無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/9/30

「国葬」で国論二分、に違和感


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#38」

2022年9月26日-10月2日

【まとめ】

・「国葬」について、メディアの論調は大きく割れたが、実際に葬儀に参列した筆者の実感は異なる。

・国葬の是非を政治問題化して国論を分断している日本。

・菅元首相の弔辞後、会場では通常あり得ない自然発生的な拍手が湧いた。

 

今週はホノルル出張から帰国した翌日が安倍晋三元首相の国葬だった。先週「英国では・・・集まった沿道の一般英国市民から大きな拍手と歓声が上がっていたが、日本では何が起きるだろうか」と書いたが、やはり日本では拍手も歓声もなかった。これがイギリス人と日本人の違いなのだろうが、実は、もう一つ大きな違いがあった。

日本では葬儀当日も、国葬反対派によるデモと集会が開かれ、一部の品のない野党党首たちが、「憲法違反の法的根拠のない国葬を私たちは認めない」などと声を張り上げていた、らしい。「らしい」と書いたのは、筆者のいた武道館内は実に荘厳な雰囲気で、当然ながら、その種の罵詈雑言は全く聞こえなかったからだ。

27日の葬儀当日ぐらいは、個人的友情や政治的立場・思惑を超え、一般国民の一人として、素直にかつ常識的に振舞おうと、当日は朝から心に決めていた。その意味でも、日本の一部の野党幹部たちは「恥を知らない」人々のようで、本当にがっかりした。国葬をあのように政治利用しても、彼らへの支持は決して増えないだろうに。

「国葬」について、日本の主要メディアの論調は大きく割れた。リベラル系紙が「安倍氏「国葬」分断深めた首相の独断」、「合意なき追悼の重い教訓」、「「安倍政治」検証は続く 分断の国葬を終えて」と書いたのに対し、保守系紙は「功績たたえ多くの人が悼んだ」「礼節ある日本の姿を示したい」などと論じていた。

これだけ読むと、今回の「国葬」で日本世論は完全に割れているように感じるのだが、実際に葬儀に参列した筆者の実感はちょっと違う。会場近くに設置された一般市民用の献花台には朝から何千人ものごく普通の老若男女が沿道に並んでいた。彼らこそ一般国民の多くを代表する「サイレント・マジョリティ」なのだろうな、と直感した。

国葬開始までの待ち時間は予想以上に長かったが、式典自体は厳粛で、荘厳で、極めて洗練されていた。駐日ジョージア駐日大使はツイッターで国葬をめぐり「故人に対する目に余る言動に心を締め付けられております」と投稿したそうだ。そもそも、国葬の是非を政治問題化して国論を分断している国など日本以外にあるのだろうか。

多くの人が指摘した通り、国葬で最も心を打たれたのは菅元首相の弔辞だった。「総理大臣官邸で共に過ごし、あらゆる苦楽を共にした7年8カ月。私は本当に幸せでした。私だけではなく、すべてのスタッフたちがあの厳しい日々の中で、明るく生き生きと働いていたことを思い起こします。何度でも申し上げます。安倍総理、あなたはわが国、日本にとっての真のリーダーでした。」菅元首相の弔辞後、会場では、通常あり得ないことだが、自然発生的な拍手が湧いた。筆者も思わずその拍手に加わった。この拍手こそが今回の「国葬」の全てを物語っていたのではなかろうか。

〇アジア

ワシントンで米国と太平洋島嶼国の初の首脳会談が開かれている。フィジー、パラオ、中国と安全保障協定を結ぶソロモン諸島など12の島嶼国首脳が参加しているそうだが、共同声明の取りまとめを巡り一部の国が難色を示し、調整は難航しているらしい。米国がこれまで手を抜いていた分の大きなツケが回ってきたということか。

〇欧州・ロシア

ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」につき、デンマーク軍は3か所でガス漏れが確認されたと発表、同国外相は「ガス漏発によるもので意図的な行為だ」と述べた。万一これがロシアによる破壊工作だとしたら、馬鹿としか言いようがない自殺行為だ。これでは今後ロシアとビジネスをする国はなくなるだろう。

〇中東

イランでスカーフのかぶり方をめぐり「風紀警察」に拘束された女性の死亡をきっかけに抗議デモがイラン各地に広がっているそうだ。発生から10日経っても収束の兆しはなく、死者は少なくとも計41人に達したという。イランのイスラム体制の最大の敵はシャーの時代に曲がりなりにも世俗主義を経験したイランの女性たちなのか。

〇南北アメリカ

バイデン大統領がワシントン市内でのイベントで、8月に事故死した共和党の下院議員について「ジャッキーはここにいる? どこだろう?」とつぶやく一幕があり、共和党やメディアからは「失言」「しくじり」と批判されているそうだ。でも、バイデン氏はもう79歳なのだから、その程度のことは日常茶飯事なのかもしれないが・・・・。

〇インド亜大陸

モディ首相が国葬に来てくれたことを評価する声が少ないのはなぜだろう。カナダ首相が来なくなったことを揶揄する報道もあったが、米副大統領、豪首相、印首相が揃えばQUADではないか。カナダには申し訳ないが、G7だけが主要国じゃないことすら分からないのが、日本の内政担当政治部記者の弱点だ。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:安倍元総理の国葬にて祭壇に向かう安倍昭恵さん(2022年9月27日) 出典:Photo by Eugene Hoshiko/Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."