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.国際  投稿日:2022/10/4

北朝鮮ミサイル攻撃、新たな抑止手段を


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#39」

2022年10月3日-9日

【まとめ】

・2022年10月4日朝、北朝鮮がIRBMクラスと思われる飛翔体を発射した。

・今回のミサイルは飛翔距離4600キロ、防衛省は日本領内に落下する可能性がなかったので迎撃しなかった。

・北朝鮮には「核兵器開発」を止める意図はないこと、従来の防衛システムでは不十分であることを理解する必要がある。

 

今週は元々、先週都内で行われた安倍晋三元首相の国葬と日中国交正常化50周年記念レセプションについて書くつもりでいた。ところが、4日朝午前7時25分すぎ、北朝鮮が5年振りでIRBM(中距離弾道ミサイル)クラスと思われる飛翔体を発射したと防衛省が発表したため、急遽内容を変更して書き始めている。

Jアラート

今朝は偶々早起きだったので、7時27分の総務省消防庁による全国瞬時警報システム(Jアラート)の国民保護情報をリアルタイムで見ていた。短い本文は「ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難して下さい。」だった。なるほど、これがJアラートというものなのか!

外電はどう報じているかなと思ったら、8時40分にBloombergの「5 things to start your day」のトップニュースが「People in Japan told to seek shelter after missile launch(日本国民はミサイル発射の後、シェルターに避難するよう要請された)」と報じていた。シェルターに避難?シェルターなんてないよ、この国には。

北朝鮮の挑発?

更にBloombergは「The Japanese government broadcast a wide-scale notice that a North Korean missile was launched toward the northern part of the country, in an escalation to the run-of-the mill provocations people have become accustomed to in the area.(日本政府は広域警報システムで、北朝鮮が地域の人々にとっては周知のいつもの挑発をエスカレートさせるべく、日本の北部に向けてミサイルを発射した)」とも報じた。北朝鮮の挑発?おいおい、北は「挑発」なんてしちゃいないぞ!「挑発」とは「相手を刺激し事件や欲情などを起こすようにしむけること」というのが筆者の理解だからだ。米国を刺激して反撃されることなど北朝鮮は全く望んでいない。

日本国内の対応

日本政府の対応は基本的に正しかったと思う。NSCの大臣会合も適切だ。問題はメディア側にもある。某TV局の北海道の記者はレポートの際ヘルメットを被っていたが、今回のミサイルは飛翔距離4600キロのIRBMだ。Jアラート後、防衛省は日本領内に落下する可能性がなかったので迎撃はしなかった、という。当然だろう。

更なるミサイル発射の兆候でもあれば別だが、それがなければヘルメットを被る意味はあまりない。これって「ナンチャッテ、危機管理」の典型例で、一部安全保障関係の専門家を除けば、日本社会の「危機意識」はこの程度なのだと再認識した。そろそろ問題の本質について議論するマスコミや識者が出てきても良いと思うのだが・・・。

問題の本質

では本質とは何か。筆者の見るところ、今回我々が理解すべきことは次のとおりだ。

1.北朝鮮には「核兵器開発」を止める意図が全くないこと。

2.北朝鮮の軍事技術は近年着実に向上しており、従来のミサイル防衛システムだけでは北朝鮮のミサイル攻撃(またはその恫喝)を抑止できないこと

3.されば、日米等同盟国は、北朝鮮による(核)ミサイル攻撃を抑止するための新たな手段の可能性も探求すべき時期に来ていること

この点については、また別の機会に論じよう。本来今週書くつもりだった日中国交正常化50周年や「国葬」については、今週木曜日に掲載される予定の産経新聞コラムをご一読願いたい。

〇 アジア

先ほど述べた産経のコラムでは、1972年からの50年間で、「今や米中露をめぐる国際戦略環境は激変した。1972年の中国にとって最適な環境、すなわち「中国が米国の支援を受けソ連の脅威に米中で対抗する」幸せな時代は消滅したのだ。」と書いた。悲しい現実だが、日中や米中が1972年に戻ることはもうできないかもしれない。

〇 欧州・ロシア

プーチン氏の「併合宣言」にも関わらず、ウクライナ軍は東部・南部で反転攻勢を続け、複数の州で新たに集落を奪還したという。今は奪還した東部ドネツク州北方の要衝リマンから、ルハンスク州の拠点都市リシチャンスク方面に向かって進軍しているらしい。事実なら深刻だ。プーチンは早く冬将軍が来ることを懇願するしかないのか?

〇 中東

サッカーのワールドカップ(W杯)が11月20日から湾岸の資源国カタルで中東イスラム圏では初めて開催される。受け入れ準備は着々と進められているそうだが、筆者は「あのカタルでW杯か」との感慨を禁じ得ない。色々トラブルは予想されるだろうが、カタルの「ロジ能力」は水準以上、決して過小評価してはいけない。  

〇 南北アメリカ

2日投開票のブラジル大統領選は上位2人が30日の決選投票に進むらしい。世論調査のトップ左派ルラ元大統領に2位の右派ボルソナロ現大統領が猛烈に追い上げているそうだ。でも、よく考えてみれば、「ブラジルのトランプ」対「腐敗臭?が消えない元職」で「どっちもどっち」ではないか。これが途上国の民主主義なのだろうが、独裁制よりはマシなのか。

〇 インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:2022年8月17日、北朝鮮のミサイル発射の画像を映し出すテレビ画面を見る人々 出典:Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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