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.国際  投稿日:2022/10/7

日本が育てた覇権国家中国 日中国交50年の反省 その2


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・強大な中国の誕生には日本の支援が大きかった。

・その支援の理由の一つに中国側への贖罪意識があった。

・ODAが民間の貧困救済や人道支援に使われた部分はほとんどゼロで、共産党政権の富国強兵を推進する結果になった。

 

日本から中国へのODA(政府開発援助)供与はなんと40年も続いたのだ。2018年10月、安倍晋三首相がついに終結を宣言したのだった。それまでの対中ODA供与の総額は3兆6000億円にも達した。そのうえに前述の資源ローンを加えれば、日本から中国への援助総額は実際にはなんと約7兆円という巨大な金額だったのである。

この7兆円というのは繰り返して述べるが、日本政府からの贈呈に等しい支援、しかも本来、日本国民に帰属すべき公的資金なのである。この巨額の資金がみな中国の国家建設に投入されたのだから、強大な中国の誕生には日本の支援が大きかったといえるわけだ。このODA支援のほかに日本の企業やその他、民間からの中国援助も莫大な規模となっていた。

当時の日本側にはとにかく中国を助けたいという心情が広範にあったといえる。一つには日中戦争で日本軍が中国各地に出撃して、明らかに中国側に被害をもたらしたことへの贖罪意識があった。そうして日本軍の軍事行動への戦時賠償としては日本は東南アジア諸国には多額の資金を支払っていた。だが中国には払わなくてもよいこととなっていたのだ。

この事実は戦後の中華民国(台湾)の態度がそもそもの理由だった。戦争中に中国側で日本の主敵だったのは中華民国政府とその軍隊だった。その中華民国の蒋介石総統が戦後、『以徳報怨』(徳をもって怨みに報いる)として日本への賠償請求権を放棄したのである。中国本土を制覇して、中華民国の政府や軍隊を台湾に追いやった中華人民共和国は日本に対して蒋介石総統のとった態度を受け継ぐ形となったのだ。

しかし現実には中国側には日本からの賠償を期待する意向は強かった。だから中国側からみる限り、日本の対中援助にはその意味あいも微妙な形で含まれていたといえる。

そんな理由もあったのだろう。だがいずれにしても中国政府は日本からの経済援助を自分の国の一般には隠すという態度をとったのである。日本からカネをもらうことを恥じるという心理もあったのかもしれない。

いずれにしても日本のODAは中国の国家の骨組み建設への正面からの貢献となっていった。まずこの援助は政府から政府への資金の提供だった。その援助の対象はすべて中国側からの要請により選ばれ、大部分が経済開発のインフラ建設に投入された。鉄道、高速道路、空港、港湾、通信網などの建設だった。

中国全土の鉄道の電化の40%、港湾施設の15%が日本のODA資金で建設された。他の諸国が中国のこの種のインフラ建設にはまったく援助を出さなかったことを考えると、驚嘆すべき中国政府への貢献だったといえる。

日本のODAの公的資金が中国側の民間の貧困救済とか人道支援とかに投入される部分というのはほとんどゼロだったのである。中国共産党政権の富国強兵の国是をまともに推進する結果となったともいえる。

しかも日本の対中ODAの金額は1年ごとではなく5年単位の一括供与方式が採用されていた。だから5年分で1兆円近くの巨大な金額が決められたのだった。そしてその援助は中国政府の5年単位の国家開発計画にシンクロナイズされていた。中国の同計画の国家予算に日本のODA資金が最初から組みこまれていたのである。

日本政府のODAの長い歴史でも特定の一ヵ国に5年分の援助総額を一度に決めてしまうという事例はなかった。通常はすべて1年ごとに各国への援助の総額や内容を決めていくのである。ただ中国への援助だけは異例ずくめだったのだ。

(つづく。その1

トップ写真:上海郊外の大規模な住宅開発の様子 1993年01月01日 中国・上海

出典:Photo by Tom Stoddart Archive/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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