中国敵視過去最高75% 米世論調査
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・今年の「レーガン国防サーベイ」では米国の国家安全保障上、中国を敵視する人は75%で、過去最高を記録。
・中国の侵略から台湾を守るため米軍の派遣に賛成する人は65%に上った。
・多くの米国人は中国を最大の脅威国と見なし、台湾防衛を望んでいる。
米「ロナルド・レーガン研究所」では、2018年から毎年「レーガン国防サーベイ」という世論調査結果を発表している。米国では、しばしば世論の動向が同国の外交政策を左右する事があるので、注目したい。
昨2021年11月、中国と台湾に関する興味深い結果が公表(a)された。ここで、紹介しよう。まず中国に対する調査である。
第1に、米国が直面する最大の脅威国について、米国民の52%が中国を挙げた。当時(「ロシア・ウクライナ戦争」前)、ロシアと答えたのはわずか14%だったのである。
実は、2018年11月の調査で、米国にとって最大の脅威国は中国だと答えた人々は21%にとどまった。一方、ロシアと答えた人々が30%もいた(現在については後述)。ところが、わずか3年後に、米国人の過半数が、中国こそ米国の最大の脅威国だと認識するようになった(共和党支持者<64%>だけでなく、民主党支持者や無党派層<ともに44%>で中国がトップ)。
第2に、中国は「敵国」か「同盟国」かという質問に対して、65%が「敵国」と答えており、過去3年間で10ポイントも上昇している。2018年には、38%が中国を「同盟国」と見なしていたが、昨年には15ポイントも下がって23%となった。
第3に、米国人の71%が米中間の戦争を懸念しており、共和党支持者が79%、民主党支持者が66%となっている。
第4に、米国が軍事力をどこに集中させるべきかという質問だが、全体では、東アジアと答えた人が37%を占めた。中東と答えた人は17%にとどまっている。この質問には、共和党支持者(43%)、民主党支持者(37%)ともに東アジアがトップとなった。
第5に、米国人は中国による米国への挑戦が多面的だということを認識し始めている。中国に関する最大の関心事は何かと尋ねると、回答者は主な3つの選択肢をほぼ均等に挙げた。経済・貿易問題(20%)、軍事力増強(19%)、人権侵害(17%)である。この質問では、共和党支持者は軍拡を、民主党支持者は人権侵害を強調する傾向があった。
次に、台湾に関する調査である。
第1に、中国に関する最大の関心事は何かという前項の質問では、5つの選択肢のうち、台湾への侵攻は7%と最下位にランクされている。他方、62%の米国人が台湾を「同盟国」として認識している(ただし、この数字は2018年から9ポイント減少した)。
第2に、中国の台湾侵攻への対応策として最も支持を集めたのは、「台湾を正式に独立国と認める」(71%)で、反対は10%にとどまった(「わからない」が19%)。他方、66%が中国への経済制裁を行うことを支持し、15%が反対と回答している(「わからない」がやはり19%)。
第3に、中国の台湾侵攻に対する米国の軍事的対応について、空母などの米軍の現地への派遣を55%が支持、24%が反対している(「わからない」が21%)。
第4に、台湾防衛に米地上軍を投入することを支持する人は40%で、35%が反対だと答えている(「わからない」が25%)。
第5に、台湾有事に対応した飛行禁止区域の設定については、50%が支持、25%が反対と回答している(「わからない」が25%)。
第6に、台湾への武器売却の拡大を支持する人は44%で、29%が反対と答えた(「わからない」が27%)。
さて、今年(2022年)12月1日に発表された「レーガン国防サーベイ」(b)の結果にも言及しよう。
第1に、米国の国家安全保障上、中国を敵視する米国人は75%で、過去最高を記録した。
その原因は、米中貿易戦争、新疆ウイグル自治区の人権問題、国家安全維持法導入による香港「一国二制度」の早期終焉、「武漢発新型コロナ」の流行、戦狼外交、「改革・開放」の中止等である。そのため、近年、米国民の中国に対する敵意が急速に高まった。
第2に、「ロシア・ウクライナ戦争」については、回答者の57%が米国によるウクライナに対する軍事・経済支援継続を支持している。
第3に、現在でも、中国を米国にとって最大の脅威国と見る回答者が43%と多かった。しかし、2022年2月、「ロシア・ウクライナ戦争」開始されたため、ロシアと回答した人は31%で、昨年より17ポイントも上昇した。
第4に、米国人の70%が5年以内の中国の台湾侵攻を恐れ、60%以上が台湾付近への米軍配備拡大を支持している。また、台湾への武器売却拡大の支持は58%に上った。
第5に、台湾は民主主義国家であり、また世界屈指の半導体生産国である。そこで、中国の侵略から台湾を守るため米軍の派遣に賛成する人は65%に上った。昨年と比べ、賛成が10ポイントも増えている。
以上から、多くの米国人は中国を最大の脅威国と見なし、台湾防衛を望んでいる事がわかる。
(注)
(a)『ロナルド・レーガン研究所』
「レーガン国防サーベイ」(2021年)
(https://www.reaganfoundation.org/media/358085/rndf_survey_booklet.pdf)。
(b)『美国看台』
「中国を敵視する世論が予想外に高い 米中関係は後戻りできない」
(2022年12月17日付)
(https://news.creaders.net/us/2022/12/17/2557983.html)。
トップ写真:台北の大統領室で演説する米国議長中央のナンシー・ペロシ下院議員(2022年8月3日・台湾・台北)
出典:Photo by Chien Chih-Hung/Office of The President via Getty Images
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。