スーダンで戦闘発生
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#17
2023年4月24-30日
【まとめ】
・スーダンでの戦闘発生と外国人退避の動きに注目。
・アメリカは軍が在スーダン米大使館館員をまず救出、一般米国人については当初「自己責任で」と国務省は述べた。
・こんなことを日本で言ったら総スカンだろう。
少し遅れてしまったが、まずは今週の日本と世界の動きから。正直なところ、あまり大きな動きはない。ちなみに、この項では毎週の動きを分析する欧米のニュースレターの中から興味深い点を抜き出してご紹介している。その心は、日本人の視点ではなく、欧米の国際問題専門家たちの視点をご紹介したいからだ。
4月24日 月曜日 グアテマラ大統領が訪台(27日まで)
【中国の圧力は強まっているが、台湾の外交も負けてはいない、ということか。報道によれば、ジャマテイ同国大統領は「グアテマラは台湾共和国の確固たる外交上の友好国であり続け、あらゆる分野で協力を深めていくことを信じてほしい」と述べ「絶対的な支持」を約束したという。13カ国に減ったとはいえ、台湾と外交関係を持つ国の首脳がこんな発言をしていることは知っておくべきだろう。】
25日 火曜日 ロシア外相が交連安保理会合の議長を務めるブラジル大統領のスペイン訪問
【ラブロフ外相が「国連憲章の順守」に関する安保理会合を議長として開催し、ロシアによるウクライナ侵攻を正当化したそうだ。笑ってしまうが、当然、欧米側はロシア外相が議長として国連憲章にまつわる議論を取り仕切ること自体に反発している。だが、こんなことでラブロフはメゲない、「面の皮が厚い」とはこの人のことである。】
26日 水曜日 パキスタン元首相が扇動罪容疑の裁判に出廷
【パキスタン内政は相変わらずだが、今週パキスタンで気になったのは中国との関係である。パキスタン北部で水力発電所建設に携わる中国人技術者の男性がイスラム教を冒涜したとして告発されたそうだ。パキスタンでは近年、中国権益への反発が強まっている。この中国人が何をしたかというと、ラマダン(断食月)期間のせいで「仕事の進行が遅い」と指摘しただけでなく、アラー(神)や預言者ムハンマドを侮辱する発言もあったそうだ。やはり、イスラムと中華は相容れないのだなぁ。】
27日 木曜日 国連事務総長、米国務長官と会合
英首相、イタリア首相と会談
【ブリンケン国務長官が対応するらしいが、逆に言うと、バイデンは国連総長に会わないということかね?徹底しているなぁ。】
28日 金曜日 国際海洋法裁判所がモーリシャス・モルディブ紛争を判断
【ちなみに、南シナ海の中国の九段線などにつきフィリピンが提訴したのは、海洋法裁判所ではなく、常設仲裁裁判所だった。確か、海洋法裁判所は紛争当事国が裁判所の管轄権を認めないと裁判にならないからだ、と記憶する。】
30日 日曜日 パラグアイで総選挙
ウズベキスタンで憲法改正国民投票
【ウズベキスタンでは昨年、憲法改正案は国内の自治共和国の自治権を縮小するとして大規模なデモが発生している。今回の改正案では大統領の任期も5年から7年に延びるが、果たして国民投票はうまく行くだろうか、気になるところだ。】
さて、今週筆者が注目したのはスーダンでの戦闘発生と外国人退避の動きである。アメリカは軍が在スーダン米国大使館の館員をまず救出したが、一般米国人については当初「自己責任で」とだけ国務省は述べていた。こんなことを日本で言ったら総スカンになる。在留邦人を守るのが大使館の第一の仕事だから、日本の大使館員は必ず残る。それにしても、日米でどこが違うのか?詳しくは今週のJapanTimesのコラムに書こうと思うので、ご関心があればお読み頂きたい。
〇アジア
中国共産党系の光明日報の元論説部副主任がスパイ罪で中国検察当局から起訴されたそうだ。同元副主任は昨年2月、北京で在中国日本大使館員との昼食中に拘束され、取り調べを受けていたそうだ。これでは中国での外交活動は事実上できなくなる。恐ろしい時代になったものだ。
〇欧州・ロシア
在仏中国大使が21日、「旧ソ連諸国の一部は国際法の下で有効な国家としての地位を有していない」と発言し欧州は激怒。在仏中国大使館は24日、「政治的な宣言」ではなく、「個人的見解の表明」などと釈明したが、後の祭りだ。それにしても、中国大使の知的レベルは意外に低いなあ。戦狼外交ばかりやっていてはダメということだ。
〇中東
軽井沢でのG7外相会合では、G7として、イランの核兵器開発を認めず、核不拡散に関する義務履行やロシア軍への支援停止などを求めていくことで一致したそうだ。
ウクライナも、スーダンも大事だが、特に中東ではイランの問題をしっかりと議論することの方が大事だと思う。
〇南北アメリカ
今週はFOXニュースの親トランプ派タッカー・カールソンと、CNNの人気アフリカ系アンカーのドン・レモンが、それぞれ解任された。カールソンはトランプの陰謀論をメディアに垂れ流したこと、レモンは朝番組で女性の容姿に関する不適切発言をしたことで、それぞれ馘になった。驕る平家は久しからず、のアメリカ版で同情はしない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:スーダンから避難し、イスタンブール空港に到着したトルコ国民(2023年4月26日) 出典:Photo by Hakan Akgun/ dia images via Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。