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.国際  投稿日:2022/5/24

中国「宮廷クーデター」の傍証


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・習近平主席が「脳動脈瘤」を患っているという報道がウェブ上に。

・習主席が「ゼロコロナ」政策を強く主張する中、李首相は公然とマスクを着用せず、周囲にも着用させなかった。

・引退した共産党元幹部が、習近平政権に“干渉”しているのが窺える。

 

今まで、中国の宮廷クーデター発生に関する状況証拠をいくつも提示して来た。本稿はその第4弾である。

その前に、習近平主席が「脳動脈瘤」を患っているという報道(a)を紹介しよう。

習主席に「脳動脈瘤」が生じ、本来、2021年末には入院しなければならなかった。しかし、習主席は、血管を軟化させ動脈瘤を縮小させる手術を受ける代わりに、伝統的な漢方薬を使って治療を続けているという。

習主席は、新型コロナの流行以来、北京冬季五輪まで外国の指導者との面会を避けており、健康不安ではないかという憶測を呼んでいた。

2019年3月、習主席はイタリアを旅行した時、足を引きずって歩いているように見えた。また、フランスへのツアー中、主席が座ろうとした際、周囲の者に支えられているのが目撃されている。

2020年10月、習主席は、深圳で演説中、咳き込み、スピーチがゆっくりだった。そのため、再び健康不安説が飛び交っている。

もし、習主席の「脳動脈瘤」が事実ならば、このような健康状態でも、秋の第20回党大会で第3期目を目指すのだろうか。

さて、本題に入ろう。まず、『澳州新聞網』「中国共産党の習近平不満の高まりか?李克強の復活か?反習派の逆転を懸念する分析」(2022年5月13日付)という記事(b)に注目したい。

4月17日、広西チワン族自治区党委員会は「主席永遠の推戴」、「主席追従」という文革的スローガンを掲げ、習近平に忠誠を誓う初の地方政府になった。さらに、同党委員会は、習主席を称賛する『偉大な復興の先導者に従う』という特集フィルム(c)を発表した。その1週間後、同自治区は「習思想」手帳の広報に乗り出し、写真をHPに掲載している。

ところが、5月11日、同自治区の省都・南寧市が「習思想」手帳の回収・廃棄を命じたというニュースが流れた。また、ネットユーザーから、同政府の「習思想万人向け」サイトの写真やレポートが削除されたと指摘されている。また、同政府のHPでは『偉大な復興の先導者に従う』という宣伝フィルムが検索できなくなった。

仮に、習政権が盤石ならば、果たして、このような事件が起きるだろうか。

次に、『万維読報』の「珍しい!李克強の演説、最近、壁のスローガンになる」(2022年5月18日付)という記事(d)を紹介しよう。

5月17日、ネットユーザー「斉天大勝」は、「貴州省遵義市のメッセージは明らかだ。(李克強首相の)言葉が付け加えられた」と伝えている。

李首相が過去に行った言辞とは「人民の願いに沿った方向で改革を行う」、「行革をさらに推進し、ビジネス環境の最適化に力を入れる」の2つである。

最近、それが遵義市政府要覧に掲載され、大きな議論を呼んでいるという。確かに、李首相の言辞が掲載されるのは奇妙な現象ではないか。

更に、『中国瞭望』「次男は長男と戦い続ける 李克強と習近平が再び対立」(2022年5月18日付)という記事(e)も興味深い。

5月18日、李克強首相は、就職活動中の学生を激励するため雲南大学を訪れた。習主席が「ゼロコロナ」政策を強く主張する中、李首相は公然とマスクを着用せず、周囲にも着用させなかったという。

▲写真 全国人民代表大会の開会式で発言する李克強首相(2022年3月5日 中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

李首相や現地指導を受けた地方官僚、及び住民たちがほとんどマスクを着用していないのを、メディアは確認している(今年4月、李首相が江西省南昌市を訪問した際、役人が周囲の人にマスクを外すよう求めたという)。

このように、李首相が習主席の「ゼロコロナ」政策(f)に対し、公然と反旗を翻している。いくら李首相が、今の中国経済に危機感を覚えているとはいえ、もし「宮廷クーデター」が起きていなかったら、首相が習主席に対し、これほどまで露骨に反発できただろうか。

ところで、話は変わるが、最近、中国共産党中央委員会弁公庁「新時代における退職幹部の党建設工作強化に関する意見書」を発表(g)した。

その「意見書」では、中国共産党の元老達が「党中央の政治方針を妄議(でたらめな議論)してはならず、政治に否定的な発言を広めてはならず、不法社会組織活動に参加してはならない」と強調している。

党が退職幹部たちに「中央に対し妄議を行ってはならない」と要求したのは異例である。つまり、それが実際に行われているという事を示唆しているのではないか。いかに引退した元幹部が、習近平政権に“干渉”しているのかが窺えよう。

ひょっとして、元幹部が習政権を“がんじがらめ”にしている公算もあるだろう。

 

<注>

(a)『The Week』:「習近平が「脳動脈瘤」に苦しむ:報道」(2022年5月12日付)

(b)『澳州新聞網』:「中国共産党の習近平不満の高まりか?李克強の復活か?反習派の逆転を懸念する分析」(2022年5月13日付) 

(c)『广西新闻网』:「偉大な復興の先導者に従う」(2022年4月17日付)

(d)『万維読報』:「珍しい!李克強の演説、最近、壁のスローガンになる」(2022年5月18日付)

(e)『中国瞭望』:「次男は長男と戦い続ける 李克強と習近平が再び対立」(2022年5月18日付)

(f)『中華人民共和国中央人民政府』:今年4月25日、習近平主席が中国人民大学を訪問した際、外ではマスクを着用していなかった。ただし、室内の狭い空間ではマスクを着用している。

(g)『万維瞭望』:「玉座を保つのは困難 習近平はただ給料をもらっているだけ」(2022年5月17日付)

トップ写真:2022年北京冬季オリンピック・パラリンピックへの貢献を称える習近平主席(2022年4月8日 中国・北京) 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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