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ビジネス  投稿日:2022/7/8

「スモールビジネスから始めてみよう!」学習塾NEXT GENERATION前田龍吾代表取締役


【 まとめ】

・やりたいことがあるのなら起業はリスクだと捉えないこと。

・何でもいいのでスモールビジネスを始めてみよう。

・まずは1円でもいいから稼いでみること。

 

大学の新学期が始まってから約4ヶ月が経とうとしている。皆さんはどう学生生活を過ごしているだろうか。

 

大学に入ったら起業したいと思っている1年生や何かに挑戦したい2、3年生は一歩踏み出せているだろうか?

 

今回は何かに挑戦したいと思ってはいるものの、なかなか行動に移せていない人に向けて、一人の塾員の挑戦を紹介したい。

 

学生起業家前田龍吾氏、その人だ。学習塾NEXT GENERATIONの代表取締役を務める。

 

前田龍吾氏は慶應義塾大学商学部の3年生で、2019年の秋から2年間大学を休学して沖縄で学習塾 @nextgene1221 を立ち上げた。一人一人の子供に合わせた教育をオーダーメイドで創れる社会創りを志している。

 

現在2年目にして年商約800万円、昨年まで定員を15名に制限して教育モデルを作ることに専念していたが、今年からは年商3000万円を目標に事業拡大する予定だ。また、今後は学習塾ビジネスを毎年2倍〜3倍程度成長させながら、そこの事業で得るキャッシュとデッドファイナンスにより、個別教育を実現するAI先生を開発する教育スタートアップに投資していく予定である。

 

前田龍吾氏インタビュー

 

樊:そもそも教育に関心を持った理由と学習塾を立ち上げた経緯は?

 

前田氏:僕が一番最初に経営者になりたいと思ったのは高校3年生の夏でした。というのも僕は元々やりたいことがありませんでしたが、たまたま学生起業家の先輩と話しているうちに起業の世界を知り、やりたいことをできるようにするのが起業家だと教えてもらったんですね。

 

その後、大学に入ってから2年の秋までいろいろと学生団体に所属して活動をしましたが、やはり誰かが創ったプロジェクトに参加しているだけの自分がすごく嫌でそこから起業を決意しました。

 

起業するとなったところで、誰のためにやりたいのかと考えたときに、僕が沖縄出身ということもあって、教育格差をなくしたいと思い、学習塾を立ち上げました。

 

なぜ沖縄の教育格差に問題意識を持っていたかというと、僕は元々東大に行きたかったんですが、問題を解いていくときに、分からない問題を学校の先生に持って行っても「ごめん!その問題は先生も分からない!」という状況だったのです。

 

勉強に関してだけでも東京と沖縄の格差というのをめちゃくちゃ感じますし、それこそ大学進学するかどうかもですし、どんな職業に就くかも沖縄にはあまりにもロールモデルが少ないので、みんなは公務員になれたらいいねってなっていました。

 

ただ、やはり受験で第一志望がダメだった悔しさが自分の中にくすぶっていたのが起業するに至った直接の原因かと思います。

 

樊:挑戦する時に劣等感を原動力に変えていくことが必要だということか?

 

前田氏:大事ですが、必ずしも必要だとは思いません。人間は二種類いると僕は思っていて、モチベーションをもつ時に、何々やりたいからやるという人と、こういうのは嫌だから頑張るという人に分かれていると思います。

 

要はプラスを目指してプラスに惹かれていくのと、マイナスに反発する力で頑張るという人がいて、僕は後者で、自分の過去を振り返った時に、過去の悔しい経験が多いからこそ未来は自分が望む形にしていこう!という感情を原動力にしていました。

 

起業家はよく綺麗なものだと捉えられがちだけど、僕はむしろ自分の中のドロドロとした感情が日々の原動力になっていますね。

 

写真)

前田氏が経営する学習塾@nextgene1221

 

樊:学生の起業は信用がないので資金調達が難しいと思うが、学生起業だからこその難しさは何か。

 

前田氏:もちろん信用は大きくて、たかが大学生がやっている事業をちゃんと聞いてお金を払ってくれる人がなかなかいないのはやはり難しいところだと思います。

 

僕の場合は生徒の親御さんにとにかく自分の夢を語っていき、生徒の入塾を説得しました。これは逆に学生起業家の武器だと思いますが、自分の夢をどれだけ語って大人を感動させるかがやはり何もない故の武器だと思います。

 

資金調達は学生起業のメイントピックでありますが、これはスモールビジネスをするか、スタートアップをするかで話が変わります。

 

スモールビジネスをするならバイトでお金を貯めればよい話です。僕が塾を始めた時は他の会社とワーキングスペースを共有する形で、都度使った分だけ料金を払いました。机も電気も全部あるので僕はスタートを赤字の出ない状態で始められました。だから、スモールビジネスは、資金調達がそこまで必要でなく、バイトで50万〜100万円貯めれば大丈夫だと思います。

 

例えば月6万の物件を借りるとすると、30万の初期費用と20万くらいあれば始められます。学生起業はいかに最初のところでお金がかからないようにできるかが大事です。

 

塾に限って言えば、最初からSNSとかで生徒を掴んでおくことですね。入る前提の子を確保できればOKです。赤字じゃない状態から始める環境を創ることが可能というのはスモールビジネスの強みですよね。

 

樊:これからスタートアップを始めるつもりはあるのか?

