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.国際  投稿日:2022/12/22

アメリカ中間選挙の読み方 その3 下院での共和党の攻勢


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

 

【まとめ】

・共和党は中間選挙で下院における民主党に対する逆転を踏まえ、民主党攻撃の構え。

・共和党は バイデン大統領の次男ハンター氏の不正疑惑を議会として追及する方針。バイデン大統領に対する弾劾措置も。

・トランプ前大統領に対するバイデン政権の司法当局の利用の政治性探査も取り上げる方針。

 

11月8日に投開票だったアメリカの今回の中間選挙では具体的な最大変化の結果を示した下院で共和党222議席、民主党213議席という最終集計が12月6日までに確定した。野党の共和党がそれまでの多数派の民主党に対して逆転を果たし、1月3日からの新議会では議長や委員長のポストを独占して、議事運営の主導権を握ることとなったわけだ。

下院では共和党側はこの勝利を踏まえての新たな民主党攻撃の構えを固め始めた。マッカーシー議員はじめ共和党の有力議員たちがすでにバイデン政権への政治的、政策的な批判や反対を果敢に開始する意図を宣言している。

実はマッカーシー議員ら下院共和党議員の有志は中間選挙に備えて公約を発表していた。「アメリカへの誓約」と題したこの公約は「アメリカ国民は生命、自由、幸福の追求の権利を貴重とみなし、自由の防衛には究極の犠牲をも払い、アメリカの遺産と夢を尊重する」とうたっていた。

だがこの公約は「この2年ほどは不幸なことにアメリカは民主党の過激で欠陥のある政策のために危機を招き、インフレと犯罪に悩まされ、教育制度や国境の治安が攪乱され、国際社会では愚弄されるようになって、すっかり本来の軌道を外れてしまった」とバイデン政権を非難していた。

 「アメリカへの誓約」はさらに共和党が下院で多数派となれば、連邦議会の第1日目から経済を強化し、安全と自由の復活する社会を発展させることに努めるとも誓っていた。

マッカーシー議員はさらに投票日の2日前のテレビ・インタビューで共和党が多数派となった場合の新政策や新戦略をより具体的に語っていた。そのなかにはバイデン大統領に対する弾劾措置をも求めるという先鋭な方針も含まれていた。

同議員はそれら新政策についてインフレ対策、犯罪防止策、国境治安強化策をまずあげて、とくにいまのアメリカがバイデン政権による政府支出を無制限といえるほど増す「大きな政府」政策の結果、異様に高いインフレに悩まされているとして、政府支出の削減を訴えた。

マッカーシー議員は共和党多数の新下院が不正疑惑の追及という形で民主党陣営を対象に証人喚問とか宣誓証言という法的拘束力をも課す手段で不正疑惑を追及する方針をも強調した。同時に同議員は下院の民主党側が設置した昨年1月のトランプ前大統領支持者たちの議事堂乱入事件に関してトランプ氏の責任を追及する特別調査委員会を新議会では閉鎖するという意向をも表明した。

こうした対応は民主、共和両党の対立の激しさの反映だといえる。同時に多数派がどの政党かで議会全体の運営がいかに異なるかの例証でもあろう。

共和党側で下院の監察・政府改革委員会や司法委員会の有力メンバーのジム・ジョーダン議員やジェームズ・カマー議員はマッカーシー議員とともにのぞんだワシントンの記者会見で バイデン大統領の次男のハンター氏をめぐる不正疑惑を議会として追及する方針を明示した。

ハンター氏は父のバイデン氏が副大統領だったオバマ政権時代に中国やウクライナの腐敗企業と接触し、不透明なコンサルタント契約を結んで巨額の報酬を得た。この行動が父親の影響力の不正利用など刑法違反となる疑惑が深まり、実際に刑事事件の捜査対象となっていた。

ジョーダン議員らはこのハンター事件にはバイデン氏がからむ疑いもあるとして下院の関連委員会で徹底調査して、バイデン大統領に対する弾劾提訴をも視野に入れて進むことまでを強調した。

ジョーダン、カマ―両議員はさらにバイデン政権の責任追及という性格の調査としてアフガニスタンからの米軍撤退の際の混乱、中南米からの大量な不法入国者による国境警備の空洞化、新型コロナウイルスの大感染での中国の責任追及、さらにはトランプ前大統領に対するバイデン政権の司法当局の利用の政治性探査をも取り上げることを言明した。

これまでトランプ氏や共和党への攻撃の舞台となってきた連邦議会の下院がこんどはぐるりと逆転して、バイデン大統領や民主党側への攻撃の矢を放つ母体になるという国政の激変が予想されるのだ。

(つづく。その1その2

トップ写真:記者会見を行うケビン・マッカーシー(2021年7月21日、アメリカ・ワシントンDC)

出典:Photo by Kevin Dietsch/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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