女性の権利制限がもたらす悲劇 アフガニスタンとイラン
植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・タリバン政権下、アフガン女性や女児に対する権利侵害が問題になっている。
・女性の権利侵害はイランでも大きな政情不安の要因となっている。
・世界の女性の権利と自由を守るために、国際社会の連帯行動が必要。
アフガニスタンのタリバン政権は、12月20日、女性が大学で学ぶ権利を剥奪した。それに続き、12月24日には、アフガニスタンで活動しているNGOで女性が勤務するのを禁止した。これに対し、ノルウェー難民委員会やセーブ・ザ・チルドレンなどアフガニスタンで人道支援活動している5つの国際NGOは活動の中止を発表し、国連もこのような制限を批判する声明を出した。
グテーレス国連事務総長は、アフガニスタンで困窮している人達、特に女性や女児への支援が滞るとして、2800万人を超える人達への人道支援を行なっている国連や国際NGOへの深刻な影響に懸念を表明した。チュルク国連人権高等弁務官も、アフガン女性や女児への残酷な権利侵害であり、アフガニスタンの国際条約遵守義務に反するものだとした。タリバンは政権を握った2021年8月以来、中等教育からも女子生徒を締め出していたが、その他にも移動の自由や働く権利、公園やジム、公共浴場を使用する自由なども禁止している。
国連のアフガニスタン派遣団(UNAMA)は、女性の働く権利の剥奪は、アフガン経済にも深刻なダメージを与え、GDPの約5パーセント、額にして10億ドル以上の損失になるとの試算を示し、女性の教育機会の剥奪は、さらに経済の低迷に拍車をかけるとして警告している。
女性の権利侵害はイランでも大きな政情不安の要因になっている。9月に起きた風紀警察によるクルド系のアミニさんの死亡をきっかけに抗議行動が全土に広がっており、鎮静する状況にはない。人権活動家通信社(HRANA)によると、既に69人の子供を含む500人以上が抗議行動で殺害され、2人が政府により死刑になり、少なくとも26人が死刑の判決を受け、拘束された人は18,000を超えているとしている。
100日に及ぶ抗議行動は、単なるヘジャブの着方をめぐる問題以上に、特に革命を知らない若い世代の自由の束縛への反発や西側諸国による経済制裁で困窮に苦しむ社会層による神学政権への不満の爆発とも言える。イランは、外国勢力が扇動しているとして、米国やイスラエルを名指しで挙げ、さらに最近では英国とイランの二重国籍を持つ7人を拘束し、英国が扇動しているとして非難している。
カタールで開催されたサッカーのワールドカップで、イランの選手たちが国歌を歌うのを拒否したことは記憶に新しい。元サッカー選手のアリ・ダエリ氏が抗議活動を支持したとして、家族が飛行機で外国に出国できないといった事態まで起きている。
独断の宗教的解釈によって女性の権利を剥奪・制限する動きは、女性の権利を守るさまざまな国際宣言や条約に逆行するだけでなく、そのような社会に住む女性の自由を奪い、社会の硬直性を生んでいる。国際社会は、持続可能な開発目標にジェンダー平等と女性の地位向上を謳っている。世界の女性の権利と自由を守るためには、国際社会の忍耐強い連帯行動が必要とされる。
トップ写真:大学で学ぶ権利を剥奪されたことに足して抗議活動を行う女性たち(2022年12月22日、アフガニスタン・カブール) 出典:Photo by Stringer/Getty Imag
あわせて読みたい
この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授
国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。