ロシア、国連で孤立化深まる
植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・ウクライナ軍事侵攻によりロシアの国連での地位は低下を続け、経済社会理事会傘下の4つの国連母体での選挙では全て議席を失った。
・国連女性機関理事会選挙では必要な3分の2に達することができず、ユニセフ執行理事会選挙や先住民常設フォーラムでも落選した。
・経済社会理事会選挙ではロシアは票数が足りず5回も再投票が行われたものの結果が出なかったため、再度延期となっている。
ロシアは、ウクライナ軍事侵攻に対する国際的非難を受け、既に4月7日には国連総会で人権理事会の資格を剥奪されたが、その後ロシアの国連での地位は低下を続けている。
4月13日に行われた経済社会理事会の傘下にある4つの国連母体での選挙で、ロシアは全て議席を失った。NGO委員会は、経済社会理事会におけるNGOの参加資格を審査する同理事会の下部組織である。東欧グループからは、ロシアに加えてアルメニアとジョージアが立候補したため、2議席を三カ国で争うことになった。その結果、アルメニアとジョージアは54票(経済社会理事会は54カ国で構成されている)のうち各47票と44票を獲得したのに対し、ロシアは僅かに15票で落選した。
国連女性機関(UN Women)理事会選挙では、54票のうち16票しか獲得できず、必要な3分の2に達しなかった。UN Womenは国連ファミリーの中でも一番新しい機関で、「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関」としてジェンダー関連の国連4機関を統合して2010年に設立され、翌2011年から活動を始めた機関である。ユニセフ執行理事会選挙でも僅か17票しか獲得できずに落選。先住民の権利の保護を目指す先住民常設フォーラムでも18票で落選した。このフォーラムの選挙ではウクライナと競合し、ウクライナが当選した。
経済社会理事会は、国連の主要機関の一つで、経済、社会、人道、環境、国連諸機関のオペレーション活動の調整など幅広い分野で中心的な役割を与えられている機関である。4000以上のNGOなども、そのレベルに応じて理事会の審議に参画できる権限を与えられている。その理事会選挙が6月10日に総会で行われたが、東欧グループからはスロバキアとスロベニアが選出されたものの、ロシアは118票獲得したが、投票全体の3分の2に10票足りずに選出されなかった。
2回目の投票では、4位につけた北マケドニアとの争いとなった。第6回まで投票が行われたが、ロシアも北マケドニアも3分の2の投票を得ることが出来なかったため、6月16日に再度投票が行われた。5回の投票でも結果が出なかったため、7月11日に再度5回の投票が行われたが、ロシアは当初より支持を減らして94票から101票程度しか獲得できず、北マケドニアは72票から74票程度の支持で、やはり結果が出なかった。そのため、選挙は再度延期されることになった。
ウクライナでのロシアの軍事攻撃が続く中でロシアの支持票が増えることは考えにくいため、次回の投票後にロシアが立候補を継続するか取り止めるかが注目されるが、継続の場合は理事国が一カ国欠ける異常な状態が生まれる事になる。このような場合は、両国とも立候補を辞退して、第三国が選ばれることが多いが、ロシアはさらなる孤立化を恐れて立候補にしがみつくことも考えられる。いずれにしても、ロシアが国連の主要機関の一つから締め出される事態になっている。
トップ画像:ニューヨークの国連本部で開催された第76回国連総会でのロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相(2021年9月25日)
出典:Photo by Eduardo Munoz – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授
国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。