無料会員募集中
.政治  投稿日:2022/3/3

サハリン1、2からの撤退急げ 北方領土の共同活動も直ちに停止を


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

 

【まとめ】

・ウクライナ侵攻を受けて米英の石油大手が、サハリンでのプロジェクト撤退を決めた

・日本も撤退同調を急ぎ、北方領土での共同経済活動を中止すべき

・日本の人道支援、難民受け入れは日ごろに似合わぬすばやい対応だった

 ロシアのウクライナ侵略への国際的な非難がさらに高まりをみせている。イギリスの石油大手、シェルが、ロシア極東での石油ガス開発事業、「サハリン2」からの撤退を決めたのに続き、アメリカのエクソンモービルも、「サハリン1」からの撤退を決めた。

 これらプロジェクトには日本政府、企業も参加しているが、出資を維持するなら、国際的な批判は免れない。

 日本が独自にロシア側と進めている北方4島での「共同経済活動」など、論外だ。このプロジェクトを継続していては、各国の信用を失い、こんどは日本が制裁の輪から締め出されてしまうだろう。

 日本政府は、サハリン1,2、北方4島での共同経済事業の撤退、中止を直ちに決めるべきだ。

■  歯切れ悪い「当面、見合わせ」

 3月2日の参院予算委員会で、岸田首相は、北方領土での共同経済活動について、「ロシアとの経済協力を進める状況にはない。政府事業については当面見合わせることを基本にする」と述べた。

 首相としては精いっぱいの答弁だったろうが、歯切れの悪さは否定できない。「見合わせ」というのはどういう意味か。事態が落ち着けば再開する「凍結」ということか。明確に「中止する」「一切取りやめる」となぜ、いえないのか。

 この問題については、ロシアの侵攻翌日の2月25日、自民党の佐藤正そ久外交部会長が党内の会合で「片方で制裁と言いながら、片方で共同経済活動を続けたら、各国は日本をもう信用しない」と強い調子で中止を主張、与党内で同調が広がっている。

 共同経済活動は2016年12月にプーチン大統領が来日、安倍首相(当時)と会談した際、双方が合意した「日本固有の領土」という主張を損なわない「特別な制度」のもと、漁業、環境、医療、衛生など8項目をともに行う計画だ。このうち養殖漁業など5項目の工程表がすでに作成されている。

 この事業を、北方4島の返還につなげたいという日本側の期待に対して、ロシア側のそれは、島は現状通りとして、経済活動の果実だけを享受するのが思惑だ。

 ウクライナが侵略される前から、共同経済活動をめぐって、警鐘を鳴らす向きは日本でも少なくなかった。

■「サハリン1、2」日本政府は事業継続?

 一方、サハリン2について岸田首相は、「民間企業が対応を考えていくだろう。政府としても制裁などを見ながら相談にのっていきたい」(2日の参院予算委での答弁)と述べた。あくまで、民間の判断にゆだねる考えらしい。

  気になるのは松野官房長官が「操業が継続されているのだから、日本の輸入に支障はない」(3月1日の記者会見)と説明していることだ。外国企業が撤退しても、日本企業はプロジェクトへの参加を継続するという方針であることがうかがえる。

 サハリン2には日本から三井物産、三菱商事が出資している。生産量1000万トンのうち60%が日本向け、日本の輸入の7-8%にのぼっている。

■ 経済同友会は撤退示唆

 政府も出資しているサハリン1への対応では、松野官房長官は「わが国のエネルギーの供給に支障をきたさないよう、各国と歩調を合わせて日本政府の関与のあり方を検討していく」(3月2日の記者会見)と、はぐらかすようなコメントにとどめた。 

 サハリン1には、エクソンのほか、日本政府や伊藤忠商事、丸紅などの官民による「サハリン石油ガス開発」、ロシア国営石油大手ロスネフチなどが参加、日本の輸入量に占める割合は1%だ。

 経済同友会の櫻田謙悟代表幹事は、「現時点ではガス輸入を止めてはいない」と認めながら、「まだ判断していないというだけの話であり、このままロシアが国際法違反を繰り返すなかで、何事もなかったように取引を続けるとは思えない。深刻に検討されているだろう」と述べ、撤退を示唆、政府より事態を深刻に受け止めていることをうかがわせた。

■ 欧米と共同歩調とるも〝一歩遅れ〟

 ロシアへの制裁をめぐっては、日本政府はこれまで、アメリカ、欧州各国と足並みをそろえてきたものの、一呼吸、タイミングが遅れている印象はぬぐえない。

 ロシアの複数の銀行を国際決済システム(SWIFT)から排除する制裁を欧米が決めた時も、プーチン大統領、ラブロフ外相らの資産凍結の決定をした時も、日本だけ1、2日遅れた発表となった。

 プーチンに対する制裁については、日本政府内に、北方領土への影響を考慮する慎重論があったといわれる。事実とすれば、ナンセンスというほかはない。

 北方領土返還の意思などみじんも持たないロシアによる戦後最大の侵略に、毅然さを欠く対応などとったら、世界から嘲笑の的になろう。

写真)ベルリンのハウプトバーンホフ中央駅で食べ物、衣類、トイレタリーを手に入れる為に殺到するウクライナから脱出してきた人々

2022年3月2日、ドイツ・ベルリン

出典)Photo by Hannibal Hanschke/Getty Images

■ 難民受け入れ、資金供与は素早く決断

 もっとも、日本政府も、「トゥー・ウィーク、トゥー・レイト」(弱すぎ、遅すぎ)ばかりではもちろん、ない。

 1億㌦(115億円)にのぼる人道支援、同額の借款をいち早く決めたし、2日夜には岸田首相が、難民を日本に受け入れることを表明した。

 とりあえず、親族や知人が日本にいる人たちに限定しながらも、人道的な観点から対象を広げる方針を示唆している。

 首相は「できるだけ早く実務の手続きを進めたい」と説明したが、外国人の受け入れに慎重な日本では思いがけない素早い対応だった。

 サハリン1、2、北方4島での共同経済活動についても、岸田首相は、躊躇することなく決断してほしい。ひたすら〝返り血〟を恐れていては、第2次大戦後最大の侵略行為をとめることは絶対にできない。

トップ写真:記者会見に臨む岸田文雄首相 2022年3月3日

出典)Photo by Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."