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.国際  投稿日:2022/7/26

中国、米下院議長訪台に強硬に反対


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#29」

2022年7月25-31日

【まとめ】

・ペローシ下院議長の訪台中国、強い態度で反対の意向。米政府内でも慎重論。

・中国は極めて強硬で、「訪問が実施されれば(軍事的な)危機となる」との見方も。

・現在は、人民解放軍の戦闘能力が飛躍的に増大し、中国側が軍事的に対応する可能性が増している。

 

先週末ワシントンから帰国した。今回の出張は約一週間、久しぶりで20人以上の旧友たちとじっくり話す機会を得た。勿論、彼らとはZoomや電話でも話せるのだが、どんなネット会議も「対面の雑談」には敵わない。安倍元首相が凶弾に倒れた際、菅前総理が「同じ空気を吸いたかった」がために奈良に急行したのと同じである。

という訳で、筆者のワシントン出張のスタイルは「定点観測」であり、過去40年以上、この手法は基本的に変えていない。「定点観測」とは、毎回信頼できる同じ友人(筆者は「百葉箱」と呼んでいる)とのみ本音の意見交換を行うこと。毎回同じ「百葉箱」を開いて、温度、風力、気圧などをチェックし、ワシントンの「天気図」を作るのだ。

ワシントンのような政治の町で、訪問するたびに違う人たちに会うのは実に非効率である。あの町では簡単に「新しい友人」など作れないからだ。詳細は今週の産経新聞WorldWatchをご一読願いたいが、筆者はこのワシントンの30個ほどの「百葉箱」たちと、文字通り、死ぬまで付き合うつもりである。

さて、前回に引き続き、今回もワシントンでの印象を書こう。気になったのはペローシ下院議長の訪台だ。現地到着2日後の7月18日に英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、ペローシ米下院議長が8月に計画する台湾訪問をめぐり、中国が従来より強い態度で反対の意向を米側に伝えており、米政府内でも慎重論が出ている、などと報じた。

筆者もワシントンのシンクタンク関係者から似たような話を聞いた。今回中国は極めて強硬であり、米政府関係者だけでなく、シンクタンクアジア専門家たちにも、「訪問が実施されれば(軍事的な)危機となる」などと警告したそうだ。一方、「中国は米大統領府と議会の関係が全く分かっていない」という声も米専門家から聞いた。

FTによれば、「国防総省は台湾海峡の軍事緊張を高めかねないと懸念するが、脅しに屈して中止すれば中国の増長につながるおそれもあり、バイデン政権はジレンマに陥っている」のだそうだ。しかし、この種の中国側反応は毎度のことで、確か1997年にも当時のギングリッチ下院議長が訪台したと記憶する。

当時と異なるのは、中国人民解放軍の戦闘能力が飛躍的に増大し、中国側が軍事的に対応する可能性が増していることだろう。ペローシ議長は訪台計画を公式に確認していないが、FTに抜かれてしまった以上、水面下で動きにくくなってしまったかもしれぬ。彼女の判断次第では一波乱あるかもしれないので、当分要注意だ。

▲写真 軍事訓練を行う台湾軍(2022年7月26日、台湾・シンチュ) 出典:Photo by Annabelle Chih/Getty Images

〇アジア

25日、ミャンマー国軍はスーチー氏のNLD(国民民主連盟)元議員や民主活動家ら4人の死刑を執行した。政治犯の死刑執行には国際的な反発が拡大する可能性が大だ。それにしても、独裁政権には「正しい」決定でも、国際社会では「暴挙」となる典型例であり、ロシアや中国でも同様の判断ミスは続くと見た方が良いだろう。

〇欧州・ロシア

ローマ法王がカナダを訪問し、19世紀からの先住民同化政策の下、カトリック教会が運営する寄宿学校で大規模な虐待があったことにつき先住民たちに謝罪したそうだ。これも歴史的和解の一つだろうが、こうした和解には「謝罪する勇気」と同時に、その「謝罪を受け入れる勇気」も必要であることを示している。

〇中東

エジプトの刑事裁判所が同国で多発するフェミサイド(女性標的殺人)抑止のため、女子大生殺害の死刑囚の死刑執行を生中継できるよう議会に対し法改正を求めたそうだ。うーん、そんなことで女性に対する犯罪が抑止されるのかね?問題はTV生中継の有無ではないだろうに・・・。いかにもエジプト的な気がする。

〇南北アメリカ

10月のブラジル大統領選挙に、現職で右派のボルソナロ大統領が再選を目指し立候補を表明したが、支持率は低迷しており、左派の前大統領にリードされているそうだ。右派と言ってもボルソナロ氏は「トランプ的」だし、相手の左派前大統領だって2期8年の統治でもブラジルは良くならなかった。究極の選択はどちらなのだろう。

〇インド亜大陸

今回のワシントン出張でインド専門家と話して分かったことは、インド外交の本質が「独立した強力なインド」であることだった。これ以上でも、これ以下でもない。ようやくインドが少し分かったような気がする。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:米国議会議事堂で毎記者会見を行うペローシ下院議長(2022年7月21日・ワシントンDC) 出典:Photo by Nathan Howard/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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