フランスの根深い人種差別問題
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・議会で人種差別やじが飛び、発言した右派政党所属議員が処分を受けた。
・フランスでは移民だけでなく、フランス生まれでも肌の色を理由に差別発言に苦しめられることが多い。
・模範を示すべき議会での差別発言は「フランスの価値観の共有」の意味が再認識される重要な機会になった。
フランス下院に当たる国民議会の審議が行われていた際、黒人議員の発言中に右派議員が「アフリカへ帰れ」とやじを飛ばし大きな波紋を広げている。
やじを飛ばしたのは右派政党・国民連合(RN)のグレゴワール・ドフルナス議員だ。左派政党・不服従のフランス(LFI)のカルロス・マルテン・ビロンゴ議員が、政府に対し、欧州連合(EU)諸国と協力して、地中海で救助されたアフリカからの移民数百人を支援するよう求めていたことに対してのやじだった。
この発言を受け、マクロン大統領も即座に「人種差別発言にショックを受けた」とし、侮辱された議員への支援を表明した。また、ボルヌ首相も「わが国の民主主義に人種差別の居場所はない」と強く批判した。
しかしながら、発言したドフルナス氏は「ビロンゴ氏に対してではなく不法移民に対しての発言だった」と弁明し、当時RNの党首であったマリーヌ・ルペン氏もそのように擁護した。
フランスの国民議会で人種差別的発言
実際のところ、このやじが誰にむけられたのかという点ではあいまいである。フランス語は単数形と複数形が存在するが発音自体は同じだからだ。「アフリカへ帰れ」とやじが飛んだものの、それが個人に対してなのか、複数の人々に対してなのかの判断はできないのだ。
また、やじを飛ばされた側のビロンゴ氏も、これが初めての答弁でもあり緊張していた可能性もあるが、やじを飛ばされた瞬間には自分のことを言われたとは受け取っていない様子だった。どちらかと言えば、その周辺の議員たちが「人種差別発言である」と認識したようにも見える。
残念ながら、このようなことは日常でよくあることだ。筆者も同様なことを何回も経験している。なにか侮辱的表現を投げかけられても、そんな言葉を使って侮辱するという発想がない場合は侮辱だと理解できないが、それを侮辱的表現として使用されている環境で育った人々の間では、その意味は完全に侮辱であると認識するのだ。今回の発言も明らかに大多数が「人種差別発言」と受け止めたのである。
その後、ヤエル・ブロンピベ議長が、「その対象が誰であれ、人種差別は議会でわれわれを一つにしている共和国の価値観に反している」と結論づけ、大多数が処分に賛成した。
結果、フルナス氏は、15日の登院停止と2か月の議員報酬半減という、議会規則の中では最も重い処分を受けることとなったのだ。
共和国の価値観を共有するのがフランスの規則
この判断はかなり重要なことでもある。なぜなら、巷の日常であたりまえのように行われている人種差別的な発言が、今回、議会というテレビでも生中継されていた公の場で再現されたうえ、発言した側が「フランスの価値観に反している」と処罰されたからである。
やじを飛ばされた側のビロンゴ氏も、「この発言に対して制裁を待っているフランス人は何百万人もいる」と述べていた。実際、フランス生まれのフランス人であっても、肌の色などを理由に、日常的にこういった侮辱的な差別発言に苦しめられることが多いからである。
また、フランス共和国にとって重要とされている「フランスの価値観」が再認識されることにもつながった。フランスは共和国の価値観を共にすることで市民共同体を構築している国だ。しかし、今までは一方的に移民や、移民の2世、3世に「フランスの価値観の違反」が投げかけられることが多かった。その結果、「多文化主義」は否定され、たとえ移民の2世、3世であっても排除される傾向が問題になっていたのである。
しかし「フランスの価値観」を共有するというのは、土着系フランス人のみを尊重することを指しているわけではない。同じ価値観を共有し、市民共同体となり市民としての連帯を促すことが目的なのである。
だからこそ模範を示すべき議会においてフランスの価値観に反する言動は許されることではなかった。その強い意志が、今回の重い処分につながったと言えるだろう。「フランスの価値観の共有」の意味を正しく伝えるためにも、重要な事例になったことは間違いない。
参考リンク
◆France Info:『国会での人種差別発言:「彼らは私を侮辱し、私に似た何百万人ものフランス人を侮辱している」とカルロス・マルテン・ビロンゴ議員が発言』
◆BFM TV : 「議会での人種差別事件:ルネサンス、RN副代表の辞任を求める請願を開始」
Incident raciste à l’Assemblée: Renaissance lance une pétition pour la démission du député RN
◆Le Parisien : 「グレゴワール・ド・フルナス:RN議員の古い人種差別的なツイートが再浮上」
Grégoire de Fournas : d’anciens tweets racistes du député RN refont surface – Le Parisien
トップ写真:イメージ
出典:Photo by Owen Franken/Corbis via Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。