 

前田氏:そうですね。僕はあまり投資家を入れない形で経営しようと考えています。というのも、スモールビジネスから始まるイノベーションをもっと作っていきたいなと考えています。スモールビジネスだけでも数百万、数千万の利益を得ることが出来たりするので、その資金を毎年投資していけば全然可能だと考えています。

 

投資家がいるとどうしても彼らの意見を聞かないとだめなので、自分だけで理想を追求するのは難しいです。

 

スモールビジネスで商売の基本を学んだ上で、その延長線上に見えるイノベーティブなアイデアを成し遂げるというのも一つ形としてあっていいのかなと思いますし、自分自身がこういった学生起業の形を皆さんに見せられたらなと思います。

 

樊:今経営されている塾はどんな組織体制か?

 

前田氏:今、マネジメント層は僕一人だけで、経営に関しては全部一人で決めています。僕が立てた戦略を残り6人のスタッフの方に実行してもらうという形でやっていますね。

 

大きく分けると今に至るまでに3つの段階に分かれていて、起業当初は僕と同じ慶應義塾大学経済学部の同級生と一緒にやっていましたが、ある日突然お金を持ち逃げされました(笑)。

 

その後は高校の友達と3人でやっていましたが、仕事の関係と友達の関係がどうしても割り切るのが難しくて、仕事で関係が悪くなると友達としての関係も悪くなってしまうし、逆もまたしかりで、それからは一人でやりました。

 

学生起業だとどうしても皆さんチームでやりたがりますが、一人でも案外やれますし、むしろ全部やらないといけないです。法律の勉強も、確定申告とかの税金に関する知識も必要ですし、SNSのPR戦略も考えなければならないので、めちゃくちゃスキルが磨かれます。

 

本当に必要ならチームを組むのは全然OKだと思いますが、変に群れる必要はないと思います。要はマネジメントとオペレーションを分けるのが大事で、オペレーションは何人いても結構ですが、マネジメントに関してはスモールビジネスの場合しばらく一人の方がいいのかなと思いますね。スモールビジネスの場合は一人で経営について学んでいけるので、極力人件費やコストを削減しながら頑張っていくことが重要かなと思います。

 

樊:お金を持ち逃げされてもビジネスを続けられた理由は何か?

 

前田氏:当時はすごく悲しかったですが、辞めようとは思いませんでした。その理由は、やはり自分が本当に沖縄の教育に問題意識を持っていたからだと思いますし、自分にしかできないことをして、生きている実感を味わいたい感情は強くエネルギーとしてありましたね。

 

樊:しかし、起業には必ずリスクが伴う。通常の会社員は定年があって生涯賃金が約3〜5億だと言われている一方で、起業家は収入の幅も広い分、安定するのが難しくリスクが大きい。前田さんは起業を選択したとき、そのリスクについてどう考えていたのか?

 

前田氏:結論から申し上げますと最初から起業をリスクだと捉えていませんでした。そもそもそれを気にする時点で起業する目的がキャッシュを得たいのだと思いますが、僕はそっち側ではありませんでした。大学に入った後自分のことを考えていた時に、このまま慶應でサークルに行って、それなりに良い成績をとって、大企業に就職するのはつまらないなと思ったんです。そういう人生を送ることも難しいし頑張らないといけないのは分かっていますが、ただ、僕はその頑張った先に自分が望んだ未来が見えませんでした。それよりも、せっかく一度きりの人生だから、自分にしかできないことをしてみたいという気持ちの方が強くて収入の多寡は気にしていませんでした。たとえ学生起業が失敗してもその経験が実績になります。僕は起業して、だめだったとしてもその経験を基に就活頑張れると考えていました。起業をした時点で一歩先へ行っている感じがします。

 

樊:起業しようと考えている学生へのアドバイスは?

