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.経済  投稿日:2022/9/20

ジェンダーギャップと女性活躍


Japan In-depth編集部(曹佳穎)

【まとめ】

・日本経済新聞が主催した「ジェンダーギャップ会議 次世代につなげる、グローバルで活躍する女性リーダーたち」を取材した。

・女性社員本人と周囲の社員が持っている「アンコンシャスバイアス」に基づき、職場に入って何年か働くと、働く意欲が低下していく女性が多く現れる。

・自由さと平等さからダイバーシティが生まれ、常識を超えるチャレンジと企業の成功とつながる。

 

男女の違いにより生じる格差を「ジェンダーギャップ」という。

9月16日、日本経済新聞が主催した「ジェンダーギャップ会議 次世代につなげる、グローバルで活躍する女性リーダーたち」で、様々な女性リーダーによる基調講演やパネルディスカッションが行われた。その模様をリポートする。

■ 日本企業の男女間格差

日本企業では仕事の内容で男女間の賃金の差は大きくないが、人員構成の偏りはある。女性の管理職への登用が進んでいないこともよく知られている。帝国データバンクが実施した2021年の女性登用に対する企業の意識調査によると、日本企業の女性管理職比率は1割強にとどまっており、3割超のイギリスや4割を超えるアメリカと比べてかなり低い。

今年7月、女性活躍推進法の省令が改正され、企業は男女間賃金格差の開示を義務付けられ、2023年5月以降から本格化する見通しだ。男女間の賃金格差の開示が義務化された背景には、労働基準法4条による「男女同一賃金の原則」があるのにも関わらず、企業の男女の賃金格差がなかなか縮まらない状況が続いている。

近年多くの投資家は、企業成長の原動力である人材の価値に注目しており、人材の多様性が投資の重要な判断材料の一つになっている。こうした状況下、企業にとって如何に仕事上における男女間の格差を是正し、女性の管理職登用を進めるかが重要になってきている。

■ 女性を職場で活躍させるべき理由

日本コカ・コーラ株式会社、広報・渉外&サスティナビリティー推進本部副社長田中美代子氏は、現時点で日本コカ・コーラは女性管理職比率が約40%で、2050年まで女性管理職の比率を50%にすることを目標としていると述べた。また男女双方平等性を確保するために、採用時の面接官が3人の場合、必ず1人は女性にするようにしているという。

▲写真 日本コカ・コーラ株式会社広報・渉外&サスティナビリティー推進本部副社長田中美代子氏(2022.09.19) 出典:日経が開催した「ジェンダーギャップ会議次世代につなげる、グローバルで活躍する女性リーダーたち」にてキャプチャー

新型コロナウイルスワクチンを開発した米企業モデルナでは、女性会社員数は全体の47%を占めると同時に、女性幹部数は40%にのぼる。ワクチン開発責任者を勤めるフランチェスカ・セディア氏は、「企業の発展には試行錯誤を問わない好奇心が求められ、こうした好奇心を生かすためには、あらゆる人種、文化、性別を持つ人に平等な発言権を与えることが大事である」と述べた。「その自由さと平等さからダイバーシティが生まれ、常識を超えるチャレンジと企業の成功とつながる」とした。

▲写真 モデルナワクチン開発責任者フランチェスカ・セディア氏(2022.09.19) 出典:日経が開催した「ジェンダーギャップ会議次世代につなげる、グローバルで活躍する女性リーダーたち」にてキャプチャー

後に紹介するMS&ADインシュアランスグループホールディングスの執行役員本島なおみ氏は「女性は未開発的財産」と述べた。彼女らに発言権を与えて自己実現させることが企業を豊かにし、望ましい収益を作り出すことにつながると感じた。

また基調セクションで複数の登壇者が述べた「人間の生き方を大事にしない会社は選ばれない」という観点も重要だ。従業員に同じ機会を提供することにより、社外から優秀な人材を連れてくることができる。さらに、社内の人材のモチベーションが高まるに違いない。

誰もが価値を感じ、貢献し、成長し、リードする機会を得られる環境の中で、自分の可能性を最大限に発揮できるようになり、より大きい利益を企業は得ることができるのではないだろうか。

