとともに環境問題を重視し、コロンビアの外貨収入の大半を占める石油・石炭の縮小、資源探査活動の中止を主張している。
ペトロ氏を追うグティエレス氏は市場経済を基に雇用創出と経済成長を目指す政策を訴えているが、「基本的にはドゥケ現政権の継承者のイメージが強い」(現地経済アナリスト)とされている。
▲写真 中道右派の前メデジン市長、フェデリコ・グティエレス候補(2019年) 出典:Photo by Gabriel Aponte/Getty Images for Concordia Summit
ぺトロ氏が大統領になれば「従来の市場開放と自由貿易に重点を置いた経済政策が大幅に修正される」(前述のアナリスト)との意見が専ら。コロンビア経済界ではペトロ氏の当選に強い警戒感が広まっていると伝えられる。
■政治暴力発生への懸念も
だが、コロンビアの左派が勢いを増していることは確実。3月に実施された上下両院議会選挙ではペトロ氏率いる急進左派連合が躍進したことがそれを裏付けている。
6月の決選投票に向け、中道や右派勢力がグティエレス氏支持に結集すれば、同氏の逆転勝利の可能性が残されている、との見方もあるが、「ペドロ氏勝利への勢いは止められない」(ボゴタの有力政治アナリスト)との見方が現地メディアの間では有力になりつつある。
コロンビアでは1980年代以降、大統領選で4人の有力候補が暗殺されており、今回の大統領選でも投票日が近付くにつれ、政治暴力が起きることを懸念する声も上がっている。
実際、ペトロ氏に対する暗殺計画情報が盛んに取りざたされている。同氏も、最近のインタビューで「私が暗殺されるリスクは高い」と語っており、自身の警護を一段と強化したとの情報がある。
コロンビアでこれまで左派の政治家が政権の座に就いたことはなく、ペトロ氏が当選すれば初のケースになる。
中南米では昨年7月ペルーでカスティジョ政権、今年1月ホンジュラスでカストロ政権、今年3月にはチリでボリッチ政権がそれぞれ発足したが、いずれも左派政権だ。もしも、コロンビアで“ペトロ大統領”が登場するなら、中南米の左翼化の潮流が一段と強まることになるだろう。
(了)
トップ写真:大統領選でリードするグスタボ・ペトロ候補(2022年5月11日 コロンビア・フサガスガ) 出典:Photo by Guillermo Legaria/Getty Images
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、