 

前田氏:キャッチーに言えば、スモールビジネスから始めてみたらと思います。どうしても学生起業家界隈では、スタートアップが輝いて見えると思いますが、学生には経営の知識がないし、肌感覚でどうやったら上手くいくかも分かりません。こうした中で、スモールビジネスはリスクは少なく、一方で、手堅く稼げるビジネスモデルです。既存のビジネスにちょっと+αしてニッチビジネスで勝つという経験をまず積んでみると、自分がアクションをする時のハードルも下がりますし、経験を積むことにもなるので、もしくすぶっている人がいたら、既にあるビジネスで自分が出来そうなものをやってみるのが良いと思います。

 

僕の場合は、起業しようと考えたときに自分の武器は何かと考えて、高校時代に沖縄県で首席を取ったという分かりやすいバリューを提案できると気づいたのです。且つ、大手にはできないことをやろうと思ったんですね。大手の塾は集団授業がメインなので、大手の塾の生徒の話を聞くと、もっと質問対応の時間を作ってほしいとか、もっと自分の勉強ペースを見てほしいとか、一人一人を細かく見るというところが大手には難しいのです。だから、僕はそこがやりどころだと思いました。

 

このように大手にできないことは結構あって、スモールビジネスから始められることはきっと見つかります。だから、世界を変えるイノベーティブなことを最初にやるのではなく、2点目3点目で狙っていけばよいと思います。

 

僕の場合、塾を経営していく中でやっと子ども一人一人に最適化されたAI先生を作るというイノベーションを引き起こせそうなアイデアに出会えました。今、世の中には豊富な参考書や動画教材がありますが、それをどのように使うのかわからない生徒だったり、そもそも学習習慣をうまく作れてない子供達が多くいます。僕の塾は勉強ではなく、勉強法を教える塾なのですが、その「勉強法を教える」という部分をAIによって自動化することによって、個人に最適化されたコーチングが実現できるという構想です。このように、イノベーティブなアイデアはスモールビジネスから生まれて来ることもありますので、やはり何かしらスモールビジネスを始めてみるのが良いと思います。

樊:最後に挑戦したくてもなかなか行動に移せていない人たちに向けて伝えたいことは何ですか?

 

前田氏:抽象的かもしれませんが、答えは身近なところにあるということを伝えたいです。昔の自分はとにかく華やかな起業の世界に憧れて、新しいアイデアを探そうとしていたのですが、結局やったのが学習塾であったように、既に知っているビジネスをやりました。

 

身近にあって自分の中にあるものに目を向けてみて、それでできることがないか、考えてみてほしいです。本当に何から始めても良いと思います。自分や他の人が困っていることとかはよく聴くといいかもしれないですね。案外そこに求めている答えが潜んでいたりするので、人は何に悩みを持っているのだろうと考えてみたり、日常をもっと深く見ることがよいのかもしれません。そして、まずは1円でもいいから稼いでみることが大事かなと思います。頑張ってください。挑戦する学生の皆さんを応援しています!

 

前田氏のインタビューは、2022年5月20日に行われました。

写真提供:前田龍吾氏。

・スモールビジネスとスタートアップの違い

スモールビジネス:既に市場が存在することが証明され、市場環境の変化は少ない。自己資金、銀行融資で成り立つ。既存市場をベースにした持続的イノベーションである。

スタートアップ:市場が存在することが確認されておらず、不確実な環境の下で競争が行われ、タイミングが非常に重要である。ベンチャーキャピタリストや投資家がステークホルダーとなる。既存市場を再定義するような破壊的イノベーションである。

 

出典:内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局

 

現在の日本では、米国や中国と比べ世界レベルで戦えるベンチャー企業はまだまだ少ない。米中との差の大きな原因には「リスクキャピタル[1]」「ベンチャーキャピタル」[2]といった投資資金が少なく、スタートアップが育たない点が挙げられている。こうした現状を打破する一つの方法として、国は大学の質の高い研究成果・人材を活用し、スタートアップ創出を目指す「大学強化」の必要性を訴えている。

 

スタートアップの数が足りていない日本の現状として、ベンチャー・スタートアップの成長によって日本経済を発展させるためには、アントレプレナーシップ[3]がある学生起業家を増やしていくことが必要だ。アメリカのGAFAも元はといえば一ベンチャーに過ぎなかったのだ。学生も含め、日本の起業家には大きな目標を掲げて頑張っていただきたい。

 

ただ、学生がいきなりグローバルな規模のスタートアップを立ち上げることは決して容易いことではない。そこで、前田さんのようにまずはスモールビジネスから始めて学生時代にビジネス経験をしっかり積み、同時に信用を得ることが大切だろう。そこからスタートアップを視野に入れることで、学生が自分の志を形にする一つのロールモデルになり得る。スタートアップ企業が育たない日本社会の変化にも繋がるのではないだろうか。

[1] 経営危険を負担する役目を負った資本

[2] ハイリターンを狙ったアグレッシブな投資を行う投資会社

[3] 新しい事業を創造し,リスクに挑戦する姿勢




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