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.国際  投稿日:2022/9/2

「人民日報」に踊る「改革・開放」の見出し


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・「人民日報」は、習主席の主張と対立する政策である「改革・開放」を記事の見出しにすることはなかった。

・しかし同紙は、北戴河会議終了後突如、「改革・開放」を経済発展の動力にするとの記事を発表。

・10月16日から始まる第20回党大会の帰趨はまだ予測が難しい。

 

周知の如く、現在、中国共産党中央宣伝部は、習近平主席の影響下にある。その機関紙『人民日報』は、今年(2022年)5月以降、8月上旬まで(本文中は別として)「改革・開放」を記事の見出しにする事はなかった。元来、「改革・開放」は習主席にとって自らの主張と真っ向対立する政策だからである。

だが、北戴河会議終了後の8月13日、突如、『人民日報』が第1面で「改革・開放」を経済発展の動力にする(安定をモットーとして着実に前進、自分の仕事をしっかりとやり遂げる)」という記事を発表(a)した。

文中、7月28日、中央政治局は会議を開き、「改革・開放を経済発展の動力にしなければならない」と強調している。

つまり、習主席の影響下にある『人民日報』でさえ「改革・開放」を声高に提唱せざるを得なくなった。この“変化”は看過できないだろう。

次に、2日後の15日、『人民日報』は第5面に「改革開放を経済発展の動力とする(人民の観点)——戦略的に力を保ち、自分の仕事をしっかりとこなす④」という記事(b)を掲げた。

その中で「企業の束縛を緩め、イノベーションの障害を取り除き、公正さを護るためには、最も困難で重要な分野への改革と開放を包括的に深化する必要がある」と指摘した。ただ、この記事は第5面なので、見過ごす恐れがあるかもしれない。

ところが、同18日『人民日報』は再び第1面に「李克強は広東省視察で強調した 改革・開放について、経済の安定と発展のために新たな原動力を模索する」という記事(c)を掲載した。

李首相は8月16日・17日、李希和・広東省党書記と王偉中・広東省長の案内で深圳市を視察している。その際、李首相は広東省の鄧小平廟を参拝し、「改革開放は必ず確固として前進する」と公言した。

しかし、その動画は17日の夜、中国WeChatに流された後、瞬く間に削除されている(d)。おそらく、党宣伝部が、習主席に“忖度”し、李首相発言を封殺したのではないだろうか。

だが、同25日、やはり『人民日報』は第1面に「改革と開放の深化(新しい時代を築く―特別な10年)」と題する記事(e)を掲げた。

「習近平総書記は、改革・開放は党と人民が大きく時代に追いつくための重要な資産であり、中国の特色ある社会主義を堅持し発展させる唯一の道であり、現代中国の運命を左右する重要な動きであり、『2つ目の百年』という目標と中華民族の偉大な再生のための重要な動きだと指摘した」。

更に、同日付『人民日報』は、その10面でも「改革は止まらず開放は止まらない」という記事(f)を掲載している。「改革・開放は必ず全面的に社会主義現代化国家を建設して、第2の百年の奮闘目標に向かって進軍する新たな道に関する新たな1章を書く」という。

以上のように『人民日報』の見出しに、しばしば「改革・開放」の文字が躍るようになった。これは、取りも直さず、「習派」の“牙城”とされる党中央宣伝部にも、「反習派」の影響力が及ぶようになったという意味ではないか。目下、「反習派」勢力が、「習派」を“圧倒”していると見なすべきだろう。

ところで、以前、本サイトで、昨年と今年、李首相が主宰した各月の「国務院常務会議」の開催数を比較した事がある。

昨年と比べ、今年1月と2月の同会議開催数は《昨年4回→今年3回》と《2回→1回》と、共に1回ずつ減少した。まさに、李首相の存在が、“風前の灯”のような事態に陥っている(ただ、3月は昨年と今年は3回と同数である)。

けれども、党内の風向きが一変した今年4月から6月にかけて、同会議の回数が昨年と比べ、4月は《昨年2回→今年4回》、5月は《3回→4回》、6月は《2回→3回》へと増えている。なお、7月は昨年と今年は共に4回ずつ開催された。

では、8月はどうか。昨年、同会議は16日に1回開かれただけだった。

おそらく、同月前半、李首相は北戴河会議で多忙だったに違いない。ところが、8月後半なるとに、俄然、同会議が19日、24日、31日と3回も開催されたのである。李首相がその勢力を増した何よりの証しではないか。そうでなければ、同会議がこれほど頻繁に開かれるはずはないだろう。

以上を踏まえると、10月16日から始まる第20回党大会の帰趨を、ある程度予測できるかもしれない。

すなわち、「李上(アップ)習下(ダウン)」=「李首相の総書記就任、習主席の退任」である。ただし、「李上(アップ)習『不』下(ダウンせず)」=「李首相の総書記就任、習主席の国家主席・軍事委員会主席再任」の可能性も排除できない。また、現時点では、まだ「習主席3期目の総書記続投」が“絶対ない”とも言い切れないだろう。

〔注〕

(a)http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-08/13/nw.D110000renmrb_20220813_2-01.htm

(b)http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-08/15/nw.D110000renmrb_20220815_1-05.htm

(c)http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-08/18/nw.D110000renmrb_20220818_3-01.htm

(d)『聯合新聞網』「李克強南巡動画『長江の水は逆流しない』発言を封じ込め WeChat削除」(2022年8月19日付)

https://udn.com/news/story/7332/6549349?from=udn-referralnews_ch2artbottom

(e)http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-08/25/nw.D110000renmrb_20220825_4-01.htm

(f)http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-08/25/nw.D110000renmrb_20220825_1-10.htm

トップ写真:習近平国家主席が演説する生放送を映し出すスクリーン 出典:Photo by Anthony Kwan/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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