バイデン大統領、支持率過去最低の30%に
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・バイデン大統領に対する支持率は今年30%ぐらいまで下落。
・長年に民主党を支持するアマゾンの創設者ジェフ・べゾス氏はバイデンを強く批判する。
・バイデン氏支持率の低下をめぐって自身の統治や実務の能力という深刻な課題が浮かびあがる。
アメリカのジョー・バイデン大統領がまた一段と人気を落とした。同じ民主党陣営の内部でもバイデン大統領へのあからさまな批判が噴出してきた。一連の世論調査でもこれまででまさに最低の支持率の30%という水準まで落ちてしまった。民主党全体としてはこの状況を今年11月の中間選挙や2024年の大統領選に備えての深刻な危機と受け止めている。
バイデン大統領はここにきて異様に高いアメリカのインフレ率をめぐり、長年の民主党支持の大物からも猛攻撃を浴びるようになった。
「バイデン大統領の発信は単純な誤認か、市場の動きの基本の深い誤解のいずれかだ」
7月22、ツイッターでこんな発信をしたのはアマゾンの創設者でワシントン・ポストの社主ジェフ・べゾス氏だった。バイデン大統領が同じ日にいまのアメリカのインフレの象徴といえるガソリン価格の高騰に対し「ガソリンスタンドが販売価格を下げればよいのだ」と発信したことに対する正面からの反論だった。
べゾス氏といえば長年の民主党支持、反共和党のリベラル派としても知られてきた。2020年の大統領選ではバイデン候補を熱心に支援した。トランプ前大統領には激しく反対した。登場後のバイデン政権にもワシントン・ポストを通じて支持をみせてきた。
そんな人物がバイデン大統領を名指しで批判するようになったのだ。実は5月ごろから始まった論戦ではべゾス氏は同大統領のインフレについての主張を「偽情報(Disinformation)」とまで断じていた。同大統領がいまのアメリカの高インフレは大企業が税金を十分に払っていないことが原因だ、と述べたことへの反撃だった。
アメリカのインフレ率は2022年5月に前年同期から8.6%上昇し、1981年以来の最高となった。その結果、一般国民の生活必需品の価格は軒並みに上がり、とくにガソン代の高騰が激しかった。
一般ガソリンの価格は1ガロン(約3.8リットル)が昨年6月には3ドルほどだったのが今年6月には5ドルに達した。車社会としての特徴が顕著なアメリカ社会への影響は巨大なわけだ。
▲写真 サンタバーバラ郡にあるトムズガスアンドマーケットの独立したサービスステーションのガス価格(2022.6.12) 出典:Photo by George Rose/Getty Images
バイデン大統領はガソリン価格高騰の理由をほぼ全面的にウクライナ戦争のせいだとする。インフレ全般については大企業の役割以外に主因はコロナウイルスだと主張する。だが石油業界などはバイデン政権が地球温暖化防止や環境保護の名目の下にアメリカ国内での石油生産を極端に制限し、カナダからの石油ラインも禁止したことをガソリン高騰の主因として指摘する。
インフレについてはバイデン政権の「大きな政府」策による1兆9千億ドルの景気刺激や1兆7千億ドルの気候変動策・医療保険拡大という巨大な政府支出が経済を過熱させたという分析が多い。
だがバイデン大統領がマクロ経済や財政の基本に踏み込んでインフレを論じることはない。このへんでどうしてもバイデン氏自身の統治や実務の能力という深刻な課題が浮かびあがる。
インフレでは同大統領は衝撃的な発言をした。6月16日、ホワイトハウスでAP通信記者のインタビューに応じた際の反応だった。AP記者はインフレ率の異様な上昇とガソリン価格の急騰を提起して大統領の見解を問うた。大統領は答えた。
「(アメリカのインフレ率が高いことが)もし私の失策の結果ならば、なぜ全世界の他の主要工業国のインフレ率はみなアメリカより高いのか。自分の胸に聞いたらどうか」
バイデン大統領は主要先進諸国の間でもアメリカのインフレ率が突出して高いことも知らなかったようなのだ。
バイデン氏のこの特殊状況については同じ民主党のオバマ政権の高官だったデービッド・アクセルロッド氏が「バイデン氏自身が政権を統率していないために混乱が続くのだ」と、絶望にも近い考察を述べていた。
こうした流れのなかで7月中旬に入り、バイデン陣営にとってはさらに衝撃的な世論調査結果が公表された。全米世論調査機関の「シビクス」社によると、最新のバイデン大統領に対する支持率は30%という最低水準を記録した。これに対して不支持率は57%だったという。
これまでバイデン大統領への支持率は一連の世論調査では昨年は50%台から60%台を上下していたが、今年に入って40%を切るようになった。ただし30%という数字はこれまでの全米世論調査では初めてだという。
一方、ニューヨーク・タイムズとシエナ大学合同の世論調査でもバイデン大統領への支持率は33%という低水準だった。同じ調査での2024年の大統領選にバイデン氏の再出馬を望むかという質問に対しては「ノー」という答えが全体の64%にも達したことが注目された。バイデン氏再出馬を支持する意見は全体の24%だったという。
このようにバイデン大統領は本来の支持勢力の民主党層の間でも人気を失ってきたわけである。
トップ写真:バイデン大統領が大統領執務室でメキシコのオブラドール大統領と会談(2022.7.12) 出典:Photo by Chris Kelponis-Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。