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.政治  投稿日:2022/5/27

廃校がサテライトオフィスと養殖場に 「高岡発ニッポン再興」その9


出町譲(高岡市議会議員・作家)

まとめ】

・富山県高岡市では空き校舎問題が発生しており、今後も続々と増える可能性が高い。

・同規模の島根県出雲市では、空き校舎をサテライトオフィスや魚の養殖場に活用。

・住民の声に耳を傾けながらどのように廃校を活用するか、行政の力量が問われている。

 私の住む富山県高岡市で課題となっているのは、空き校舎の問題です。

先月、中心商店街に近い平米小学校が廃校となりました。利活用するのか、それとも壊すのか。まったく白紙の状態です。さらに、今後も続々と空き校舎が発生し、このまま放置すれば、高岡市に10もの空き校舎が生まれることになります。巨大な廃墟になる恐れがあるのです。

 空き校舎は、全国的な課題です。ほかの自治体はいったいどのように対応しているのでしょうか。高岡市と人口が同じ規模の出雲市(17万2000人)の現状を視察しました。

 私は5月のある日、出雲市に向かいました。空港から車で40分、海岸沿いの細い道を通って、たどり着いたのは、日本海を見下ろす高台です。見上げると、3階建ての白っぽい建物。それが日御碕(ひのみさき)サテライトオフィスです。今年3月にオープンしました。周囲は山々に囲まれ、自然豊かな環境です。閉校となった出雲市立日御碕小学校の跡地を利用したものです。高速のインターネット回線も完備しています。

 縁結びの神様として有名な出雲大社や、日本一の灯台の日御碕灯台もあり、休暇と仕事を兼ねた「ワーケーション」にはうってつけというのが出雲市の売りです。

 サテライトオフィスに整備したのは3階部分です。8530万円の整備費のうち、4分の3はテレワーク交付金で国からお金が出ています。

 なぜ、小学校がサテライトオフィスになったのか。出雲市役所の担当者は、「視察に訪れた企業からサテライトオフィスにしたいと希望がありました。旧日御碕小学校は、サテライトオフィスに向いていると判断し、整備・募集をかけました」と語っています。テレワーク交付金の存在も、出雲市の背中を押したといいます。

 出雲市は普通教室、理科室、音楽室などを改修し、オフィスにしました。募集をかけていた部屋はすでに埋まっています。ソフトウエアの4社が入居。そのうち3社は東京の企業です。今年度、さらに2つの普通教室をオフィスに改装します。

 オフィスルームは、一室あたり53平方メートルから72平方メートルです。家賃は1カ月3万1000円から4万2000円です。

 オフィスのスペースのほか、オンライン会議のできるスペースコワーキングスペースも備えています。

 資金助成や家賃助成などさまざまなサポートも備えています。特に注目されているのは、東京と出雲間を結ぶ飛行機の航空運賃の助成金です。3年間にわたって3分の1(年間最大150万円まで)支払われます。

 コロナ危機をきっかけに、テレワークが普及。出雲市は、こうした時代の潮流を読み、国の制度も利用しました。

写真)海の見えるサテライトオフィス(筆者提供)

サテライトオフィスだけではありません。

 出雲市には、カワハギの養殖場に生まれ変わった空き校舎もあります。出雲市奥宇賀町の旧光中学校です。養殖場は武道場だった360平方メートルを改装しました。

 2000匹が入る飼育用の水槽が2基予備水槽が3基設置されました。1匹30グラムほどの稚魚を、300グラムほどになるまで飼育します。

 今年秋には1000キロ程度の出荷を目指します。JR西日本のグループ会社、JR西日本イノベーションズが、設備や稚魚、エサを調達し、魚のブランディングや販売などを担当し、地元の建設会社、昭和開発工業(出雲市)が実際の生産を行います。

 なぜ、養殖場になったのでしょうか。この光中学校は、昭和開発工業の社長と会長の母校でした。廃校で地元が寂しくなっていました。出雲市が空き校舎の利活用を募集していたところ、昭和開発工業は、海に面した土地だということもあり、陸上養殖を提案しました。その上で、JR西日本イノベーションズに協力を求め、カワハギに落ち着きました。

 

写真)養殖の魚にえさやり(筆者提供)

 JR西日本グループの陸上養殖は、鳥取県の「お嬢サバ」、富山県の「べっ嬪さくらます うらら」などに次いで8例目です。廃校を活用するのは初めてです。

 サテライトオフィスと魚の養殖場。出雲市では廃校が全く機能の違う2つの用途で利用されています。共通しているのは、外の力を呼び込んでいる点です。サテライトオフィスでは、国の交付金を利用し、東京の企業を呼び込んでいます。養殖場では、JR西日本のグループのノウハウを生かして、「出雲産カワハギ」として“外貨”を稼ごうとしています。

 さまざまな活用方法があります。全国で毎年500校も廃校となっています。住民の意見を聞きながら、それをどう利活用するか。行政の知恵と実行力が問われています。

トップ写真)日御碕サテライトオフィス(筆者提供)




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