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.国際  投稿日:2022/12/7

既成の国際秩序への挑戦 【2023年を占う!】国際情勢①


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・新しい年の第一の国際的な展開はアメリカ主導の国際秩序への挑戦である。

・中国、ロシア、イラン、北朝鮮などが、この国際秩序にチャレンジしてきた。

・日米同盟や北大西洋条約機構が揺らぐことは、日本にとって国家安全保障の土台を失いかねない国難となりうる。

 

 さて新しい年、2023年の世界ではなにが起きるのか。

 国際情勢はもちろん人間の暦を気にはしない。旧年が終わったら、年が始まったから、という区分によって新たな事件や潮流が起きるわけではない。

 だが人間社会ではどの国でもカレンダーの区分は一種の活動の節目とはなる。人間は旧い年の終わり、新しい年の始まりに、ふっと立ち止まって、過去を回顧し、未来を展望することがごく普通だからだ。このあたりに新しい年の出来事を占うという作業の意味があるのだろう。

 私は2022年という旧年もアメリカの首都ワシントンを第一の拠点として報道や研究の活動を続けてきた。日本での同様の活動ももちろんあった。そんな体験を基礎として2023年を展望すると、いまの世界では新たな出来事や傾向としていくつかの事象が予測される。しかもかなり具体的で明確な事象である。

 それら2023年の新たな国際的事象について今回は7つの具体的な展開に区分して、個別に報告したい。当然ながらそれら変動の諸展開は相互に関連し、からみあっている。だがそれぞれの要因の特徴をわかりやすく認識するためにはある種の分類は有益だと思う。

新しい年のまず第一の国際的な展開はアメリカ主導の国際秩序への挑戦である。既成の国際秩序への挑戦の継続と評してもよい。

 第二次大戦後の世界ではアメリカが主体となって築いた国際秩序が基盤となってきた。国際連合、北大西洋条約機構、日米同盟、さらには世界銀行や世界貿易機関へと発展する自由貿易システムなどがその骨組みである。

 その国際秩序には当初はソ連共産党政権という最大の敵対勢力が存在した。だがいわゆる自由民主主義陣営はこの国際秩序を堅持した。民主主義、人権、法の支配などを根幹とし、1991年にソ連共産主義政権が崩壊してからは、この国際秩序はグローバルな普遍性をますます強めた。日本ももちろんこの秩序の有力な一員であり、主要な受益者だった。

 ところがこの国際秩序に近年、正面からの挑戦者が登場してきたのだ。具体的には2013年ごろからの中国による南シナ海での軍事膨張、2014年のロシアによるウクライナ領クリミアの軍事併合が顕著な前兆だった。

 その後、中国がとくに既成の国際秩序や国境を自国に有利な方向へ強引に崩していく動きが目立った。アメリカではトランプ前政権が2017年12月に発表した国家安全保障戦略で「中国はインド太平洋地域でアメリカに取って代わり自国の国家主導型経済モデルを拡大し、地域全体の秩序を中国の好む形に変革しようとしている」と言明した。

バイデン政権が2022年10月に出した国家安全保障戦略でも「中国は国際秩序を自国に有利な形に再編成しようと意図している」と述べて、中国のそのための軍拡への警告を発した。バイデン政権はロシアも規模や目標は異なるがアメリカ主導の国際秩序にはチャレンジしてきた、とも言明した。

 アメリカへの敵対や反抗という点ではイラン北朝鮮も同様である。

 この現行の国際秩序への敵対や挑戦は戦後の世界でも最大の歴史的な変動だといえる。そして2023年にはこの変動が依然、新たな国際的潮流として続くことが確実なのである。

ではこの潮流は日本にとってなにを意味するか。

アメリカ主導の国際秩序の揺らぎや崩れの進行は、その秩序の主要受益国だった日本にとって存在の基盤を壊されかねない危険を含んでいる。その既成の秩序の骨格を築いてきた日米同盟北大西洋条約機構が揺らぐことは、日本にとって文字どおり国家安全保障の土台を失いかねない国難となりうるのだ。

(2につづく)

トップ写真:ホワイトハウスで、貨物鉄道法案に署名前に挨拶をするバイデン大統領。(2022年12月02日 ワシントンD.C.)

出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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