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.国際  投稿日:2023/4/15

金正恩が恐れる米韓の北朝鮮核対応策


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・金正恩が最も神経を尖らせているのは、米韓によるNATO型の核の共有。

・もう1つは、米韓検討中の「ダークイーグルミサイル」の韓国配備。

・「国防計画5カ年計画」が完成する頃には、米国の新兵器が開発されているかもしれない。

 

朝鮮中央通信は4月10日、朝鮮労働党中央軍事委員会第8期第6回拡大会議が開かれたとし、「米帝と南朝鮮かいらい逆徒の侵略戦争準備策動が日増しにひどくなっている現在の情勢を深く分析したことに基づいて、(中略)敵がいかなる手段と方式によっても対応が不可能な多様な軍事的行動方案をつくるための実務的問題と機構編制的な対策を討議し、当該の決定を全会一致で可決した」と報道した 。そして13日には固体燃料を使用したとみられる新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したと14日報じた。

北朝鮮の戦争挑発露骨化で、朝鮮半島情勢が一層緊迫の度合いを強めているが、こうした中で最近、金正恩総書記が「不眠症」に陥っているのではないかとの情報が流れている。このところ米韓で検討されている新たな軍事対応に神経が高ぶっているのかもしれない。

◾️ NATO型米韓核ボタンの共有

いま、金正恩が最も警戒し神経を尖らせているのは、米韓によるNATO型の核の共有だ。

韓国の核保有を求める韓国世論の高まりの中で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、今月末の米国国賓訪問時にこの問題をバイデン大統領と協議しようとしている。もしも米国との間で合意に至れば、北朝鮮の韓国への核脅迫は通用しなくなる。

金正恩がこのNATO型の米韓の核共有をいかに恐れているかは、「金正恩の口」と言われている金与正党副部長の談話(4月1日)からも伺い知れる。

金与正はこの談話で「ゼレンスキーが米国の核兵器搬入だの、独自核開発などと言い立てるのは、自国と国民の運命をもって賭博してでも、なんとかして自分らの余命を維持してみようとする極めて危険な政治的野望の表れである」などと非難し、「米国を神頼みにして主人の虚弱な約束を盲信する手先らは、核時限爆弾を背中に負う自滅的な核妄想から一日も早く覚める方が自分らの命を守る最上の選択になることをはっきり悟らなければならない」とゼレンスキー政権を激しく攻撃した。

この談話での、ゼレンスキーとの用語を、尹錫悦と言い換えれば、そのまま韓国へのメッセージとなる。これは「米英中ロ仏だけが核兵器を保有できるのか」として、核保有の正当性を主張してきた北朝鮮のこれまでの立場とは完全に矛盾するものだ。

こうした矛盾に満ちた混乱した主張は、現在米韓の間で検討が進められている「核共有」に対する恐怖からきたものと推測される。

■極超音速ミサイル「ダークイーグル」の実戦配備

米韓で検討されている金正恩が恐れるもう一つの軍事対応は「ダークイーグル(Dark Eagle)ミサイル」(LRHW)の実戦配備だ。

「ダークイーグルミサイル」の発射が初公開されたのは一昨年だった。2021年10月77日、ワシントン州タコマ市郊外にある米陸軍のルイス=マコード統合基地に、開発中の新型中距離ミサイル「LRHW」の試作型発射機が送られ初公開された。「ダークイーグル」は、陸海空共通の極超音速滑空体(C-HGB)を弾頭に使う極超音速滑空ミサイルで、マッハ17、射程2775km以上の最新式の新型中距離ミサイルである。

今年3月29日の米軍報道資料によると、この「ダークイーグル」が、「第3野戦歩兵連隊第5大隊第1多領域任務部隊(MDTF)長距離射撃隊)」に実戦配置されたとのことだ(シン・インギュン国防TV)。

この多領域任務部隊(MDTF)は、ダークイーグルと短距離射程(32-1000km)のハイマース(HIMARS Prsm)そして中距離射程(460ー1600km)のMRCと組み合わせて構成されているという。

「ダークイーグル」は、インド太平洋地域に3個部隊が配備されるとされているが、今のところどの地域に配置するかは明らかにされていない。米国本土だけの配置では迅速対応ができないのは明らかなので、インド太平洋地域のどこかに前進配備するのは間違いない。

この「ダークイーグルミサイル」の韓国配備を金正恩は恐れているのだ。4月10日の党中央軍事委員会で、金正恩が韓国の地図を映し出し指さしている場面があったが、「ダークイーグル」対策を語ったかもしれない。このミサイルが韓国の平沢(ピョンテク)市にある米軍基地(キャンプ・ハンフリーズ)に配備されれば、平壌へは1分、北京は3分で精密打撃できるからだ。

そうなれば、今北朝鮮が見せびらかしている各種短距離ミサイルの原点遮断が可能となる。それは北朝鮮の各種短距離ミサイルで無力化状態に陥っていた韓国の「キルチェーン(策源地先制攻撃)」復活を意味する。金正恩が不眠症に陥るのは当然だろう。

金正恩はいま、韓国支配を実現するために「敵がいかなる手段と方式によっても対応が不可能な多様な軍事的行動方案をつくる」として「国防計画5カ年計画」の完成を急いでいるが、しかしそれが完成された頃には、米国によって、とてつもない新兵器が開発されているかもしれない。

金正恩は「走るやつがいれば、その上をゆく飛ぶやつがいる」との格言を噛みしめる必要があるようだ。

トップ写真:米韓合同航空訓練の様子(2023年3月19日)出典:Photo by South Korean Defense Ministry via Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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