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.政治  投稿日:2022/6/29

“NTT”は「転職なき移住」の号砲 「高岡発ニッポン再興」その12


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・NTTグループは社員約3万人を原則テレワーク勤務とする方針を掲げ、出社を出張扱いにすると発表。

・伝統的巨大企業が大きな働き方改革を行えば他の企業も追随し、地方への移住人口増加のチャンスとなるだろう。

・高岡再興のためには、大きなトレンドを逃さずに政策を打ち出すべきである。

 

以前もこの連載でお伝えしましたが、高岡市は昨年度1年間で、1699人の人口を減らしました。過去10年で最大の下げ幅です。加速度的に人口が減っているのです。出生数は去年に比べ8人増えましたが、それでも低い水準です。出生数を伸ばすのは簡単ではありません。

厳しい現実に直面しているのですが、起死回生のチャンスが出てきました。私がそれを痛感したきっかけは、NTTグループの働き方改革です。

さまざまな報道で伝えられ、周知の通りですが、およそ3万人を原則テレワーク勤務とするというものです。対象となるのは、NTTドコモ、NTT東日本、NTTデータなどの従業員の半分です。7月1日から始まりました。

新興のIT企業のテレワーク勤務はよくありますが、NTTのような伝統的な巨大企業が動いた意味は極めて大きいのです。高岡、いや日本の社会を根底から揺さぶる可能性があります。

勤務場所は全国どこでもよく、原則「自宅」です。出社が必要な際は出張扱いとなり、飛行機代も出るというのです。つまり、NTTの東京に勤務しながら、高岡に住み、出社が必要な際には、飛行機で出社します。

NTTはすでに去年9月に転勤や単身赴任をなくすため、テレワークを推進する方針を表明していましたが、それをさらに進めた形です。

NTTはグループ会社含めると、18万人社員がいます。このグループ会社全体に広げていく方針だとも伝えられています。NTTグループが動けば、ほかの企業も追随する可能性は十分あります。今までの常識が大きく覆されるのです。

  そうなると、誰もが出身地や、好きなところに住むことができます。しかし、会社はそのまま辞めずに勤務する。そんな「転職なき移住」の号砲が鳴らされたのです。全国の自治体では、受け皿となるように、激しい競争を展開するでしょう。高岡にとってはチャンスが到来したのです。移住人口が増える可能性があるのです。

写真)出雲市のサテライトオフィス

出典)本人撮影

 多くの市町村が虎視眈々と狙っています。先日、私が訪れた松江市の職員は「転職なき移住」に目をつけていると熱心に話していました。NTT報道の前でしたので、「いきなり移住というのは難しい。まずは“ワーケーション”からです」と話していました。

 ワーケーションというのは、余暇と仕事を組み合わせたものです。ワーケーション誘致のため、企業や島根大学と共同の事業体を立ち上げています。ワーケーションをきっかけに、移住や定住につなげる方針です。また、仕事の合間にヨガ体験などができる宿泊プランなどもあります。一方、同じ島根県の出雲市では、サテライト交付金をつかって、空き校舎を整備しました。4分の3、国が出してくれます。NTT報道以前にもかかわらず、松江市も、出雲市も人口を少しでも増やそうと意欲満々でした。

これは歴史的な大きな動きになるような気がします。振り返れば、日本は1871年に廃藩置県を断行し、中央集権国家に舵を切りました。それ以来、150年間、都道府県が国にぶら下がる形で、多くの人や企業が東京に吸い寄せられました。東京に行かなければ仕事がないというのが多くの人の考えだったのです。

私自身も、そんな思いで、高校卒業後、上京。東京の大学を出て、東京本社の企業に就職しました。しかし、今後は東京本社の企業にいながら、高岡で生活できるのです。東京一極集中が揺らいでいく可能性があるのです。

高岡市も、こうした大きなトレンドに乗り遅れてはいけません。しかし、残念なことに、今のところ、市独自の動きはあまりありません。国の移住支援金などに頼るばかりです。国の移住支援金は破格です。単身なら60万円、2人以上なら100万円。さらに今年4月からは18歳未満の家族一人いれば、30万円加算される制度を打ち出しています。私は、高岡市、独自政策を打ち出すべきだと思います。

前述した出雲市が空き校舎整備に使ったテレワーク交付金にしても高岡市は申請する様子はありません。国が4分の3も出してくれるおいしい交付金なのに、動かないのは極めて残念です。

私は、地方が生き残りをかけて競争時代に突入したと思います。高岡再興のためには、大きな時代の流れをつかむ必要があるのです。

トップ写真:カリフォルニア州パロアルトのシリコンバレーのコーヒーショップ内でテレワークをする男性(2017年9月20日)

出典)Photo by Smith Collection/Gado/Getty Images




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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