■ 女性を活躍させる仕組み

現在、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」は企業経営において大切な価値観として認識されている。「多様性」である「ダイバーシティ(diversity)」プラス「包括性」である「インクルージョン(inclusion)」の共同作用で、多種多様な個人が企業内に尊重され、自分の能力を十分に発揮でき、自ら将来のポジションを掴み取ることができると期待されている。

MS&ADインシュアランスグループホールディングスの執行役員本島なおみ氏は、今社内の「D&I」の徹底化に取り組んでいると述べた。本島氏によれば、女性が管理職になるというロールモデルは身近な例が少ないので、多くの女性が将来マネジメントを担うイメージがなかなか沸かないという。この女性社員本人と周囲の社員が持っている「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」に基づき、職場に入って何年か働くと、働く意欲が低下していく女性が多く現れるという

▲写真 MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員本島なおみ氏(2022.09.19) 出典:日経が開催した「ジェンダーギャップ会議次世代につなげる、グローバルで活躍する女性リーダーたち」にてキャプチャー

こうした状況を改善するために、MS&ADインシュアランスグループホールディングスは「D&I」を企業経営の中核として、女性が安心に働け、モチベーションを向上させる環境を作ろうとしている。例えば、女性副支店長・副部長ポストの新設マネージャートレーニング制度の導入女性ライン長育成メンター制度などの人材パイプラインの整備がなされた。

一方、一部の企業はD&Iに「誰でも成功するために必要なサポートを得られるようにする」=「公平性(Equity)」を加えた、「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I」を提唱し始めた。

メットライフ生命保険の取り組みはその一例である。チーフヒューマンリソーシズオフィサーの執行役向井麗子氏によれば、今年3月から、同社は「投資(Investments)」と「職場の多様性(Workforce Diversity)」、「解決策と洞察(Solutions and Insights)」、「調査(Research)」、「ボランティア活動(Volunteer Hours)」、「メットライフ財団支援(MetLife Foundation Funding)」、「サプライヤーダイバーシティへの支出(Diverse Suppliers)」と7つの分野で支援を与え始めたという。

また、社員が良く働ける環境作りを相談する場所や数百人規模の教育プログラム、グローバルで展開している女性リーダー育成プログラムなども設置された。女性社員の数だけを増やすのではなく、多様な人材を育成することは、同社のパーパス経営の目標として掲げている「ともに歩んでゆく、より確かな未来に向けて。」につながるとした。

▲写真 メットライフ生命保険チーフヒューマンリソーシズオフィサー執行役向井麗子氏(2022.09.19) 出典:日経が開催した「ジェンダーギャップ会議次世代につなげる、グローバルで活躍する女性リーダーたち」にてキャプチャー

日経WOMANの企業の女性活用度調査2022年版によれば、上場企業など4400社の中、正社員で男女間の賃金格差是正のために具体的な仕組みを展開した会社は29.7%にとどまっている。世界経済フオーラムが各国の男女格差を表すジェンダー・ギャップ指数では、日本の順位は146力国中116位(昨年は156力国中120位)、先進7カ国で最下位だ。

上述した先進企業による取り組みは、企業内男女格差の是正に取り組む企業にヒントを与えるはずだ。

■ ジェンダーギャップ会議を取材して

企業に期待する多様性は、ジェンダー平等のみならず、国籍や年齢、文化など、より広い範囲が含まれる。あらゆる企業は、差異がある人を受け入れ、尊重することによって個人の能力が発揮できる環境を作ることが望ましい。こうした環境を作ることにより、優秀な人材確保や従業員満足度の向上、イノベーションの拡大、効果的なマーケティング戦略の構築など、企業に様々なメリットをもたらし、企業のグローバルな成長を支えるだろう。今回の会議の登壇者の話を聞き、これからの企業経営にはジェンダーギャップの解消にとどまらず、性別に限らない多様性への追求が必要なのだと強く思った。

(了)

トップ写真:パネルディスカッションをしている羽生祥子氏と、向井麗子氏、田中美代子氏(2022.09.19) 出典:日経が開催した「ジェンダーギャップ会議次世代につなげる、グローバルで活躍する女性リーダーたち」にてキャプチャー




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