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.国際  投稿日:2023/5/31

北朝鮮、「偵察衛星」発射の意図


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#22

2023年5月29日-6月4日

【まとめ】

・31日朝、沖縄に「Jアラート」が鳴った。

・北朝鮮は偵察衛星打ち上げというが、実際は新型ICBMのテストのためだろう。

・米国に届く核弾頭ICBMの実戦配備を意図。

 

アメリカのMemorial Dayの3連休があったせいか、欧米から見た今週の世界の動きは意外にネタが少ない。

5月29日月曜日 ナイジェリア新大統領就任 

【就任式は厳戒態勢で行われたが、野党側は選挙結果に異議を唱えている。新大統領の得票率は37%、1999年の民政移管以降で最も低かったそうだ。ナイジェリアでは長年民族・宗教的分断が続き、2月の大統領選では暴力沙汰も発生、選挙についても不法行為への懸念が浮上していたという。前途多難の門出である。】

5月30日火曜日 WTO紛争解決機関会合 

【WTOが国際経済問題のルール作りの舞台から消えつつある。今の米中経済問題だって、本来ならWTOで議論されて然るべきだが、皮肉なことに、中国を加盟させてからのWTOは機能低下が著しいようだ。昔、と言っても1990年代中ごろだが、WTOで貿易交渉官をやっていた筆者には、ちょっと寂しい話である。】

6月2日金曜日 シンガポールでアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ、3日まで)

【岸田首相が参加すると報じられていたが、これも外交的に正しい動きだ。米中国防相会談については下記参照。】

6月3‐4日土曜日 「OPEC(石油輸出国機構)プラス」閣僚級会合 

【OPEC+の減産は一定の効果があったようだが、今後の見通しを考える上では今回会合の内容が気になるところだ。】

6月4日日曜日 天安門事件から34年

【今でも、というか、これまで以上に、中国では「六四」への言及はタブーである。当時の学生たちもそろそろ高齢者の仲間入り。学者であれ、ジャーナリストであれ、外交官であれ、あの事件を実際に北京で目撃した外国人も同様だろう。あの時の情熱というか、エネルギーは一体どこへ行ったのか。まだ、関係者の心の中に残っているのか、若い世代に受け継がれているのか?今はその調査すらできない状況だ。】

今週はポスト広島サミットということで大きなニュースはないかと思ったが、先ほど沖縄県に対し「Jアラート」が鳴った。北朝鮮は「偵察衛星を打ち上げた」というのだろうが、そもそも半信半疑。筆者は宇宙技術の専門家ではないが、素人が考えても、一体どんな衛星を打ち上げるというのだろうか。

偵察衛星なら一つだけでは実用運用には不十分だし、静止軌道に乗せるなら南方向には打たないのではないか。どう考えても、新型ICBMのテスト、しかもある程度技術的に進化したバージョンを試験していると見るべきだろう。「何の意図で打つのか?」とよく聞かれるが、意図は米国に届く核弾頭ICBMの実戦配備である。

NYTを読んでいたら、中国の「ピン芸人」が国家主席の解放軍関係発言を茶化したジョークを言っただけで、2億円以上の罰金と無期限活動停止に追い込まれたという喜劇(悲劇)を報じていた。詳しくは今週の産経新聞をご覧頂きたいが、要するに独裁政治が行き着くところまで行けば、庶民の「笑いのスペース」が失われるということ。

独裁政治下でも、権力者を「笑い飛ばす」ことで一般庶民は何とか我慢して付いてくるものだ。笑いという貴重なスペースの喪失は、1966-76年の文化大革命時代でもなかった、と昔聞いたことがある。哀れな北京の「ピン芸人」の末路は「喜劇」にもならない、中国社会の新たな「悲劇」だとしか言いようがない。

〇アジア 

アジア安全保障会議の際の米中国防相会談を中国側が拒否したそうだ。中国側は「アメリカは直ちに間違ったやり方を正し、誠意を示して、両軍の対話や意思疎通のために必要な雰囲気と条件を作るべきだ」と批判したそうだが、まるで理由になっていない。解放軍は、昔の帝国陸軍と同じように、米国との対話を拒否しているのか。

〇欧州・ロシア

ウクライナの陰でコソボが荒れている。セルビア系住民のデモ隊がNATO主導平和維持部隊と激しく衝突し、治安の悪化が懸念されている。コソボはコロナ禍前に行ったことがある。同地はセルビアの古都だが、人口的には圧倒的にイスラム・アルバニア系が多数。このままではセルビアのEU加盟交渉進展は難しいだろう。

〇中東

イラン最高指導者が公式訪問中のオマーン国王にエジプトとの関係修復を「歓迎する、問題ない」と述べた。サウジアラビアに続きエジプトとも正常化が進みそうだ。ということは、「サウジ・イラン仲介は中国外交の成果」ではなかったということ。今中東湾岸地域では新たな外交的均衡に向かって地殻変動が起きていると見るべきだ。

〇南北アメリカ

米政府債務の上限停止問題がまだ燻っている。共和党強硬派は大統領・下院議長合意案の歳出削減は不十分と主張、31日に下院で採決できるか見通せない状況だそうだ。ここでマッカーシー下院議長の指導力が問われるが、彼は議長選出に15回もの投票を要した「弱い政治家」だ。相変わらず、アメリカの民主主義はややこしい。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:北朝鮮の金正恩委員長が、東海に向けて短距離弾道ミサイル8発を発射したという報道を見る韓国・ソウル駅の人々の様子。(2022年7月5日 観光・ソウル)出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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