和平交渉の糸口見えず【2023年を占う!】ウクライナ
植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・ロシア、イランからドローン購入し戦力補充、長期化に備える。
・ウクライナ、米国電撃訪問や武器供与要請から反転攻勢の構え。
・ウクライナ・ロシア双方とも勝利を目指しており、和平交渉の糸口は見えてこない。
12月21日にワシントンを電撃訪問したゼレンスキー・ウクライナ大統領は、バイデン大統領との会談や米国議会での演説で、米国のウクライナ支援継続の必要性を説くとともに、より強力な自衛のための武器の供与を要請した。
米国政府は、これまで躊躇していたパトリオット地上配備型遊撃ミサイルシステム1基を提供することになったが、最新鋭戦闘機や長距離ミサイルの提供は拒んだ。ロシア領土への反撃能力を与えることは、ロシアのより強い反発を招き、戦術核兵器の使用やNATOへの挑戦に口実を与えかねないといった懸念が背景にある。
米国の先の中間選挙で共和党が下院で多数を占め、共和党右派の中にはいつまでもウクライナへの軍事支援を上限なく継続することに反対の意向を示している議員がいるため、今回の訪問で、1月の新議会が発足する前にウクライナ支援への支援を固めておく狙いもあった。
12月19日にはプーチン大統領がベラルーシを訪問し、ベラルーシとの軍事協力をより強化しようとしていると推測されているが、ウクライナのザルジニー総司令官は、ロシアによるベラルーシからの再度のキーフ攻撃は新年の最初の四半期にありうると強い警戒感を表明している。
ウクライナのレズニコフ国防大臣も、ロシアは現在再軍備のために時間稼ぎをしているとしている。また、停戦へ向けた外交交渉に対しては時期尚早との見方をしており、ロシアの敗北なしでは平和は達成できないとの見解だ。
他方、プーチン大統領も、ウクライナ東部や南部での戦況は厳しい状況にあるとの見解を表明しているが、30万人の新規に動員し、劣勢を挽回しようとしている。既に新規動員の半分は前線に送られ、残りは訓練中と言われている。ロシアは、イランからのドローンの購入などで自国の戦力を補充しており、長期化に備えている。
冬になってから前線での戦闘の膠着状態が続くと予想されたが、ロシアはウクライナへのインフラ施設への攻撃を激化させ、ウクライナの戦闘継続の意思を挫く作戦を行うとともに、ドンバス地方のマフムト攻略に大規模な戦力を投入している。ウクライナ側も応戦しており、反転攻勢の構えを見せている。
米国は、これまで500億ドルの支援をウクライナに与えており、その約半分が軍事的支援に使われている。上院で可決された補正予算でも136億ドルの支援が追加され、来年の支援は450億ドル程度に上ると予想されている。長期戦を前提としていることが分かる。
戦争の行方がどうなるかは、地上での戦闘がどのような形で進展するかにかかっており、ロシアもウクライナも引けない状況になっている。現時点では、双方とも勝利を目指しているため、和平交渉の糸口は当面見えてこない。ロシアもウクライナも10万人規模の死傷者が出ていると言われている。ロシアがさらに増える死傷者にどこまで耐えうるかが一つの目安になるかも知れない。
トップ写真:ゼレンスキー大統領とバイデン大統領がホワイトハウスで会見(2022年12月21日)出典:Photo by Alex Wong/Getty Images
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この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授
国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。